<表1章 勇者誕生編 第3話>
「心配ないさ、きっと。成長すれば消えるかもしれないし、男の子で勇者候補だからね。戦いでもっと傷つく事もあるかもしれない。」
バートがそう言って自分の腕の大きな傷を見せて微笑んだ。
「せめて痛みとかが無ければいいんだが……」
そう言ってバートが赤ん坊の腕の痣をさすった途端、黒い痣から黒い影が勢いよく飛び出し、手の様な形状がバートの首を掴み襲い掛かった。バートが影に突き飛ばされ壁に激突した。
赤ん坊はバートの手を離れると落下した。
「いやぁぁぁーーー!」
マチの叫び声の少し後、赤ん坊は床に落下したが黒い影の一部がクッションの様に赤ん坊の下に入りこみ、赤ん坊は落下の衝撃から守られていた。
赤ん坊が無事な事に皆が安堵した次の瞬間、影は氾濫した川の様に赤ん坊の腕から更に勢いよく飛び出し、バートに襲い掛かった。
バートが体勢を崩しながら黒い影を迎え討とうとし、ビルとトンパが異変に気づきドアを開けようとドアノブに手をかけると、
「わぁあああ!」
と赤ん坊が大きな声で泣いた。赤ん坊を中心に衝撃波が発生した瞬間、黒い影は振り返り赤ん坊の攻撃に転じた。
それを見たバートが衝撃波をかい潜り、影が衝撃波で怯んだ隙に赤ん坊を抱きかかえると、黒い影がバートの身体を貫いた。
「バート……」
絞り出したマチの声にならない声の静寂の後、トンパがバートから影を引き剥がし、ビルが切り裂き、エリの雷の魔法が影をとらえ、影は宙に消失していった。
「バート?」
マチがベットから落ち、身体を引きずりながらバートに近付くとバートは既に絶命していた。
それを見たマチは意識を失いその場に倒れ込んだ。
エリがマチを抱きかかえ、トンパとビルがバートに近付くとトンパとビルの目から大粒の涙が溢れた。
バートは我が子の命を守れた事を確信したのか、我が子を怖がらせない為か、微笑みを残したまま動かなくなっていた。
そして赤ん坊の腕には微かに黒い痣が残っていたのだった。