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誕生日おめでとう

 ところでニレン、何をやっているんだよ。イザヤの姫君はこころ優しいおヒトじゃないか。二十二になったおれたちはすでに夢を追いかける少年を卒業しているだろ。無き夢を追うためにお姫様を泣かせて何が楽しいんだよ。お前が何も言わないからおれが振られたじゃないか。清掃ボランティアに来たおれでも床に落ちたお姫様の涙を拭きとったりはしないぞ、鈍感でバカなお前が拭き取ってくれよ。


 ほんと、お前はどうしようもない弟だよ。イザヤ王は純皇帝派だぞ、この出来事のせいでお前以外の結晶人の夢はまた一歩遠のくんだぞ。分かっているのかよ。


「やあアザミ、誕生日おめでとう」


 と、おれに気付いたと思えば、次にその下らない言葉を並べるだけじゃ飽き足らず、業務的な笑みを浮かべるのは目の前のニレンの他に誰がいよう。もしもニレンと同じようなヒトがいたなら、おれのストレスは景気の良いことになってしまうけれど、そうならないことこそが聖戦も終わらない現実(デフレスパイラル)なのだ。いや待て、ニレンの他に悪の根源カグヤ殿がおったな。


「はっ、おれたちは今日で二十二になった。帝国兵士の中じゃあ引退した老いぼれだ」


 長生きは発展の基と言うらしく、良いことなのか悪いことなのか、はたまた良くなるか悪くなるか。そう考えたところで良くも悪くもないのが世の常。その良くなるかもしれないチャンスを潰してくれてありがとな、ニレン・ユーサー・ペンドラゴン殿。このボケ年寄り。


「まだ二十二だよ。そこまで老いてはないし、戦場で死なない限りは引退もできない」


「帝国兵士が生きていられる期間は平均して十九年だぞ? おれたちは十分ジジイだ、それも引退後の貯蓄もない死に損ないのな。老いては事を仕損ずるってよく言うだろ――焦るなって警告をしたとして、老いては防げぬ事故も世の中にはあるのだよ」


「寿命で死んでいるわけじゃないさ」


 おいおい老害ニレン、おれの渾身のボケを普通無視しますかね? まあ老いてしまえば他人の話なんて一割聴くだけでもボケてない証拠になるのだろう。しかしニレン、お前はジジイなのに急ぎすぎたようだな。


「寿命じゃなくとも十九年だぞ、死に急ぐには急ぎすぎだろ。結晶人が人間たちのように一人のヒトを集団でイジメて自殺にでも追いやっているのか? あり得ないね、現在進行形でイジメられているおれにですらケントやらリジーやらの話し相手がいる」


「帝国兵士が長く生きられない理由は『戦場で死んでしまうから』って理解しているだろう? 長く生きていたいなら解決法だって用意されている――『勝ち残ればいい』って最適解がね」


『それでも死ぬのが戦場だ』そう言わないのがニレンだが、お前の頭の中は若い戦死者の言霊で溢れかえっていることだろう。嬉しいか? 悲しいか? お前は何も感じないだろうな。


「その戦場で死に損なったおれは解雇された身だ。それで今は警備職もクビになってしまい、無職という天職に再就職してしまった」


「うん、聞いたよ。アザミが解雇されたことは聞き飽きたけど、一つ訊ねたい」とニレンは人差し指を立てて、「いつもどうしてクビになるように立ち回るんだ……」


 ニレンともあろう者がそんなことも分からねぇのか? 無職はこだわりが強いし無駄にプライドが高いんだよ。個性やらこだわりやらプライドがなけりゃ無職なんてやってないだろ。それはともかく、おれ以外の結晶人の未来は明るい。だから年寄りのおれは、未来で活躍する若者たちの邪魔を出来るわけがないのだよ。


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