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式典

 深淵を覗き見たヒトならざるヒト

 神々を帰し 神殺しの一族をも帰す者

 定められた時はなく それ故に安らぎもない

 であるから その者 この地より闘争を探究する


//こうして晴れた空の下を歩く晴れないおれは、コーカサス大通りまでやってきた。


「ねぇねぇ、さっき映った番無し(ネームド)結晶人(ほだしと)見た?」


「ワウ、デラヤバイヤバイのマベラパナイパナイっしょ」


「男らしいケント様マベラギュスト超えのテンプテ」


「うんうん、マジタム」


 と、記念祭初日であるにも関わらず、大通りの人々は今日だけで疲れ果ててしまいそうなテンションの高さをしている。そのテンションの高さを戦場で使えればパーティーはより一層の盛り上がりをするだろうよ。婚活(マッチング)パーティーからの鮮血(レッドカーペット)パーティー、そこから虐殺という名の卒業(グラジュエイト)パーティーになるのが定番だ。うん、よく考えたら戦場も日常も変わらないな。


 そこでおれはひとり、響き渡る《英雄ポロネーズ》に耳を傾けながら待っている。正確には、おれの大嫌いな奴がスクリーンに映されるのを待っている。


 大嫌いな奴と待ち合わせするなんて考えたら……考えていなくても普通行かないよな。絶対に病気を理由にするし、寝坊しないけど寝坊したことにする。つまり、完璧な平和や完璧な平穏を実現するには引きこもりになる以外に道はないな。


<「それでは、我らがクリティアス帝国の結晶人にして、帝国を勝利に導いた第五世代(フロイデ)の大英雄――ニレン」>


 公共に設置された大型スクリーンにおれの大嫌いな奴が登場したのはそれからすぐのことだ。そこまで珍しい生き物でもないだろうに、民衆はスクリーンに釘付けになっている。これはもう動物園ではなく結晶人園でも開園させれば稼げるのではないか……檻の中に入れられるのがおれだったら間違いなく稼げるね、晒し者なら誰にも負ける気がしないぜ。


「やっぱり、大英雄はオーラが違うよな」


「わかるわー、結晶人の中でも特に目立つ」


「ニレンは良い意味で目立つ、しかし第五世代のもうひとりの奴は悪い意味で目立つ」


「はははっ、目立ってねぇだろ。顔を憶えている奴がどこにいる?」


 エーテルのそこかしこで曝され、そして噂されているニレンはどんな気分なのだろう。引き合いに出されるおれは逆の意味でとても良い気分であるぞ。


<「我らが皇帝――アトラス・レムリア・クリティアスより、結晶人一同への賛辞を預かっているので、わたくしニレン・ユーサー・ペンドラゴンが代理として読ませていただきます」>


 と、おれがそうこう考えている間に勲章の授与は終わっていた。


 おかしな話、現在の場面は病に倒れた皇帝様の代わりにニレンが壇上に立つ構図だ。本来であれば皇帝様に代わる上層の人間様が立たなくちゃ締まりがわるいだろうけど、いまの上層は皇帝様の文章すら読めないらしいから仕方ない。結晶人の大将が結晶人一同に向けて皇帝様のお言葉を代弁するなんて……おれたちを創造した人間様の威厳はどこの谷に消えたんだか。


<「〝戦場という大舞台で美しく輝く者たちよ、今のそなたらのこころは生き残った喜びと別れの哀しみで溢れていることでしょう。戦場に立てない人間、その人間であるわたくしの身勝手な言葉になってしまいますが、奮闘し生きた者、奮闘し亡くなった者、その両者にわたくしは感謝の言葉を贈ります――人間のために戦い、結晶の如き志を届けてくれてありがとう結晶人。さて、ここからはわたくし皇帝の一方的な質問と余談になりますので、失礼ながら皆様のお時間を頂戴させていただきます。さあ結晶人よ、そなたらにはまだ闘争の鐘の音が聞こえるのであろうか……もし聞こえるのならば、神々と人間が望んだ永遠の闘争にも花が咲くのだろう。いずれ結晶の使徒は月の導きを受ける。断罪と調和の魂よ、ハイネと結晶の娘よ、不協和音を帯びし結晶の士師よ、そなたらが選ぶ道は最も険しく最も残酷なものだ。だからこそ、このアトラスは最後まで見届けよう〟」>


 と賛辞が終われば、代理のニレンは一礼して壇上から席へ移動した。


(なるほどな、これでは読めない文章はより読めなくなる。皇帝ともあろう御方が式典の場で質問と余談を入れた理由は何だったのか……ああ、よめないねぇ)


 こうしておれは答案用紙へ書き込んだわけだ。白紙よりはマシだろうという考えでいつも用紙を無駄な文字や数字で埋めているが、正解したこともなければ笑われたこともない。お前はそれで楽しいのかって? もちろん生きているだけで素晴らしいではないか。

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