始まり良ければ全てよし
<birthday>//この話は、昨日の同期会後の話だ。
珍しくほどほどに飲み食いして、街で酔っぱらい共に絡まれて、同性愛者の人間のオヤジにナンパされて、行くとこ行くとこおれと釣り合わない奴らばかりに会ったその後の話。
夜の街に明かりだか盛りがつく時間帯。その時おれはひとりで、打ちあがった花火を立ち入り禁止区域――結晶の序丘――で観ていた。
「たーまやー」おれは打ちあがった花火を観て遠吠えとも言えない響きで吠えた。
もしここに少年ニレンがいれば、かーぎやー、とでも返してくれたのだろう。『たまやかぎやは競い合い、観客笑い花火のよう』。おれも観客のように思い出を忘れてゆくはずだ。
「空でも戦争かよ……」このままひとりだったら、もっと幸福な考えをしていたのだろうけど。
「かーぎやー!」と言い、いきなり現れた結晶女はおれの目の前でブレスレットを煌めかせ、「見てよアザミ、似合っているでしょ。誕生日プレゼント、ニレンから貰ったんだぁー」夜空に美しく咲いた花を背景に、美しい女は花火よりもブレスレットよりも輝いていた。
「なんだリジーか。似合わねぇ、とでも言ったらお前は怒るだろ」
どうしてここに来た、なんて質問はなしだ。この禁断の区域を知っているのはニレンとお前くらいだが、毎年この時期にこの場所に来るのはおれとお前だけだよな――『ぼくたちは似た時期に生まれた。だから、毎年この場所で誕生日を祝い合おうよ』。そう言い出したのは少年ニレンで、約束を真っ先に破るのもニレンだった。
「別に怒りはしないよ。ほら見て、このブレスレット、たぶんだけどニレンが結晶で創ってくれた物なんだよ、こんな素敵なプレゼント貰ったの初めて!」
浮かれてくれるのは構わないが、ニレンは誰にでもプレゼントを配る四季折々のサンタクロースというのをお忘れか? ――まあ、確かにブレスレットは珍しいかもしれない、しかし安心しろ乙女よ『何か裏があるな、そいつをおれによく見せろ!』と言いながらゴミ箱に投げ入れないから大事にしておくがいい。
「ああ、そうかいそうかい良かったですね。それで、ニレンはなんて手紙を送ってきたんだ? それとも、お忙しい大英雄ニレン様が直々にプレゼントを渡しに来たのか?」
「そりゃあ、鼻の赤い配達ドローンから渡されたけど」
「だろうな。あいつほど感情のない結晶人はいないからな」
「でもさ、手紙には『誕生日おめでとう』って書いてあったよ」
ほら、おれが言った通り感情ないだろ。全然おめでとう言われてないどころか、義務感しかないことを訴えてきているだろ。
「そうかそうか、誕生日おめでとうリジー様。どうだ? うれしいか?」
「うん! そりゃ嬉しいよ! ありがとうアザミ!」
この通りリジーは上機嫌だ。おれの機嫌が珍しく上向き回復しそうなくらいの笑顔を見せてくれるではないか。あぁ……羨ましいぜニレン。こんなにも素直で眩しい笑顔をしてくれる女に愛されて、おれはお前が羨ましくて仕方ない。あいつ死なないかな、いや、あいつが死んだらこの笑顔を見られなくなる。時として、考える脳があるってのは残酷だな。
「二十二か……『後のことは若者に任せるとしよう』って感じの歳だな」(今のうちにこどもでも作って引退しろよ。数少ない第四世代で、しかも二十代の結晶人は稀だぞ)
「何言ってるのよ、まだまだ若者でしょ」
(一足先におばあちゃんになった気分はどうですかな?)そう質問してやりたいが、耳が痛くなる返しをされるのは嫌なのでやめておこう。それに若者を強調してくる若者に怒鳴られるとおれの海馬が委縮してしまいそうだから怒鳴り合うのはやめよう。
「すでに手遅れな若者だな」
「始まったばかりだよ」
だろうな、諦めの悪いガキだった頃すら懐かしく思えないからな。悪ガキだった頃を最近卒業して、今は寝太郎に就職してしまったからな。ほんと、始まったばかりだよ。
「〝始まり良ければ全てよし〟」(終わりがなさそうで退屈な物語だな)
ドーン、と形の悪い花火が夜空に一発輝いた。夜空ですら若い花が一瞬でも咲くのに、おれの花は一瞬も咲かないとは驚きだ。




