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第1部 第19話

どこぞの会社社長のながーい、ながーい、閉めの挨拶が終わり、

2次会へ俺を引っ張っていこうとする宏を振り切り、

急いで図書館へ戻ったのが8時半。


もう真っ暗だ。



受付で堀西の卒業生である証明書を見せ、

昼間、月島といた階まで、階段を駆け上がる。


図書館は9時まで、もうほとんど人もいなかった。



「月島・・・!」

「あ、先生、おかえりなさい」


月島は昼間と同じ席で、同じ本を読んでいた。

俺を見つけると、左胸を押さえてちょっとほっとしたように微笑んだ。


これ、月島の癖だよな。

考え込む時や、気持ちが昂ぶった時や、安心した時なんかに、

よく右手で左胸の当たりを触ったり、服を握ったりする。


・・・俺が遅くって不安だったのかな。



「ごめんな。遅くなって」

「遅くないですよ。元々8時くらいだって言ってたじゃないですか」

「でも、もう8時半回ってるし・・・」

「え?そんなの、大してかわらないじゃなですか」


俺は一息ついて、苦笑する月島の横に座った。


「まだその本読んでたのか?」

「はい。でも、下巻です。上巻はもう読み終わりました」


そう言って、分厚い本を閉じる。


「もういいのか?」

「はい。とてもじゃないけど、下巻全部は閉館までに読み終われないですし」


・・・そうだ。


「借りたら?」

「え?私、部外者だから借りれませんよね?」

「俺が借りるよ。そしたら家で読めるだろ」


月島の顔がちょっと明るくなる。


「でも・・・そしたら先生が返しにこないとダメじゃないですか」

「それくらいいいよ。俺、ここでやりたいことあるし」


例の夏休みの宿題だ。

もちろん、学校でやる時間はたっぷりあるけど・・・。


「じゃあ、私もまた一緒に来ていいですか?他にも読みたい本、たくさんあるんです」

「・・・うん、いいよ」



おお、ラッキー・・・って・・・

俺、ずるいなー。

月島ならそう言うと思ったから、わざと「俺が借りる」なんて言ったんだよな。

我ながら姑息だ。


でも、月島だって、嫌なら「一緒に来ていいですか?」なんて言わないだろ。

俺といるのが嫌か嫌じゃないか、ちょっと賭けてみたかった。

少なくとも月島の「坂本先生」化は無い訳だ。


坂本先生、万歳。

関係ないけど。





月島の家の住所をカーナビに入れ、夜道を走った。

こういうは、何故か道が空いてるし、時間が経つのが早い。

おい、金曜の夜だぞ。

もっと渋滞とかしようぜ。


でも、意識すると何を話していいかわからない。

なんか、俺、それこそ高校生みたいだな。

いや、中学生か。



「そうだ。あのトレカありがとな。歩のやつ、喜んでたよ。

喜ぶときに、本当に飛び上がる奴、始めて見た」

「そんなに喜んでもらえました?よかったです」

「うん。月島のこと話したら『足長おじさんだ!』って言うから、

女だぞ、って言ったら『じゃあ、足長おばさんだ!』だってさ」

「えー。おばさんはヤダなあ。せめて、足長お姉さん、がいいです」

「足長お姉さんか。なんかヤラシイぞ」


月島が俺を睨む。

おお、やばい、やばい。

話題を変えよう。


「でも、足長おじさんは、最後は主人公の女の子と結婚するんだよな」

「そうですね。じゃあ、私は歩君と結婚するんですか」

「8歳位、年の差があるな。しかも男が下」

「・・・それはちょっと嫌ですね。でも私が30歳の時、歩君は22歳かあ。

それならアリですね」

「アリなのか?」

「そうですね。私、年上の人より年下の人の方が好きかも」

「・・・そうなのか?なんで?」

「なんで、って言われても・・・なんとなく・・・」


月島はちょっと困った顔をする。

自分の好みのことを「なんで?」って聞かれても、そりゃ困るだろう。

好きなもんは好きだし、嫌いなもんは嫌いだ。


・・・うん。


俺が軽く凹んでる間も、車は進み、

あっと言う間に月島の家についた。


学校からは電車で40分くらいだろうか、

こじんまりした一軒家だ。


庭も質素だけど、綺麗に手入れがされており、

なんか、いかにも「月島の家」って感じがする。



「月島、これ。本」

「あ、そうだ。すみません。ありがとうございました」

「2週間借りられるけど、次いつ行きたい?」


そう言いながら、生徒と出かけるとのっていいのかな、

と、思った。

1回だけならともかく・・・

でも、行き先は大学の図書館だ。

大丈夫だろう。


「土日って図書館開いてますか?」

「日曜は閉まってるよ」

「先生は?平日の方がいいですか?土曜の方がいいですか?土曜って夏休み中は学校も休みですよね?」

「どっちでもいいよ。平日でも夏休み中だから休めるし」

「そんな。わざわざ休んでもらうの悪いです。

でもせっかくお休みの土曜にわざわざ図書館なんて行きたくないですよね・・・」


月島が困ったように首をかしげる。

そんなこと気にしなくていいのに。

でも、こういうところが月島らしい。


「いいよ。じゃあ土曜にしよう」

「いいんですか?」

「うん」



俺は、7日の土曜に近くまで月島を迎えに来る約束をし、

携帯の番号とアドレスを交換して別れた。


生徒の番号やアドレスは俺の携帯に何人か入ってる。

でも、まさか月島のを入れる日が来るとは。

しかも、その月島を好きになるなんて。



罪悪感が無いわけじゃない。

でも好きなもんはしょうがない。


他の生徒と差をつけたり、

自分の気持ちを月島を含め周りに知られなければ問題はない。


月島みたいな奴が、教師を好きになるとも思えないし。




俺は家に帰り、生徒の住所録を見た。


最近は、昔のように全生徒に住所録を配るようなことはないが、

教師には緊急時に備えて、生徒の住所録が配られる。

そこには、生徒の名前、出席番号、住所、電話番号、保護者の携帯番号などが

載っている。


でも、実際の緊急時には、保護者の携帯に一斉にメールが配信されるため、

この住所録はあまり使われることは無い。

それにちゃんとナンバリングされており、一年に1回、学校に回収される。

個人情報の管理たるや、今はかなり厳しい。



まあ、そんなことはともかく、俺が知りたかったのは、なんてことはない、

月島の名前だ。


よく考えたら、俺は生徒の苗字を覚えるのに必死で、名前なんてロクに知らない。

でも、見てみると結構面白いぞ。


藍原は「藍原愛実あいはら めぐみ」・・・おお、似合うな。

遠藤は「遠藤周作」・・・まじっすか。遠藤親、手を抜いたな?

小野は「小野妹子」・・・ではさすがになく、「小野弘之おの ひろゆき」・・・結構普通だな。


他にも、

浜口葵、谷田さなえ、山田翔太、田中海斗、中山一輝、西田穂波・・・等々。


うわ、やっと苗字全部覚えたのに、下まで覚えないとダメか!?

なんか余計混乱しそう・・・。


で、肝心の(?)月島は、


月島和歌つきしま わか


和歌、かあ。



うん、なんかイメージ通りかも。


って、生徒の個人情報見て、一人ヘラヘラしてるって、ヤバイよなあ。












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