不満な誕生日3
「時々は顔見せしなくちゃアルブレヒトの奴にも忘れられちまうからな。連中には、『かつて戦場にこんな愚か者がおった』という話で盛り上がるクソ人間のようになってほしくないだけだ。どうせだったらおれの所業を教訓としてくれなくきゃ豚と交配したような人間になってしまう」
「人間を信用しないのは構わないけど……たぶんぼくたちは人間の遺伝情報で造られているんだよ。アザミの言うような差別はされていないし、特に困ったこともないだろ」
おれを見ろ、いま困っているんだ、それどころか死ぬまで困ることになっているんだぞ。人間様の実験で造られて、使えないチェスの駒にされて、愛想もなければ操作もできない失敗作扱いされて、そしてどうしようもないゴミだと分かったら安楽死もせず顔も名前も忘れる。種を蒔いて忘れられたならどんな生物でも憤りを刷り込まれるだろ。
「ああ、困らないね」
この頃のおれも衣食住に困っていないが、西地区の警備職をクビになっていたから無職、そういうわけで昔のおれも今のおれも職には困っていた。
「そうだろ。じゃあ、ぼくへの用が済んだのなら祭りを楽しんでくるといい」
この馬鹿には困ったものだ。今日は祭りに加えて結晶人が立て続けに平均寿命を超えたんだぞ、楽しまなくてどうするんだよ。おれだけじゃなく、お前も楽しんでいいんだぞ。お外を見てみろ、祭りだ祭り、歩けば見世物、また歩けば美味しそうな匂い。こんな陰気臭い部屋に籠っていたら頭にキノコが生えてくるぞ。
「お言葉に甘えさせていただくよ、けどこれだけは言わせてもらう」とおれはニレンのデスクに両手をついて「ガキ共に児童書を作ってやるのはお前の趣味で構わない、しかしそんな暇があるならその性欲を失ったような面白みのない面を黄金期の連中に見せてやれよ。あいつらにまた会えるとは限らないし、今度会った時には戦場で見たくもねぇ姿に……いいや、『ニレンには自分たちの死体を見せたくない』って、あいつらがよく言っている」
この訴えともいえる発言はおれ個人の発言ではない。分かれよニレン、お前の仕事場は逃げ場じゃねぇんだ。おれと違ってお前の戦場は現実逃避する場所じゃねぇんだよ。
「そっか、ぼくは随分嫌われているみたいだね」
そうフラットに応えるニレンはヒトという生物を何一つ分かっていないようだった。
「バカか……逆だろ」
「逆……何が逆なんだい」
はぁ……馬鹿じゃなくて本物のバカかよ。じっちばっぱでも死ねば直るのに、お前は死んでも直らないどうしようもねぇ奴だな。
と、もう何も言うまいと決めたおれは、大きなため息をついてニレンのオフィスから出て行った。もちろん扉は静かに閉じてやった、物に当たるのは筋違いだからだな――だからニレンの仕事部屋の扉に『猿山の大将猿にもなれず』という張り紙をプレゼントしてやった。
第五世代の失敗作と成功作、おれもあいつも変わらず欠陥だらけのようだ。
培養壜の中のおれは何を思ったのだろう。このセカイに生を受けて、生まれて苦しくて、成長して苦しくて、能力の低さに嘆いて、逃げて逃げて、それでも生きていたくて……。
じゃあニレンは何を思っている……。
(ああ、誕生日は不満だ。無駄に年を数える日は不満だらけだ)
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