最低最悪の男
「どこかで聞いた噂話なんだがな――エイダ姫は男性としての立ち振る舞いを教え込まされていたんだとさ。二十歳を超えて少女らしい会話を一切したことがないって想像すると、悲劇の姫君だよな」
「そういう噂が広がるのは仕方ないさ」
「そう、現在のイザヤ王は女性蔑視で有名だから噂は仕方ない。女をバカにしておきながら自分は女の股座でイッちまうなんて面白い話だよな。だからこんな噂が広まるのさ」
「そうだね。アザミが広めたその噂は噂なんかじゃなく事実だよ」
噂じゃないって知っているならどうして姫君にあのような態度を取るんだよ。あれは観客に披露できる騎士道物語じゃなかったぞ、男らしく育てられた姫君が初めて少女らしい会話をしようと努力して、それでお前はだんまり。あれは酷い絵面だった。
「ははっ、おれが広めた噂って大英雄はお見通しですか」
「君がしている噂話のおかげで、都だけでなく遠くの町や村にまで話題が絶えさせないのは大いに結構。鋭い勘も饒舌もアザミの悪い癖だ」
「悪い癖なら治らん、なぜなら先天的性質だからだ」
他人の悪い癖を指摘するのは構わないけど、お前も言えたものではないはずだ。結晶に関して言えば先天性も後天性も伸び代は非凡、しかしお前の人間性はゴミより酷い伸びだ。
「イザヤ王も娘じゃなく息子が欲しかったのならY染色体の精子だけを選別すればよかったのにな。そうしていればイザヤ王も満足、大英雄ニレン様も姫君を泣かせはしなかった」
「エイダ姫が泣いていたのか……」
ああ、泣いていたね。お前にプライドを傷つけられただけじゃなく女として見られていないことにな。あの涙は王族の男として育てられた女が流すような涙ではなかった。報われなかった乙女が人知れず溢れさせる涙だ。お前に見られなかったことが姫君の一番の救いだろう。
「ニレン、お前は最低な男だ」
「うん、昔からぼくは最低な男だよ」
「いいや、最低最悪だ」
「そうだね、ぼくは最低最悪だよ」
こいつにも困ったものだ。何を言われても涼しい顔をしてくれる、どうせ他の生物を下に見ているんだろ。己は最低最悪だけど、己より弱い生き物は生き物とは言えないってことだろ。
おれはため息をつくことを一時停止させようと己を操作した、しかし出るものは仕方ないので一コマ飛ばしてため息をつく。これが長編漫画であれば、おれが描かれているページ全てがため息だらけではぁはぁと疲れていたり興奮していることだろう、実にめでたいことだ。
「大英雄様よ、お前は最高に運の良い男なんだぞ」
「運は捨てた」
「いや、持っている。今年の祭りは過去最高の祭りになっているだろ、建国記念祭に加えておれたちの帝国がセカイの半分を手に入れた記念の祭だ。その功績を上げたのはお前だぞ、もっと楽しめばいいだろ。さっきのエイダ姫もお前のためにおめかししてきたんだ。男として育てられた姫君がお前のためだけに着たこともないドレスを着ているんだ――たとえそれがイザヤ王の考えた戦略であっても、お前は結晶人の中で唯一認められているってことだ」
ここまで言えば鈍感なニレンでさえ女心というものに気付くはずだ。結晶人として生まれながら純血な人間のお姫様までもお前に夢中になっている。運が良いとしか言えないだろ。




