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第1部 第9話

翌日、俺が5組で昨日と同じ問題を再び説明したら、

クレームが来た。


「誰もわからない、なんて言ってねーし」

「月島が言ってた」

「・・・」

「つまり、お前ら全員分かってないってことだ」

「月島がわからないからって、俺が分からないとは限らないだろー?」

「じゃあ、わかってたのかな?ツンツン遠藤改め、米々遠藤」

「・・・ごめんなさい」

「よし、じゃあ、次行こうかー・・・って後5分で終わりだな」

「やったー!休み時間!」


一気に教室が活気付く。

おい、その元気、授業中に発揮してくれ。


「というわけで、次の時間はHRだからそのまま突入ー」

「えー!?休み時間は!?」

「ない」

「うわ!労働基準法違反だ」

「そんな言葉覚えてる暇があったら、公式の一つでも覚えろ。

はい、田中、Y=Xの3乗を因数分解して」

「Y=X+X+X」

「はい、中学校に逆戻りー」


そう言いながら俺はプリントを配った。


「休み時間取ってもいいけど、今日のHRは修学旅行の説明なんだけど?」

「聞く!」


現金なやつらだな。


「知ってると思うけど、修学旅行は9月3日から2泊3日。

北組の北海道と南組の沖縄に分かれて行くからな。

今配ったアンケートにどっちに行きたいか書いて、金曜に学級委員に渡しといて」

「希望通り行けるんですか?」

「偏った場合は、移ってもいい奴がいないか聞く」

「先生はどっち?」

「・・・まだ希望出してない」


沖縄、と言おうと思ったけど、

何故か藍原がガンつけてきたのでやめた。


「本城ー、質問!」

「なんだよ?」

「結局、篠原先生とは付き合うのか?」

「じゃあ、次の連絡ー」

「おい、答えろよ」

「ほっといてくれって言っただろ?」

「気になって勉強が手につきません」

「・・・」


こいつら、なんかスキルアップしてないか?

俺の教育のお陰か?


「別に・・・付き合おうとか言われてないし」

「でも、好きって言われただろ」

「言われただけだし」

「本城って、意外とお子様だよなー」

「うるさい」

「篠原先生は、本城の方から誘ってくれるのを待ってるんだよ。

誘ってやらなかったら、篠原先生は振られたって思うと思うぞ」

「え?そうなのか?」


俺は身を乗り出して、遠藤たちに聞く。


「誘うって、何したらいいんだよ?」

「飲みにでも誘ったら?」

「もしくはホテルとかさ」

「いきなりそれはなー」

「子供じゃないし、いいんじゃね?」

「でもさ、教師同士でホテルから出てくるとこを保護者とかに見られたらさ・・

俺、まだ新米だし」

「確かに。でもちょっと面白そう」

「教師って結構気を使うんだぞ。別にキャバクラ行っちゃいけない訳じゃないけどさ、

やっぱ周りの目が気になって行けないしさ。合コンであんま盛り上がるのもなー」

「本城、合コンとか行くの?」

「教師になってからは行ってない。暇ないし」

「教師も大変なんだな」

「そうだぞ、ちょっとは敬え」


男集団で盛り上がってたら女子が引く引く・・・。


「おい、女子。戻って来い」

「やらしー」

「お前らも合コンくらい行くだろ」


月島は絶対行かないだろうけど。

月島の仲良しの西田もそういうタイプじゃないな。


「行くけどー。生徒はいいじゃん。でも教師が合コンなんて、引く」

「教師だって人間だぞ。それに社会人1,2年目なんて一番合コンしがいがあるし」

「そうなの?」

「そうそう。やっと自分で稼げるようになって、女も男のことを、見た目と性格以外に、

職業や年収っていう要素でも見るようになるし。面白いぞ」

「職業や年収って・・・教師ってどうなのよ。むしろマイナス要素じゃない?

私なら、大手銀行マンとかの方がいいな」

「・・・痛いとこつくなよ」

「教師なんてお金持ってなさそうだし」

「・・・」


くそっ


すると、一人の生徒が鋭い突っ込みを入れてきた。


「あれ?でも始業式の時、校長先生が本城って堀西大学卒業って言ってなかったっけ?」


教室内が一斉にザワつく。

ああ・・・忘れてくれてると思ったのに・・・


「堀西、ってアノ堀西?」

「どの堀西だよ」

「え、だって・・・堀西って・・・」


私立堀西学園は小学校から短大・大学までエスカレーター式になっている学校で、

かなりの金持ち学校だ。

生徒も、会社社長やどこぞの財閥の子女ばかり。


「堀西って高校とか大学から入る人って少ないよな?みんな小学校からだよな?本城も?」

「・・・うん」


再び教室がザワめく。


「すげー。親、何やってるんだよ?」

「どーでもいいだろ、そんなのは。ほら、HRの続きするぞ」


俺は早々と話題を変えた。




篠原先生のことが頭をよぎる。

もしかして、俺が堀西出身と知って、俺に「好き」と言ったのか?

いやいや、お天気お姉さんはそこまで計算高くないぞ。

お天気お姉さんはあくまでサワヤカで清楚で・・・


うーん・・・





「篠原先生、俺の大学ってどこか知ってます?」

「え?知りませんけど・・・どこなんですか?」

「いや、いいんです」


コピー室で一緒になった篠原先生に出し抜けに聞いてみる。

そうだよな、知らないよな。


「本城先生、今度一緒にお食事でもいかがですか?」

「はい・・・え?食事?えっと・・・」


俺はまるで中学生のようにモジモジとなる。

ダメだ。

俺、篠原先生の前だとなんだか緊張してしまう。

変な気を使ってしまう。

いつもだったら、行きたきゃ行くって言うし、

行きたくなきゃ行かないって言うのに。


なんでだ?

今度また月島に聞いてみるか。


「あ、深く考えないでくださいね。だた一緒にお話して、私のことを知ってもらいたいだけなので」

「はあ」

「二人がお嫌でしたら、他の人も一緒でもいいですし」


じゃあ、コン坊も一緒に、と言うほど俺も野暮じゃない。

逆にコン坊も気を使うだろう。


「いや、二人でいいです」


って、あれ?食事に行くのか、俺?


「ありがとうございます。次の金曜でいいですか?土曜は学校に来られます?」

「土曜も来ますけど、金曜で大丈夫です」

「じゃあ、金曜の帰り、お待ちしてますね」

「はい・・・」



うわー、生徒に見られないようにしないと・・・


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