表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/83

アザミの憂鬱

「ねぇアザミ」とリジーは花火を観ながら、世間話をしたそうにおれを呼ぶ。


「なんだ? 話題なんておれにはないぞ」


「またしてもそういえばの話になるけど――どうして今日の式典に来なかったの……」


 またその話か、今日で二度目だぞ。おれが式典に行かない理由なんぞを知ってどうするというのだ。曝すのか? それとも仲間内で情報共有するのか? このいじめっ子! スパルタ! 少しでもいいからそっとしておいてくれよ。


「おれは就活で忙しいんだ、その就活のせいで式典に行けなかった」


「終活? 死ぬ準備には早いでしょ。特にアザミは戦場に参加できないんだから」


 おやおや、これはややこしい言語を使ってしまったようだ。現代において就活は死語になってしまったから<しゅうかつ>という言葉は<終活>が主流。まあ就活も終活も変わらんので、ややこしい話は抜きにしよう。


「それだけじゃないぞ。日々蓄積されるストレスでおれの腹の調子だけでなく頭の調子も悪くなってしまってだな。つまりは、内定もらわなくちゃ泣いてしまうのさ」


 時代が時代だ。就活のついでに終活もしなくちゃいけないからな。必要とされる職に就き、クビになる未来までも想像して、命尽きる頃には〝始まり良ければ終りも良し〟と気が付く……ああ、どうやら生まれる時代と生まれる種族を間違えたらしい。


「ふーん、わたしってバカだからアザミの言ったこと何も分からないらしいの――それで、どうして式典に来なかったの?」


「はははっ――」


 うむ、リジーは全人類から嫌われるべきだと思う。ヒトという生き物は他人に話したくない物事を己の裡に秘めている生き物なのに、同じ質問を繰り返すなんて野暮だろ。


 リジーは馬鹿だがバカじゃないな、賢すぎるくらいの馬鹿だ。そうだ、いっそのこと白状してしまおう。そうすればおれの曇り空も少しは晴れるだろう。


 と、笑い終わった結晶男と言うのがおれなわけで、「はぁ……決まっているだろ、おれはあの場に相応しくない器だ」大きなため息の次に真実を口にするのもおれの他にはいない。


「戦場では逃げて、同じ部隊の仲間を見捨てて、助けられて生き残って、そんなおれがあの場所に居座っていいはずないだろ。一つしかない命を懸けてくれた……そんなことバカでもやらないのに、アルブレヒト部隊にはそういう馬鹿な仲間たちがいた」


 何一つ残せなかった第五世代の名無しの結晶人というのは、おれという魂と肉体であり他に誰もいない。どこまで考えても失敗作は失敗作、使えるとすれば危険薬物の被検体くらいだけど、薬物の効かない結晶のカラダなんて被験者としては認められないだろう。


 結局おれは完璧な失敗作止まりだ。


「戦いたいけど、戦争はしたくない、だって戦争は死にたくないのに死んでしまうから。わたしもそうだし他の結晶人も悩んでいるよ、あのニレンだって不安なんだもの。アザミはあの時、戦場で逝ってしまったアルブレヒトの仲間から『生きろ』って言われたでしょ……」


「それでもおれは裏切ったんだよ」


 それで今は大英雄ニレン殿に<memory:『いまの君は戦場には向かない』>と、帝国兵士として生まれたのに戦力外で侵攻メンバーから唯一除名されているんだ。平和への架け橋となるために生まれてきたのに、大舞台の戦場で手足が震えて、逃げることしか出来なくて、終いにはニレンに助けられた。そう、黒歴史で塗り固められたおれの人生において、聖戦アレスの大舞台こそがおれの闇歴史。おれの歴史は非人道的に動物を殺している奴らよりも闇は深く、エンルル兵を大量虐殺するニレンよりも腹黒く、ニレンの感情を具現化させたような染み一つない純白な清い歴史だ。闇の本質こそおれの精神と肉体から生まれたのかもしれない。


「裏切ってなんかないよ。あなたに命を懸けたんだもの……わたしも懸けているし」


「やめてくれ。次の侵攻作戦でお前が死ぬような気がしてならない」


 簡単に命を懸けようとするな。その捻りのない言葉の次に思い浮かぶ言の葉は、『どれだけ惨めに生きていようと、己の花が萎れたら何も残らない』間違いなくかつてのニレンの言葉だ。今までおれの頭蓋の中にニレンが登場することは何度もあったし、これから先も登場してくるのだろう。傲慢な少年も謙虚な少年も、ニレンが演じる少年は忘れたいのに忘れられない魅力があった。


 ニレンに憧れている? おれが? あり得ないね、誰が大虐殺の大英雄なんぞに憧れるというのだ。ただの人殺し、ただの盗人、ただの犯罪者、ニレンの呼び方なんて星の数ほどあるさ、そんな有名人に憧れるなんてこどもくらいだ……ああ、こどもくらいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ