第六世代
「新創世紀の始まりで新体制になったのに、また新体制がやってくる……そうなれば聖戦は終わらないか」ケントは何か考えるような素振りで言う。
ケントのように戦いが好きな結晶人は新体制になりつつある今を楽しんでいるだろう、しかしケントの場合は戦争が嫌いなのだ。
「アトラス皇帝の意志を継ぐ者がいない今、新体制に変わるのも時間の問題だ。んで、お前らも知っての通りおれは昔から皇帝派の結晶人、しかし皇帝派と言っても<レムリア>の血族だけの言葉を聞き入れる。正直、今の大元帥の命令は無視できないが無視するべき命令だ」
おれが言えば三人は静かに頷きを返してくれた。皇帝派の中の純皇帝派についてはおれと同じ考えらしい。ああ、なんと頼もしい同志たちだ、おれのこころはいつ君たちに裏切られるのかと楽しみで楽しみで仕方ない、もしその時が来たらおれの心臓の鼓動はスピーカーとなった口から街中に響き渡ることだろう。
「元々カラダを壊していた皇帝様には皇后様の死はショックが大きすぎたらしいね」
「ニレン曰く、『死はヒトを狂わせる、特に愛したヒトの死は自らを狂い咲きさせ、実をつけることなく一瞬で枯れさせる』」
「愛する者の死の前に後継者の行方不明、どうしようもない現実が重なりすぎたな」
うむ、良い傾向だぞ諸君。いまこそ革命の時だ。
「それで、バカ殿たちが金を集めて何に使う……」
よくぞ訊いてくれたなケント君。そう、金集めの真相は――
「――【第六世代】の誕生に使うのさ」
とおれが真面目に言ってやれば、数秒の沈黙の後に三人は腹を抱えて笑い狂った。食事中にする笑い方じゃない下品な笑い、飯に唾が飛ぶからやめてほしいものだ。
「なあケント、第六世代のコンセプトは何だっけ?」「『世界に愛の結晶を』」「結晶に愛されたニレンがいるのに、今更愛の結晶を誕生させるって? 無駄無駄、無理無理」「いや、ニレンが結晶で子を造れば愛の結晶の誕生だ」「何でもいいけど、アザミは想像力が豊かすぎる」
想像力皆無なお前らの言う世界はセカイであって世界ではないが、まあ、意味は通じるからそういうことにしておこう。
「自称大英雄のお兄様、バカ殿よりもバカな発言をしているが頭は大丈夫か?」
「この通り大丈夫だ」
大丈夫だが、おれの海馬が委縮しているとでも言いたげだな。悪いがお年寄りに失礼だから、お年寄りのおれに静かに謝ってくれないか? 今なら土下座で許してやる。
「第六世代を誕生させてどうする?」
(そりゃあ、大元帥共はニレンという怪物の扱いに苦労しているから黙ってもらいたいのさ。つまり、ニレンを抑えられるだけの優れた力を持ち、尚且つカライスクロスの血で操作できる人形のような結晶人が必要なのだ)
お前たちの知らない話をするが、心で聴いてくれ――完璧な結晶人というのはカライスクロスの血で行動を制御出来るんだ。しかし、第五世代のニレンとおれだけは制御できないらしい。その理由は使われた結晶原石が違うからなのか、生まれ持った結晶質が違うからなのか分からないが、制御できないのは確実だ。
と、かつてアトラス皇帝に『カライスクロスの血についてはお前たちだけに話す。他の者には絶対に話すでないぞ。それと――忘れることもするな』と言われたからこどもらしくおとなしくしておこう。
「生命の誕生に理由が欲しいのか? 新たな世代の誕生は計画してやるものだろうけど、計画には誤差があるだろ。事故や事件には様々な要因が関わってくる、例えば天気、気温、体調、精神、愛――生と死には論理だけじゃ理解できないものも含まれてくるだろ」
「つまりこれまでの話は」とケントが言うと、
『アザミの妄想日記だ』三人は息ぴったりに言ってくれた。
聴いたおれはオオカミを飼いならす少年を演じようではないか。
「ああ、嘘も誠も話の手管だ、よく気付いたな。今のおれは酒に酔い、酒に飲まれ、妄想と想像を繰り返してしまってあら大変な状態だ。優しく見守ってくれると助かる」
「まぁ、今日は年に一度の同期会だ。飲んで食って騒いで作り話しても罰は当たらんだろ」
だな。まったくもってその通りだ……しかし、自分の裡なるオオカミを飼いならすのは罰当たりな行いなんだぞ。アルファ階級のオオカミを超えるには強いだけじゃなく狩りの腕を磨かなきゃいけないからな――ニレンのように罰当たりにも程がある神狩りを達成しなくちゃ、裡なるオオカミを制御することなんて出来ないんだよ。
「悪酔いを醒ますには酒が一番だぜ」
と言ったおれは、酔えもしない嫌いな酒を口に運ぶ。結晶人とて、このまま暴飲暴食を続ければ吐瀉物を撒き散らすのが目に見えている、なので今日は少々控えめにしておこう。
他にも同期の結晶人がいれば、おれはこんなにも下らない話を披露していないのだけど……年を取れば嫌でも酒を飲まなきゃならないようだ。
(まったく、どうしておれが生きているんだか……不思議で仕方ないぜ)




