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第1部 第38話

「本城君、帰ったら?」

「うん・・・そうする。悪いけど、なんかあったら頼むな、コン坊」

「はい。お大事に」


俺は椅子に掛けてあったジャケットを羽織り、職員室を出た。


ディズニーランドのスケッチ以来、どうも体調が良くない。

早い話が風邪をひいたのだ。


月島は全然元気そうなのに。

くそお、年か?


月島と生徒の手前、あれで風邪を引いたとは言いにくく、

なんとか平気な振りをして今日まで来たけど、

いい加減限界がきた。


今日は土曜日。

生徒は学校は午前中だけなので、さっき終わったところだ。

いつもなら教師の俺は、土曜でも結構遅くまで残ってるのだけど、

今日はコン坊の言葉に甘えて帰らせてもらおう・・・



あ・・・

帰って寝れると思ったら、なんか熱が上がってきたかも・・・

運転、気をつけないと・・・




こういう時は慎重になってるせいか、いつもよりかなりの安全運転で、

無事家に着いた、

と、同時に着替えもせずベッドに倒れこんだ。


こーゆー時、実家だといいよな・・・

って、俺、実家そんな遠くないじゃん。

実家に帰ればよかった。

一人でここで寝てるより遥かに楽だよな・・・



そんなことを考えながら、俺は眠りについた。





2時間くらいした頃だろうか?

携帯の音で目が覚めた。

あー、切るの忘れてた。

起きちゃったじゃないか。


額に手を当てると、まだかなり熱い。


ため息をつきながら携帯のサブディスプレイを見ると・・・


「え?月島!?」


俺は思わず勢い込んで通話ボタンを押した。



「先生?」

「月島?どうした?なんか、あったか?」

「いえ・・・先生が風邪で帰ったって、近藤先生から聞いて」


コン坊め。

ここ数日の俺の努力を返せ。

てゆーか、わざと月島に言ったな?


「前、スケッチに付き合ってもらったから風邪ひいたんですよね?」

「そうだけど・・・俺に体力ないのが悪い」

「お薬飲んでますか?何か食べてますか?ちゃんと水分取ってますか?」

「うーん・・・寝てる」

「私!何か飲み物と食べ物買って持っていきます」

「いいよ。大丈夫。それに俺んち知らないだろ」


そーゆー問題ではないのだが、

熱のせいか、思考回路が上手く働かない。


「知ってます。歩君のおじいちゃんの家の前のマンションですよね?」


あ、そっか。


「何号室ですか?」

「402」

「わかりました。何か欲しい物、ありますか?」

「ポカリ」

「はい」



電話を切った後も、俺はベッドの上でボンヤリとしていた。

ん?月島が来るのか?

・・・ま、いいか。


普通なら、

それってやばいんじゃないか、と焦ったり、

仕方ないから少しでも部屋を片付けよう、とかするんだろけど、

今は「少しでも寝て、月島が来たとき話せる状態になっていよう」と考えるので精一杯だった。




こんなんだったから、いつ月島がマンションについて、

いつ俺が1階のオートロックを解除したのかも記憶にない。

とにかく気がついたら、月島が俺の家の玄関まで来ていた。


「上がってもいいですか?」

「うん」


俺の後ろについて、月島が部屋に入る。

これって、変なのー、とは思うが、だからどうしようってとこまで考えが及ばない。


「寝ててくださいね」

「うん」


俺がベッドに座って壁にもたれると、

月島は持ってきたビニール袋をガサゴソと開けた。

飲みやすさを考えてか、500ミリのポカリ数本、

ゼリー状の栄養食品、

カットフルーツ、

などなど。


おお、助かる。


「冷蔵庫借りていいですか?」

「うん」



俺の部屋の中を動き回る月島を目で追う。



「じゃあ、私、帰りますね。先生、ちゃんとお薬飲んで寝てくださいね」


え?もう帰るのか?

そりゃ、俺も大して話せる状態じゃないけどさ。

もうちょっといてくれてもいいじゃん。


「先生?」


何も答えない俺を不審に思ったのか、

月島が近づいてきた。


こら。

一人暮らしの男の家に軽々と入ってきて、

しかもベッドの上にいる男に近づくもんじゃないぞ。



月島はベッドの真ん中あたりに右手をつくと、

反対の左手で、

壁にもたている俺の額に触れた。


「熱いですね。熱、計りました?体温計ありますか?」



・・・だから、そういうことするなって。

知らないぞ?



俺は額に当てられた月島の左手をぐいっと引き、

そのまま一緒にベッドに倒れこんだ。






目が覚めた時、初めに、俺の腕の中で眠っている月島を見て驚いた。

どうしてここに!?というほど、俺もボケちゃいない。

それでも驚いた。


次に、部屋の中の暗さに驚いた。

これは文句なしにビックリ仰天した。

なんだ、これ!?

なんでこんなに真っ暗なんだ!?

今、何時だ!?


真夜中だったらどうしよう、と恐る恐るベッドサイドの携帯を見ると、

7時10分。


よかった。

いつも8時くらいまで学校にいる月島には、そう遅い時間でもないだろう。



ホッとしたら、また身体がだるくなってきて、

俺は再びベッドに沈んだ。

すぐ目の前にある月島の顔を見る。


・・・月島ってこんな寝顔なんだな。

当たり前だけど、初めて見た。

起きてる時より遥かに子供っぽい。

化粧っけの無い肌なんて、ほんと、歩と変わらないくらい綺麗だ。



キスしたいな。

・・・いやいや、まさか、そんなこと・・・



誤解のないように言っとくが、別に俺は月島に手を出した訳じゃない。

ベッドに引き込んだものの、俺はそのまま月島を抱きしめて眠ってしまった。

多分、月島も、いつの間にか寝てしまったんだろう。


悪いことしたな。

怒ってるかな?

この寝顔見たら、怒ってるとは思えないけど・・・


いつまでも見ていたいところだけど、月島も家に帰らないと、

家族が心配するだろう。



今度いつ月島の寝顔を見れるかな?

もしかしたら二度と見れないかもしれないな。


そう思うと軽くへこみ、ますます起こせない。

でも、仕方なく覚悟を決めて月島の肩をゆすった。


「おい、月島。起きろ。もう7時だぞ」

「・・・え?」


月島は目を開いてしばらくボンヤリしてたけど、

今どこで何をしてるのか思い出すと真っ赤になり、

右手で左胸の制服を掴みながら慌ててベッドから降りた、というか、落ちた。


床にペタンと座っている月島に俺は言った。


「ごめんな。俺、熱でボーっとしてて・・・」


言いながら、「うわっ!最低な言い訳!」と思ったけど、嘘じゃない。

本当に熱でボーっとしてたんだ。


「い、いえ、あの、大丈夫です・・・か、帰ります」


月島は急いで立ち上がると鞄を探してキョロキョロした。

俺もなんとなく一緒に辺りを見回したが、

鞄が見当たらない。


「あれ?」


俺もベッドから降りて探す。

狭い部屋の中だ。

物もそんなにない。


さっき来たばかりの月島の鞄がなくなるようなこと、ないと思うけど。


「あ。もしかして」


俺は月島の足元にある掛け布団を拾い上げた。

さっき月島がベッドから落ちたとき、一緒に落ちたのだ。


案の定、布団の下に鞄があった。


「よかった!ありがとうございます!」


と言って、月島は布団の下に屈み込み、鞄を取って・・・立ち上がった。

ちょうど俺の目の前に。



あまりの近さにお互い一瞬息を飲んだ。


さっきベッドの中では思わず抱きしめたまま眠ってしまったけど、

冷静になって、改めてこうやって向かい合うと、物凄く気まずい。



月島が一歩下がろうと、片足を引いた。



その時、急に、ディズニーランドの帰りに行った焼肉屋のことを思い出した。

あの居心地のいい時間と、美味しそうに食べる月島。


あれを手放したくない。

もっと感じていたい。



頭で考えるより早く、右手が動き、

俺は月島を抱き寄せた。




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