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第1部 第15話

次の日、月島は学校に来なかった。



「はあ。どうしよう・・・」

「どうした、真弥。また振られたのか」

「またって、なんだ」

「じゃあ、今度こそ?」

「うるさい。ほら、次の問題。この掛け算は?」

「わからん」

「わからん、じゃねーよ」


俺は歩のおじいちゃんの家に上がりこみ、

歩むと頭をつき合わせて算数ドリルをやっていた。


ドリルって!

なつかしすぎるぞ!!



「すみません、本城さん」


そう言って、おばあちゃんがお茶とお菓子を持ってきてくれた。


「あ。ありがとうございます。でもしょっちゅう遊ぶ予定なんで、お気遣い無く」

「でも、お夕飯もまだですよね?よかったら、うちで一緒に」

「いえ、本当に結構です」


俺が笑顔できっぱり言うと、そうですか、と微笑み返してくれた。

そんなことまで世話になったら、逆にこっちが申し訳ない。



宿題の後は、例のトレカとやらで遊んだが、何が楽しいのか俺にはさっぱりわからない。


「夜だからさー、外では遊べないけど、もうちょっと子供らしい遊びしようぜ」

「トレカなんて、まさに小学生の遊びだぞ?」

「うーん、じゃあせめてテレビゲームとか」

「真弥できるのか?」

「Wiiとかなら」

「持ってないもん」

「じゃあ、俺のやるよ。もう使わないし」


急に歩が俺の顔にぶつかりそうなくらい接近してきた。


「ほんとか!?ほんとにWiiくれるのか!?」

「あ、ああ・・・」


大学時代、友達と遊んだけど、もう1人暮らしでそんな暇もない。


「明日、持ってくるよ」

「やった・・・!やったあ!!!」


こんなに嬉しいものなのか。

俺は苦笑いした。


月島もこんな風に簡単に機嫌を直してくれたらいいんだけど・・・。

明日は学校くるかな?

でも、来た所で、どうやって話そう・・・。



「って、たんま。やっぱダメ」

「ええ!?」

「歩のお母さんが『いい』って言ったらな。ゲーム機を子供に与えるかどうかって、

家庭の教育方針もあるだろうから」

「ひでー!」

「ひどくない。今日、お母さんに聞いとけ。遠慮はいらないけどな」

「・・・わかったよ」

「あと、もう1個条件」

「えー!?」

「明日、俺が来るまでに、算数ドリルを2ページ進めとけ」

「・・・」





翌日、俺は用もないのに、朝から何度も教室へ行った。

月島はやっぱり来てない。

・・・このまま2学期まで会えなかったらどうしよう・・・


俺が、限りなく凹んでると、元気な声がした。

俺はどうも、凹むと元気な声に助けれるらしい。


「あー、センセ!おはよ!」

「藍原」


藍原に浜口、谷田が可愛らしいミニスカート姿で教室にいた。


「何やってるんだ?なんだ、その格好?」

「かわいいでしょ?」

「かわいい」

「てきとー、なんだから・・・」


藍原はぷうっと膨れる。

その仕草がまた可愛らしくって思わず笑ってしまった。


「今日ね、ラクロスの試合なんだ」

「ラクロス?ああ、3人とも女ラクだったな」

「うん。でね、12時までには戻ってこれるから、教室で一緒にお昼食べない?」

「ああ、いいよ」

「やったぁ。約束ねー!」


そう言うと、3人は高い声でおしゃべりをしながら、教室を出て行った。

・・・若いなー。


俺は苦笑いしながら、月島の席へ行った。

まるでいる気配がない。

トイレに行ってるって感じでもないな・・・。


再び俺は凹んで、職員室へ戻った。

さすがに今日は、坂本先生をイジメる気力もわかない。




「じゃーん!」

「え?何、これ?」

「クッキーに決まってるでしょ?」


約束どおり、昼は教室で藍原達と昼飯を食った。

俺はコンビニ弁当。

3人はお母さんが作ったのであろう、弁当を持参していた。

で、食べ終わったところで、藍原が鞄から何やら包みを取り出し、開いた。


「昨日、3人で作ったんだー」

「心して食べてね!」

「毒とか入ってないし」


そう言って、また3人でキャッキャと笑う。


「いや、クッキーは見ればわかるけど・・・俺に作ってきてくれたのか?」

「うん!だって、今日7月29日って、本城の誕生日でしょ?」

「・・・」


そうだっけ?

・・・え?そうだ!


「今日って、7月29日だっけ!?」

「忘れてたのー?」

「自分の誕生日なのに?」


忘れてた!

全力で忘れてた!!

うわ!本気で自分の誕生日忘れてたなんて初めてだ!


「なんで俺の誕生日知ってるんだよ?」

「近藤センセーに聞いたんだー」


コン坊に?

俺、コン坊に誕生日なんて教えたか?

まあ調べる方法はいくらでもある。

山下先生に俺の履歴書見せてもらうとか・・・


「センセーがバスケやってる間に、財布の中の免許証見てもらったんだ」

「そういえば、俺、たまにコン坊に預けるな・・・って、変なモン入ってたらどうすんだよ」

「なにそれ、やらしー」


3人がジロっと睨む。

冗談だよ、冗談。うん。冗談。


「とにかく!ありがと」

「プレゼントとかはまずいかな、と思ったからお菓子にしたんだ。

これなら、バレンタインのチョコと変わらないと思って」


そんなことまで気遣ってくれてたんだな。

本当にありがたい。


クッキーは普通に美味かったけど、3人の気持ちを考えるとなおのこと美味かった。

これで、月島のことがなければ、本当に幸せな気分なんだけどな。



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