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十年前

 と、おれは黙り込んだ。次にニレンが何を言ってくるか気になったからだ。次代に残すのが金じゃなければ何が残る。遺書か? 遺影か? おれには分かっているぞ、お前は先代の結晶人のように結晶を残すはずだ。次代のために神の力すら凌駕する結晶で帝国民を守るんだ。それが大英雄ニレンの残す聖戦記の最終ページだ。


「……」「……」それでも結晶原石は抜けません、と言う感じで沈黙が続いてしまった。


「――んじゃ何が残るんだよ」その言葉をおれに言わせるな、言ってしまった今はもう遅いけど言わせるな。


「答えはない、己で考えて己で導け」


 だろうな、二十二になった今もおれをガキ扱いだ。定型がある世の中で答えがないのは致命的だぞ、そういうのは天才にしか答えられないんだよ。


「いやいや、大英雄殿には勝てませんな。あなたのお言葉には負けましたよ。持つ者は最初から持っていて、持たざる者は最初もその後も手にできない。残るものは何もありませんな」


「……持つ者と持たざる者が前進するか停滞するかを選んだのは十二の時だった」

なぜその話を今にするのか分からないが、おれが立ち止まった者だということは分かる。


「十年も昔の事は憶えていないね」


 何事にも本気で、負けると分かっていながらニレンと張り合って、追いつけもしないのに追いかけて……今考えてみれば、あの頃がおれは全盛期だったのかもしれない。元は黄金期の結晶人部隊、老いぼれちまった今は隠居生活も自宅警備も出来ない結晶の都のニート。戦場で死ぬこともない素晴らしい天職ではないか。いや、すでに死んでいるとか言わないでくれ。


「ならば思い出してくれ。剣を引き抜いてくれ」


 思い出したくもない思い出を思い出せと言うのか。こいつは老害どころではなく畜生だな。


「努力はする」努力しても無駄だと分かっている。おれは戦わなくてはならない、戦って強くならなくてはいけないのに先天性の力も後天性の力もおれを裏切ったんだ。

おれは結晶に愛されないどころか遺伝にも愛されなかった。結晶人が何もできないんじゃ、生きている価値なんてあったものではない。


 と、またしても沈黙が続いてしまった。そうなってしまうから次もまたおれが話を切り出してやろうではないか。先ほどおれが見た光景とニレンが掘り返されたくなさそうな話を、そうそう、お前の美酒の肴にでもしてはいかがかな。


「ところでニレン、さっきの姫君は帝国三大都市であるイザヤの姫君だよな」


「ああ、エイダ姫だよ。強い意志を持った瞳や少し柔軟さに欠ける態度。桔梗の花がとても似合う女性だ、似合うだけだから全然違うけどね」


 誰と比較しているのか分からんけど、姫君をそこらの女と比べるなよ。あれはイザヤの純血だぞ、結晶人みたいな変な血が関わっていい人じゃないんだよ。


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