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第2部 第9話

電話するかメールするか悩んだ。

でもやっぱり直接会って話したい。



翌日の夜8時、

いつものように教室へ向かった。


今日も月島と一度も目を合わせてない。

俺は何度か月島を見た。

でも月島が見ようとしてくれない。


まだ怒ってるのか、それとも・・・




教室には、いつも通り月島がいたけど、

俺が扉を開けても顔を上げない。

足音か扉の開け方か何かで、見なくても俺が来たとわかるのだろう。


垂れた髪で表情も見えない。


俺は月島の前に立った。



「ごめん」


月島は手を止め、シャーペンを握り締めた。

でもやっぱり顔は上げてくれない。


「駐車場にいるから」


それだけ言うと、俺は教室を出てそのまま駐車場へ行った。





3月に入ったけどまだ寒いし、日も短い。

あたりはとっくに真っ暗だ。

でも漂うのは冬の匂いじゃなく、

春を待つ木々の匂いだ。


もうすぐ俺がここに来て2回目の春が来る。


月島も藍原も遠藤も小野もみんな、俺のクラスじゃなくなるかもしれない。

そしてそんなこと言う暇もない程、みんな受験で忙しくなる。


俺は小学校からエスカレーターだったから受験を経験したことがない。

そんな俺が言うのも変だけど、みんな頑張って欲しい。

みんな希望の大学に合格して欲しい。



そんなことを考えながら運転席から、校舎の裏口を見た。



月島はまだ怒ってるかもしれない。

でも月島は俺が待っていると知っていて、来ないことはない。

怒っていても来てくれるはずだ。



その時、コートを手に持った月島が現れた。


ほらな。

ちゃんと来てくれる。




月島は無言で助手席に乗り、

鞄とコートを抱きしめた。

それと髪のせいで、まだ表情はわからない。


でも大丈夫。

俺の気持ちはしっかりしている。

月島の気持ちもしっかりしている、

俺はそう信じてる。



教師が生徒を送って行くことはよくあるし、

人に見られても問題はないけど、

月島と早くゆっくり話したくて、俺はすぐにエンジンをかけた。





俺の家につくと、俺は車から降りて助手席のドアを開けた。

月島が降りるのを躊躇うかもしれないと思ったからだ。


「ほら」


俺が手を差し出すと、月島は俯いたままちょっと迷ってから俺の手を取り、車を降りた。




「座って。なんか飲む?」


月島は素直に腰は下ろしたものの、首を振った。

だから俺もそのまま月島の隣に座って・・・

月島を抱きしめた。


その時、初めて月島が泣いてるのに気づいた。

もしかしたら泣いてるかもしれない、とは思っていたから驚かなかった。

でも、こんな風に泣かせてしまって、やっぱり胸が痛む。



昨日、コン坊と別れてから色々考えた。

なんて言ったら月島は許してくれるだろう、

なんて言ったら月島はわかってくれるだろう。



でも違うよな。

月島は、俺が月島を大切に思ってないと思ったんだ。

だったら大切に思ってるってわかってもらえればいい。


後はこれからゆっくりと、二人で関係を築いて行けばいい。




俺はとにかく月島を抱きしめたまま背中をさすった。

月島が泣き止むまでずっと。



「先生・・・」

「ん?」

「・・・です」

「なに?」

「・・・いいです」


月島は俺の胸の中で囁くように言った。


「何が?」


月島は返事せずに、俺にキスをしてきた。

・・・ああ、そういうことか。


「いいよ、無理しなくて」

「してません」

「してるだろ」

「・・・そうですね、ちょっとしてます。でも、無理しても・・・先生に嫌われたくないんです。

あんなこと言って、ごめんなさい」


月島は右手で左胸を押さえ、左手で目をこすりながらほとんど泣きじゃくるようにして言った。

だけど俺は思わず噴出した。


「・・・どうして笑うんですか」


月島が涙を目に浮かべたまま俺を睨む。


「だってさ。そんな変な無理するほうが、月島らしくなくって好きじゃなくなるかも」

「・・・」


俺は笑いを堪えて言った。


「月島に、卒業まで待って、って言われた時は、何だソレ!?って思ったけど、

今思えば、すげー月島らしいよな。逆にすんなり受け入れられたら違和感覚えたかも」

「・・・勝手ですね」

「そうそう。男って勝手だから」

「・・・」

「朝日ヶ丘の卒業式って3月中旬だから、ちょうど後1年かあ。

楽しみにしてるよ。卒業式終わったら、うち来いよ。すぐにスルから」


俺が月島を胸から離して、ニヤッと笑うと、

月島は涙目のままふくれっ面になった。


「イヤです」

「ダメ。それは許さない」

「・・・はい」

「その代わり・・・それまでは絶対にしないから」

「・・・本当にいいんですか?」

「うん。卒業までに色々研究しといて」

「何をですか」


月島が赤くなる。

意味わかってんじゃん。


「あと!絶対合格しろよ。お前、落ちたら『来年大学に受かるまで待ってください』とか言いそう」

「言いますね」

「それも許さないから」


月島はようやく笑顔になり、はい、と言った。



それから俺達はしばらく抱き合ったまま、

キスしたり、

卒業したらこんなことしたい、あんな所に行きたい、なんて話をしていた。




これからの1年、忙しくなる。

きっと、あっと言う間だ。


だから大丈夫。

何も心配はいらない。



「ところで、ずいぶんあっさりと反省したんだな、月島」

「穂波に怒られました。穂波って結構大人なんです」

「・・・おい」

「あ・・・その・・・『知り合いの話なんだけど』ってことで相談したんです」



ほんとかよ!?





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