リジーとの裏話
「わたしは戦場で死なないよ」
「戦場で花になるとでも?」
「ううん、わたしは何としてでも生きるの。だからアザミも生きて、こことは違う大舞台で咲かせるの――こんなところで死んでいられないんだ」
急にニレンのようなことを言わないでくれ。序破急の使い方や大舞台を滅茶苦茶にさせるのはあいつひとりで間に合っている。セカイに神は複数いるとしても、英雄は複数いらないぞ。
「まあ、生やら死やらの難しい話はしたいものではないな。そんなわけで、さっき言ったことは言わないでくれよ。もし誰かに話したら、おれはこころにショックを受けて死んでしまうかもしれない。それにおれが自殺したらさっきの約束を守れなくなるからな」
「そう、じゃあ誰にも言わないよ。秘密の箱に隠しておいてあげる」
「その秘密の箱がぜんまい仕掛けの箱じゃないことを祈っておく」
と言うおれの空は少し晴れたのだろう。晴れていなければ、今のおれの目に映らない花々があったはずだ。しかしまだまだ光量不足らしい。
「ということで、次はおれがそういえばの話をするが――スパルタ教師殿はバベルの塔建設再開についてどう思う……」
「大きな権力は人間様の特権でしょ。やるやらないも勝手だもの」
「大きな権力? 違うね、声だけがデカい奴らだ。人間の子供が受けるカリキュラムでは、叱ることより怒鳴ることが重要らしく最初に怒鳴ることを覚えさせられるそうだ。それで、怒鳴ることを覚えさせたら次に陰口を覚えさせる、その次には暴力、その次には性行為ってな。つまり声の大きさや強さでマウンティングできるから、人間社会は動物社会と同じなんだよ」
「それを言える証拠はないんでしょ……」
「結晶人を喜々として創造した人間は九割九分九厘が気違い、その現状が証拠だろ。お前は帝国の人間をよく見た方がいいぞ。世の中は戦争で忙しいのに、人間共はどうして脂肪の塊みたいな体系をしている? 昔みたいに農民の稼ぎを合法的に奪っていたとでも言うのか?」
「うーん、その話はどうでもいいけど、バベルの塔って最初は人間たちが造っていたものだよね。いまさら建設を急がなくていいとわたしは思うよ。それにおかしいよね、建設を急ぐなら侵攻作戦をやらなくていいのにどうしてか二年先までの計画書がある、加えて計画書通り侵攻作戦を続ける」
こうして話がいろいろな方向に飛んでいくのはいつものことなので、話の流れを修正してくれるリジーはとてもありがたい。それが玉に瑕なのも忘れてはならないが。
「なら急いで建設する目的は何だと思う……」
「わかんない。今の人間たちの発言も行動も全く読めない。だから裏にニレン並みの誰かがいるんじゃないかって、あり得ない考えをしちゃうくらい読めない」
なるほど、もし第六世代が既に誕生しているとしたら、分からなくもない話になってくる。
「バベルの塔をなぜ造るのか、おれはこう考えている」おれは人差し指と中指の二本指を立て、「一つは金を集めて新たな世代を誕生させることだ、しかしこれは現実的ではないと悟った。だから二つ目、神の王を討ったとしても敗残神たちは消えない――つまり人間たちは残った神々を道具にしたいんだ。終わらないはずの聖戦が終われば人間の娯楽は減る、娯楽は生きがいのようなものだから減っては困る。だから神を使い神の国を造り、今度は人間様が神々のように有り余っている土地を利用してチェスをしだす。バベルの塔建設と並行して娯楽も提供しなくちゃ、今の我が儘な人間様はストレスで自殺しちまうんだ」
と、もしもの話をするおれは、肩を震わせたと思えば次には大笑いしてくれるリジーに真面目に話したのだ。なぜ笑うのだ乙女よ、おれが気違いだからか……。
「アザミのお話は点と線が繋がった面白い話だね」
「聖戦カオスから一カ月経った今、カオスとニレンの闘争動画の再生数は帝国領人口の千倍だ。それで面白くないんだったら侵攻作戦を続ける理由はないだろ」
うん、良いことを思いついたぞ。この戦場の負け犬と呼ばれるおれが聖戦撮影をするというのはどうだ? 戦場で死なないように逃げるのは誰よりも得意で、撮影ドローンよりも正確な撮れ高を実現できるぞ。これでおれの老後も心配しなくて済む――とは言え運悪く戦場で死ぬかもしれないがな。




