ニレンという男
「だろうな。選択権はニレンにあるからな」
「ふーん、あなたはまだ分からないんだね。可哀想に、よしよし、いい子いい子」
もちろん訳が分からなかったぞ、このクソガキ。おれの言うことに反抗するクソガキは嫌いじゃないが、意味の通じることばを使わないクソガキは嫌いだ、ひとりで分かったような気になっているニレンのようで大嫌いだ。
「分かっているぞ、相手にされないってこった。そういうわけで、ニレンは煮ても焼いても食えないからな、食おうとして逆に食われるのがオチだ。天は二物を与えず、なんて言葉はニレンの前じゃ役にたたねぇんだよ。観客に神殺しの瞬間を見せなくちゃダメダメだ」
と言うおれは、おれの頭を撫でまわしてくる母性全開の変女の手を振り払った。このおれがこれほどこども扱いされたのは新創世紀始まって以来だ。
「彼が天から与えられた才能なんて一つもないよ。彼は、ニレンは天から勝ち取ってきたんだよ。最初から才能がないなら天から勝ち取ればいいんだもの、あなたはニレンをまだまだ過小評価しているってことだね」
「はぁ? べた褒めしてんだろ。大英雄ニレン様、神を殺すニレン様、結晶に愛されるニレン様、あぁニレン様 あぁニレン様 あぁニレン様。まだ足りないか?」
「うん、まだまだ足りないよ。だってあなたから見たニレンの評価が入っていないんだもの。さっきの評価はマネキンAさんとマネキンBくんが評価したようなものじゃない。つまり、『あなただけが知っている彼の評価じゃなくて、答えを復唱しているだけのコピー人間の評価』、って言った方が分かりやすかった?」
このガキンチョめ……ニレンと同じようなこと言いやがって。他人の評価なんてそんなもんだろ、<いいね!>入れとけばハッピーだろ、ヒトの脳みそなんて年がら年中エンドルフィン漬けされているようなもんだろ。
このうるさい変女がニレンの嫁になるのはあり得ないな。もしあり得たとしても長くは続かないし、生まれ落ちる子は文字通りこの変女により谷に落とされるだろう。
「なら、いまさっき会ったおれ見てお前はどう評価する……ヒトがヒトを正しく評価してどんな真理が導き出されるんだ? 真理はあるのか?」
「真理はあるよ。《アンドロイドは電気羊の夢を見るのか?》その本はこのセカイに存在すらしていないんだけど、その本から抜粋してあなたを評価すると『あなたは結晶人でも結晶人の夢を見ない失敗作だった、けれどあなたは世界で夢を見る』だから、このセカイの終戦の舞台はあなたに立ってもらいたいんだよ」
まったく、こんなにも面白い結晶人がニレンの他にもいたとは驚きだ。第五世代にして結晶人唯一の失敗作が聖戦の舞台に立てるはずないだろ、過大評価しすぎだ。
「まるでお前は新手の詐欺師だな、高評価レビューばかり書くおかしな集団の教祖様だ」
「面白いでしょ。それで話を戻すけど、ニレンってあなたから見てどうなの?」
どうもこうも、
「昔からあいつは異質な奴だよ。お前の言った通り、才能ってのが人間か結晶人かの生まれで決まるなら、結晶人一同は持たざる者から始まった。その持たざる者たちの中で、あいつは結晶原石から【準結晶体】の器を勝ち取ったんだ。ニレンは始まりの結晶に勝った、偉業を成した、ただそれを得る代償が大き過ぎたのか、あいつの〝こころ〟はこどもの頃から大人びていた。みんなから褒められるニレンでさえ完璧とは程遠く、そこにあるのは無邪気さの欠片もない正気の狂気だった。あいつはこころから笑わない、笑うことができないのかもしれない程の不純物の無い結晶だ。だから終戦の舞台に立つのはおれじゃなくあいつなんだよ……最後に、おれはニレンより早く人工子宮から取り出された。はい、おしまい」
ニレンとおれが結晶原石によって造られたから通じる部分があるのか、それとも兄弟のように育てられたから通じるのか……まぁ、よく分からないがあいつの感情的な部分は第一世代よりも死んでいることは分かる。あれは家畜より酷いぞ、フゴフゴ、モゥモゥ、コケコッコよりも何を言っているか分からないうえに雑音を奏でやがるからな。




