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第1部 第18話

吉○家にいた時とは、また違う目の輝きで本を読む月島。

読んでいる本は、海外のベストセラー作家の処女作だ。


「本屋にも図書館にもなくって。さすが、堀西大学ですね」と、

とても嬉しそうではあるが、

さっきとは別人のように、いつもの「真面目な月島」に戻ってる。




「牛丼なんて半分も食べれません」と思わせておきながら、

ちゃっかり牛丼も味噌汁も完食した月島は幻か?


うん、幻かもしれない・・・。


でも、俺の中でムクムクと膨れ上がる気持ちは幻ではなさそうだ。




――俺って、月島のことが好きだったのか。




どうしよう。


生徒だぞ。

しかも俺のクラスだぞ。

6つも年下だぞ。

それより何より、アノ月島だぞ。


生徒だろうが年下だろうが、例えば藍原なら、

二人の立場にさえ目を瞑れば付き合えるかもしれない。


でも、月島はもはや生徒だとかそんな問題じゃない気がする。


俺が教師だから、月島もこんな風に質問したり話しかけたりしてくれるが、

もし教師と生徒の関係じゃなかったら、

坂本先生みたいになってるんじゃないだろうか・・・


そう考えると簡単に凹める。

くそ、坂本先生、なんで俺のことあんなに嫌うんだよ、

と、変な方に八つ当たりしてしまう。





夜の集まりまで時間があるので、俺は月島と一緒に図書室に来た。

もっとも俺がいないと、紹介状を書かない限り月島は入れないわけだけど。

俺もちょうど、「夏休みの宿題」があるのだ。

「1学期を生徒と過ごして、自分がどう成長したか、何を学んだか」を、

夏休み明けに校長に発表しないといけない。


適当に終わらせるこもできるが、コン坊が何やら張り切ってるので、

俺も頑張らない訳にはいかない。

だから今日は、気合を入れて取り組もうと思ったのに・・・


隣の月島を見てため息をつく。

月島は、本に集中していて、もはや俺の存在など目に入らないようだ。



なんだよー、

好きにさせといて、放置するなよー


俺の心の叫びはもちろん届くはずも無く、

時間はあっと言う間に過ぎて、集まりの時間になってしまった。



「月島。俺行くから。何時までいる?送ってくよ」

「え?いいです。帰りは一人で帰ります。出るのは自由だし。先生はどうせ遅くなるでしょ?」

「・・・酒は飲まないし、2次会行くつもりはないから、遅くならないよ」


2次会は行こうかどうしようか悩んでたけど、たった今やめた。


「それに、ここからどうやって帰るつもりだよ?駅、遠いぞ」

「バス、ありますよね?」


あるけど、さ。


「いいよ。送っていく。8時には終わるから」

「いいんですか?」


月島はまた、いつものようにささやかに微笑んだ。


「じゃあ、お願いします。ここで待ってますね」





「真弥!久しぶりだなー!全然合コン来てくれねーし」

「おお、久しぶり」


コン坊が「覚えやすい名前の人」と言った、和田宏が、

会場で早速俺を見つけて近寄ってきた。


宏とは小学校からの親友というか、悪友というか・・・。

今ではすっかり合コン仲間だ。


宏はバカでお調子者で人気者で、二枚目というより三枚目だが、

何を隠そう、あのビールシェアNO.1のSビールの社長の御曹司だ。

Sビールは同族経営の会社だから、宏は次期社長というわけだが、

そんなことはオクビにも出さない。

もっとも、出したくてもこのキャラじゃあ出ないだろう。


頭一つ分くらい小さい宏を見下ろしながら、俺はため息をついた。


「そういえば、8月も合コンだったな」

「おう。今度は来てくれるんだよな?女友達も一人頼むぞ」

「うーん、やっぱやめようかな」

「おい!今更それはなしだぞ!こないだだって、ドタキャンだったじゃねーか」

「ドタキャン、ってほど『ドタ』でもないだろ」

「次はダメ!もう真弥が来るって言いふらした」

「誰に?」

「女の子達に」

「・・・」

「お前の写メばら撒いた。お前は女寄せに最高だよ」

「俺を餌にするな」

「ビジネスの世界はシビアだからな。友達だからって甘い顔はしないぞ」

「言ってることが、訳わかんねー」


宏はこういう奴だ。

こういう奴だから俺と気が合うのか。


「なんで急にやめるとか言うんだよ。さては女ができたな?」

「女とか言うなよ。こんな時だけ社長ぶるな」

「カノジョ」

「かる!」

「違うのか?」

「違う」

「じゃあ、好きな女ができたな?」

「・・・」

「おおー!珍しい!そしてそれはきっと、生徒だな」

「・・・」


なんだ、なんなんだ、こいつは。

俺の心の中が読めるのか!?


「今、なんで俺の心の中が読めるんだ、って思ったろ」

「・・・お前、何者?」

「ふふん、何年つきあってると思ってるんだよ。で、どんな子?」

「うるさい」

「教えろよー」


俺だってさっき、自分の気持ちに気づいたばっかりなんだ。

教えるも何もない。


そういえば、俺っていつから月島のこと好きだっただろう?

月曜に機嫌損ねた時は焦ったもんな・・・

あの時、実は既に好きだったのか?

・・・わからん・・・


宏の執拗な追及はなんとか逃れたものの、

8月の合コンはさすがに逃れられなかった。


「宏の合コン」は高校時代から有名で、ほとんど月1回のペースで開かれてる。

全く暇な奴だ。

それにほとんど欠かさず出てる俺も人のことは言えないが。


だけど「宏の合コン」は俺の中では、もはや合コンではない。

合コンの幹事ってそれなりにコネがないとできないのに、

こうもよく開催できる宏は、凄いと思う。

俺も女との出会いの場所ではなく、もはや人脈作りの為に参加しているようなものだ。

今では女よりも男目当てで行くことが多いくらいだ。

(変な意味じゃないぞ。男友達を作りに行く、って意味だぞ)

だから、彼女がいる時でも、了解を得て行く。


でもこの4月から忙しくて1回も参加してない。

「餌」である俺が参加しないのは、宏にとって大いに不満らしい。


そういう訳で、8月は仕方ない。

宏と男友達作りのために参加しよう。

あわよくば、コン坊の彼氏作りにも協力しよう。



って、そんなこと、どーでもいー!

この集まり、早く終われー!!






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