長靴をはいた獅子
「で、そこまでしている姫君を追わないのか?」
「かまわないさ。怪物から逃げるお姫様はそのまま自由になればいい。<去る者は追わず来る者は拒まず>、戦場でのぼくの方針だ」
「ははっ、何と戦ってんだよ。ここは戦場じゃねぇぞ、ここは大人も子供も寝たくないと駄々をこねるクリティアス帝国首都エーテルだ。戦場なんざ忘れろ」
「ぼくは最低最悪な男だから遊んでいる暇はない」
おいおいニレン、お前はつくづく女心を分かってねぇ男だよ。気づいていてそうしているのなら、自称大英雄の兄のおれが女性というものを教えてやろうではないか。
「お姫様はお前に追いかけられることを期待していたのさ。追うならまだ間に合う、今から捕まえて女性としての立ち振る舞いを教えてやればいい。人間であるにも関わらず結晶人を超えるあの美しさに不愛想は似合わなすぎる、そうとは思いませんかな? 大英雄ニレン殿」
「全然思わないよ、彼女はあれでいい」
というニレンの発言を聴いたおれは、上流階級の人間役を真似て演じることにした。
「そうですか。しかし第五世代は不妊体質ではない、つまり――貴公はいつか第四世代の女か、人間のくせに顔体が整った女と一緒になり赤子をこさえるはずです。そこで、結晶人を超える美貌を持つエイダ姫の登場はまさに運命的だろうし、イザヤ王は貴公を手に入れれば新たな皇帝へとなりえましょう。誰も損してない最高の時代の幕開けですぞ。どうですかなニレン殿? わたくしのような《長靴をはいた猫》が運命的な再開を演出してやるというのは……」
今も昔も童貞や処女でもこどもを作れる時代、その人口制御できる変化のない時代にヘンテコなお前が生まれ落ちたということなら――お前には次代の皇帝になってもらいたい、そのためにもイザヤの姫君の血と交配してもらいたいのだ。
「美しいものは好きだけど、このセカイで子孫を残そうなんて思わないよ。なにせ、このセカイでは生き続けることが最も重要なんだ。そのために自分の能力を高めることや、他の同士を盾にすることや、女こどもを犠牲にすることなんて厭わない。主人公は自分だ、一度きりの人生で目的になりうる花を見つけられた今、人間でも神でも関わってくるなら全力で潰すだけだ」
予想に反する意味不明発言のせいでニレンはつまらない奴とハッキリした。長靴も袋も用意してくれない主人公には心底失望してしまう、自らチャンスを潰すような主人を持ってしまった猫は他の家猫になってしまうぞ。
「いつもの大英雄ニレンの発言とは思えないね」
帝国民を潰せていないお前に虚言を吐かせてしまうとは……おれは遂に勝ったのか。
「アザミは知らないだろうけど、エイダ姫は男よりも男らしく女よりも女らしい、そういう女性だ。だからイザヤの純血は衰え知らずなんだよ」
「姫君とは初対面だろ? 抱いてもいないのに評価高いねぇ」
「そっか、一瞥で分からなければ凝視しても分からないか」と、ニレンは顎に手を当ててから「もう抱いたさ」姫君との間には何もなかったかのように言ってくる。
なるほど、相性が悪かったのか。まぁ、大英雄ニレンでもそんな時があるさ、落ち込まず明日を見ろよ。失敗もあるさ、その失敗の味を忘れないようにするんだな。




