人間たちの代わり
「人間たちの代わりに戦う。それがぼくたち結晶人だよ」
はぁ、天才は違いますねぇ、おれには一つたりとも分からないね。後は人間たちのために働くだけ働いて人生を棒に振るわけだ。自分の幸福が戦争で成り立っているからそんなことを言えるのか。お前も同じだ、追い求めることを止めたおれと同じ下らねぇ人生だ。
「戦争はビジネスだが、田舎から連れてきた雇い兵より給料は安いだろ。おれ以外の結晶人一同に言えることをここで言うとだ――戦場は死ぬ覚悟で挑む、そんな仕事は割に合わない」
「高くはないだろうけど、高い給料を貰わなくても贅沢できるようにシステム化されているからね。成長してしまったぼくは、知識の渇望や善悪の渇望や大罪の渇望なんてしなくなったよ」
なら停滞していてくれ、この戦争も緩やかな発展もお前の成長も全て結晶の中で止まっていてくれよ。もう終わりにさせてくれ。
「結晶人の子供を戦場に行かせるのは外道のすることだ。だからお前が、道理もわきまえないバカ殿どもを再教育しなくちゃいけないんだよ」
「言っても教育しても無駄さ。エンルル側には戦場であってもこどもを撃てない人間が今でもいる、そういう人間の心理を狙って子供たちに人殺しをさせる。それに若いうちに戦場を経験するのは伝統のようなものだよ。子供たちも楽しみにしているんだ、死ぬかもしれないのにね」
どうして結晶人の子供が戦場を楽しみにしているかお前には分からないだろ――お前のような恥も外聞も無い神殺しに憧れたからだ。もしおれのような寝太郎に憧れていれば、若い芽が摘まれることもないのに……ニレン、お前は間接的外道だ。
「酷い職場体験もあったものだ。人間の場合、子が死ねばその子の親は働く理由を失うというのに。精子提供や卵子提供した人間共は何も思わないのかね」
「ヒトとして扱われて、良き暮らしを共有して、イジメや差別もない。今まで見てきた種族の中で結晶人は人間に可愛がられている方だよ。良き意味でね」
お前には分からないことだらけだから、どうして結晶人が可愛がられるかも分からんだろ。世の中の良き犬猫と同じ扱いされているからだ、結晶人は動物だからだよ。
「おれはイジメられているぞ、貧乏だからな。こどもの成長には大損害が出ても金をかける、それは当たり前だが、見ての通りおれには貧乏神が憑いているんだよ」
「お金がなくても衣食住の他に娯楽もできているのだから贅沢しているさ。けれど帝国は華やかであっても花はないし、花はあっても花はないし、これ以上欲しい物なんて無いのかもしれない。アザミも薄々気付くころだ……」
すでに気付いているし何も解決してねぇし訳分かんねぇよ、このガキンチョめ。
「お前だって老後の金くらい欲しいだろ」
「極論、お金はなくてもいいんだよ」
「おいおい、結晶人にこども作った奴がいるか? ――いないだろ。つまり、系譜で言うところおれたちは死に物狂いで働いて稼いで、田舎にある広い土地を買い、小さくてもいいから家を建てなくちゃいけない初代ってことだ。人間が人間であるための純粋な血統を維持している土地に、結晶人みたいなよくわからない生物が金なしに行けるとでも思っているのか? 超の付くド田舎は超純潔の超純血じゃないと仲間外れにされるぞ」
特にお前はヒトを殺しているんだ、首都や大都市にいた方がまだ目立たないね。
「それじゃあ、ぼくの心配じゃなくて自分の心配をするべきだね――ここは首都なんだよ」
そりゃあ、実力がなくちゃ生きている意味がないような場所だからな。都会の風の方が冷たいし厳しいだろうよ。けれどな、おれは条件付け教育されたから都会に慣れてしまったのさ。
「首都であろうと金は必要だ。老後を田舎で暮らすための金もな」
「老いた後も次代のために残さねばならない。その残すものは金銭などではない」
はいはい、立ち止まらないジジイは事故って死ぬのが落ちだ。
今の支配層のほとんどは金があっても金金うるせぇ奴らだ、借金背負った貧乏人よりうるせぇから質が悪いどころじゃない。かつての支配層は金がなくても四季折々の服を持ち、海の幸と山の幸の食を腹いっぱい食い、どでかい庭とどでかい家を持ち何不自由なく暮らす、加えて金が減ってきたら自分の頭と体を使って生み出せるような奴らだったのに……ほんと、お前はかつての支配層より上の支配層になっちゃう気かな。




