表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/88

第3部 第1話

1学期の中間テストも無事終わり、

そろそろ暑さが顔を出してきた5月下旬の土曜日。


俺は、学校を終えると、車で実家に向かった。

幸太と夕飯を食う約束なのだ。


本当はゴールデンウィークに帰るつもりだったけど、

ゴールデンウィークは月島が俺の家に入り浸っていたので、

帰ることができなかった。


「入り浸ってた」と言っても、もちろん毎日泊まっていた訳じゃない。

朝来て、ずーっと勉強し、夜帰るのだ。

どうやら、俺が数学だけではなくリスニングの勉強にも使えると気づいたらしい。

ゴールデンウィークの間中、俺は会話から何から全て英語でしゃべらされた。


「外人になった気分」

「でも、先生の英語、上達した気がします」

「俺が上達してどうするんだ。月島が上達しろよ」


だけど、俺の努力の甲斐あってか(?)、

月島の中間テストのリスニングの点数は、驚異的な伸びを見せた。


まあ、坂本先生からは「ピロートークを英語でやったの?」とつっこみがきたけど。



とにかくそんな事情でゴールデンウィークは帰れなかった。

そして今日は土曜だけど、月島が家族で夕食を取るということで、俺の家には泊まりにこない。

だから俺も幸太と会うことにしたのだ。




俺が実家の前に着くと、

幸太がゆっくりと家から歩いて出てきた。


「兄ちゃん、お帰り」

「おう。ただいま。久しぶりだな」


幸太は、うん、と言ってニッコリと笑った。

正月の時と変わらず、少し落ち着いた雰囲気の幸太。

気づけばもう中学2年生だ。



俺達は近くの小料理屋みたいなところで、

色々話しながら飯を食った。


歩と比べるから幸太が落ち着いて見えるのかもしれないけど、

実際、幸太は少し大人になったと思う。

以前はそれこそ歩と話すようなことばかり話してたけど、

今日は宏とかと話すように、普通に俺も楽しめた。


元気がない、って言うんじゃなくて、本当に成長しただけなのかな。




支払いを済ませ、店を出ようとしたとき俺の携帯が鳴った。

ディスプレイを見ると、知らない携帯からだ。


「幸太。ちょっとごめん」

「うん」


俺は急いで通話ボタンを押した。


何かあった時の為に、俺は自分のクラスの生徒には携帯番号を教えている。

でも生徒の番号はあまり知らない。


だからこの電話も、俺のクラスの誰かからかも知れない。


生徒が教師の携帯にかけてくるなんて、「暇だからかけてみた」なんてことはないだろう。

(遠藤とか藍原はともかく)

本当に何かあったのかもしれない。


大した電話じゃありませんように、という俺の願いも空しく、

携帯からはすすり泣く声が聞こえた。


「・・・先生」


この声は・・・西田?


「西田か?」


声にならないのか、ただしゃくりあげるばかりだ。


「どうした?何かあったのか?」

「先生・・・助けて」


ただごとではないらしい。

俺は嫌な予感でドキドキする胸をおさえて、

できるだけ落ち着いた声で西田に話しかけた。


「今、どこにいるんだ?」

「・・・R公園」

「R公園?」


思わず声が大きくなる。

だって・・・

R公園って・・・



俺は、すぐ行くからと言って、携帯を切った。

幸太が心配そうに俺を覗き込む。


「今の、兄ちゃんの生徒?R公園って、あのR公園にいるの?」

「・・・そうらしい」


俺は携帯を握り締めた。



ここから車で20分くらい走った所に、

ちょっとガラの悪い界隈がある。

ラブホテルが立ち並び、その奥に普通の人なら絶対入りたくない雰囲気の飲み屋が数件ある。


そして更にその奥にあるのがR公園だ。

自然、R公園はホームレスや酔っ払い、地元の不良の溜まり場と化している。


俺もその存在は知っているが、中に入ったことはない。


どうしてそんな場所に西田がいるんだ?



「幸太、悪い。歩きかタクシーで帰ってくれるか?」

「俺も一緒に行く」

「何言ってんだよ。危ないから帰ってろ」

「あんなとこに一人で行く方がよっぽど危ないって。

それに何かあったときに、一人より二人の方がいいだろ?」


確かにそうだ。

西田に何があったのかはわからないが、

喜ばしい状況でないのは間違いない。

俺一人だとどうにもならい可能性もある。


「わかった。乗れ」




俺は車を飛ばし、R公園へ向かった。

ちゃんと車を停められる所を探している場合じゃない。

適当な所に路駐し、俺と幸太はR公園の中へ入った。


R公園は予想以上に広く、暗かった。

一応外灯はあるのだけど、ほとんど球切れで、

その役を果たしていない。


ところどころにおいてあるベンチにはペンキで落書きがされており、

ゴミ箱もゴミでいっぱいだ。


もはや行政の管理外、という感じだ。



「その西田さんって人、どこにいるのかな?」


幸太がキョロキョロしながら言う。

チラホラとホームレスらしき姿はあるが、

西田らしき人影は見えない。


携帯に電話しても出ない。


幸太と手分けして探したいところだが、

幸太は西田の顔を知らないし、こんなところで幸太を一人にしたくない。


俺は仕方なく、「こっちにはいて欲しくない」と思う方へ敢えて足を向けた。


そう。こっちにはいて欲しくない。

こんな暗くて人目につかない方には。



伸びきった芝に足を取られながら、暗い木々の間を少し進むと、

申し訳程度に明かりを灯している外灯が一つあった。


そして、その下に人影が見えた。

一人じゃない。

4人・・・いや、5人。


俺と幸太は顔を見合わせてから、ゆっくりとそいつらの方へ向かった。


近づくにつれ、そいつらの顔がはっきりと見えてきた。

若い男たちだ。

若いどころじゃない。

恐らく高校生か、いいところ大学生くらいだ。

だけどその身なりは、とても学校へ通っている風ではなかった。


そして、そいつらの足元には・・・


「西田!!!」


俺は思わず叫んだ。

俺の後ろでは幸太が息を飲む音がした。


そいつらの足元に西田が横たわっていたのだ。


俺が走り寄ると、男たちはニヤニヤしながら俺と西田から離れた。




「・・・」


俺は、

気を失っているのかグッタリとした西田を抱き起こしたけど、

言葉が出てこなかった。


ワンピースは引き裂かれ、靴も履いていない。

顔や髪には土がついていた。


何があったのか、あまりにも一目瞭然すぎて俺は呆然とした。



なんだ、これ?

なんで西田がこんな目にあってるんだ?



「あんた、こいつのセンコー?」


唇に金色のピアスをした男が、しゃがみこむ俺の上から声をかけた。

あまりに理解の域を超えた状況に、

俺はそいつをぼんやりと見上げ、ただ頷くしかなかった。


「ふーん。じゃあ、コレにいくら出す?」


そいつは手の中のポラロイドカメラを弄んだ。



・・・信じらんねー・・・

なんてことするんだ。



それがデジカメだったら、

「どうせデータはコピーしまくってるんだろう」

と思って、もはや取り返す気にもならないだろう。


だけど、ポラロイドということは、これさえ手に入れれば全て終わる。

だから多少高額でも買い取ろう、と思ってしまう。


こいつら、それが分かってて、敢えてポラロイドにしたのか?


俺はようやく怒りが沸々とわいて来た。

だけど悔しいことに、俺は、こいつらの企み通りのことを考えてる。


早く西田をここから連れ出したい。

早く西田を安心させたい。

早くあのカメラを処分してしまいたい。


それができるなら、金なんか惜しくない。



「ほら。いくら出すんだよ?さっさと言わねーと、バラ撒くぞ?」


でも、こんな奴らの言いなりになりたくない!!


俺は西田の肩をグッと抱きしめた。

西田はかすかに反応し、俺の胸に顔をうずめる。


「お?なんだ、コイツ。睨んでやがる」


男たちが、俺の周りに寄ってきた。


「バカな奴だなー。一人で勝てると思ってんのか?」

「一人じゃないみたいだぜ?ほら、あっちにガキがいる」


そう言った奴が、顎をしゃくった先には幸太がいた。


・・・ダメだ。

俺一人なら、逃げれるかもしれないけど、西田と幸太がいるんじゃ逃げられない。

それにカメラも取り返さないといけない。


だからと言って、こいつら相手に喧嘩で勝てる自信も、正直ない。



俺は怒りを静めるために大きくため息をつき、

口を開こうとした・・・



その時。


「お前ら。何やってる」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ