ごめんなさいリジーさん
「そういえば、今日の同期会に誰も来なかったんだよね。店もいつもと違うところだったし、『もうお終いにしよう』って意味なのかな……アザミも顔すら見せないしさ」
とリジーは、先ほどの浮かれ気分から一転して暗い表情で重い音色を響かせた。唐突に終わるのも物語だろうけど、終わっては困る物語もある。
ケントの野郎、良いことをしてくれたが、悪いこともしてくれたな。うむ、後始末が大変なので今後は嘘偽り無くしよう。リジーも怒らせなければおとなしいからな。
「それは違う。あれは、」そこでおれは何と言おうか迷った。
「あれは?」
ここでさっそく嘘をついてもいいが、おれの精神はニレンのような約束も守らない奴に死んでもなりたくないので、
「まあ、正直言うとだな、お前がいると男たちは発言権を奪われたような気分になってしまうのさ。だから、リジーにはちょっと席を外してもらおうということで、おれがケントに提案したんだ」
優しさと言う名の小さじ一杯の嘘は勘弁してほしい。本当はケントがすべて悪いが、ここはおれの仕業にしといてやる。同期会に参加した道徳ある連中には後で口裏合わせでもしておくとして、ケント、これは貸だぞ。
「はぁ? 好き勝手に酷い発言するのはいつも男たちでしょ。他人の気持ちも理解しないでペラペラペラペラってさ、わたしは中身のない紙芝居を見せられているようで腹が立つのよ」
おやおや、若き結晶人たちのスパルタ教師ともあろう御方が随分と優しい発言をしてくれますね。しかしリジーさん、白紙の紙芝居で喜んでいるのは人間共しかおりませんぞ。
「だからだよ。男どもはスパルタのリジーさんを恐れているんだ。冗談を真に受けてしまうリジーさんが怖くて夜も眠れないほどに、百鬼夜行の魂の正体がリジーさんじゃないかと思うほどに――つまりは苦手なんだ。それに、お前の実力は番なしの中でも五本の指に入るからな。男たちに発言権がなければ戦うだけの力もないってこった」
「甘くすると付け上がるのがニレン不在のアルブレヒトの男たちでしょ。苦手なものすら克服できないのもそう。アザミが他の男たちに気を配ることなんてないでしょ」
お前のその優しさと厳しさに甘えているのはおれだぞ。そして今も甘えているんだぞ。
「おれは空気を読むのが得意なんだ。お前はもっと空気を読め。なんで喧嘩になったのかも分からず孫の喧嘩に割って入るおばあちゃんじゃねぇんだから少しは見守る努力をしろ」
「黙って見ていたら、あのバカ共は感情なくした人間のようにバカな発言しかしないでしょ。共同体まで造って自ら誹謗中傷する側の根源になるなんて動物でもやらないよ。人間のように教育しても根が腐っていれば更生不可能になる、でも結晶人の根は腐らないでしょ」
「それは……そうだろうな」(いやいや恐ろしや恐ろしやリジーさん)
そういえば、いつもバカにされるおれを庇うのはリジーだったな。限度を超えたアザミ弄りにいつも本気で怒るのはお前だけで、助けられるおれは女らしい――否、男らしいにも程があったのだろう。おれは弄られても余裕で受け身を取る盾なのに、お前はどうして自ら矛になろうとするのだ。嫌いになりそうだからこれ以上失敗作に優しくしないでくれ。
と、リジーから見たおれは腐っていなかったらしいので良しとしておこう。嘘でも嬉しいぞ。
「まぁ、同期会のことは悪かった」
「『ごめんなさい』でしょ」
「んん……ごめんなさい」
ああ、こういうガキ扱いすることをやめてくれたらなお良し。今も昔もガキにガキ扱いされて、物質が物質を教育して、ガキが悪ガキになってしまう。そんな感じの素敵な現在だ。1




