第1部 第12話
「ひどい!」
「悪かったって・・・」
「期末、頑張ったのに!!」
「・・・悪かったって・・・」
「横暴だー!」
「・・・ごめん」
期末テスト終了の3日後。
つまり1学期の終業式 兼 教師の飲み会の日。
俺は一日中謝りっぱなしだった。
整理しよう。
俺が、
「次の期末の数学で、クラスの平均が70点以上だったら俺は修学旅行は沖縄に行く。
70点未満だったら、北海道」
と言った為、
ちょっとした物議がかもし出された。
もっとも、5組の中でだが。
俺はどうやら生徒からかなり人気があるらしい、
と、思っておこう。
生徒達が俺を困らせようとした、なんてことは無いハズだ。
うん、そんなことは無いぞ。
そんな教育はしてないぞ・・・。
南組は平均点を上げようと、藍原はじめ、みんなテストを頑張ってくれた。
しかし!
なんと、こともあろうに北組は一斉に平均点下げに走ったのだ。
しかもその徹底振りたるや半端なかった。
こぞって「0点」ときた。
ただし、そこはやっぱりレベルの高い高校。
ただ白紙解答で0点ではない。
みんなちゃんと解答はしている。
しかもワザとらしく、かなりの正解率だ。
が!
こいつら!!
わざと解答欄を1個ずらすという姑息な手に打ってでやがった!!!!!
これじゃさすがに南組も勝てない。
平均点は前代未聞の38点。
・・・やばいぞ・・・
「お前ら、プライドとかないのか」
「あるから、すっげー勉強して、ほんとの点数は北組は全員ほとんど90点以上だろ?」
確かに。
「でも、0点だぞ。総合順位だって落ちるぞ」
「俺達、高校の中の総合順位の為に勉強してるんじゃないし」
「・・・」
かわいそうなのは月島だ。
今回のこの「北組0点作戦」の指導者、小野に強要され、
無理矢理0点を取らされたのだ。
もっとも、本人は「点数なんてどうでもいい」と思ってるようだが。
他のクラスの数学ⅠⅡⅢの平均点は65点~75点。
5組だけ38点。
当然、学年主任の目にも止まるわけで・・・
「なるほど、そういう事情でしたか」
「申し訳ありません。僕の軽はずみな言動で・・・」
「しかし、本城先生は人気がありますね」
そう言って山下先生はニッコリ笑ってくれた。
「教師に取っては厄介な修学旅行ですが、生徒達に取っては大切な思い出です。
本城先生とどうしても一緒に行きたかったのでしょう」
いや、むしろ山下先生に俺がこうやって呼び出されるのを狙って、
わざと0点作戦を実行したのでは?
「生徒達の愛情に免じて、今回の件は目を瞑りましょう。
あと、解答欄をずらしてあるのはなかったことにして、採点し直してあげてください。
それを正式な点数にしましょう」
「あ、ありがとうございます!」
「ただし、今回だけですよ」
「はい。以後気をつけます」
「それと本城先生の修学旅行の行き先は、生徒の前でコレで決めたらどうですか?」
「コレ!?ですか!?」
そう言って、山下先生は、俺がもう見たくもない、「コレ」を取り出した・・・。
「で、結局くじ引きで決めるの?」
「ごめん・・・」
「ひどい!」
「悪かったって・・・」
「期末、頑張ったのに!!」
「・・・悪かったって・・・」
「横暴だー!」
「・・・ごめん」
と、まあ、冒頭の状況になった訳だ。
「期末頑張った意味、全然ないじゃん」
「そんなこと、ないだろ。成績あがったろ?」
「どーでもいー」
そう言う藍原は、今回数学は学年2位だった。
トップは再採点後の月島。
「よし、引くぞ」
俺が山下先生から手渡されたのは・・・そう、今日の飲み会の幹事を決めるために、
校長先生が作ってきたクジだ。
まだ取ってあったのか。
今日、飲み会の前に職員室を掃除しとこう。
「じゃあ、俺が赤を引いたら沖縄、色がない方を引いたら北海道、でいいな?」
「いいよー」
みんな俺が今日の幹事になった経緯を知っているので、
なんとなく赤を引く気がするらしい。
テストの採点に関しては北組を大目に見たということで、
クジは南組の要望を取り入れ、赤が沖縄、色なしが北海道となった。
ほんと、どうでもいいことだが、高校生ってこんなことにこだわるのか。
てゆーか、こんな風に教師の修学旅行の行き先って決められないんだぞ、ふつー。
生徒と教師の人数のバランスや、男性教師と女性教師のバランス、
若い教師と年の教師のバランス・・・
色々考慮されて教師の行き先が決められるのに、
こうして生徒の目の前で公平にクジで決められるのは、
俺がどっちに行ってもいいように、山下先生が色々と手回ししてくれたお陰だ。
「えい!」
「おお!?」
俺が引いたクジは・・・
赤い色がついていた。
俺、王様ゲームでもこんなに赤い箸引いたことないのに・・・
しばらく夢でうなされそうだ。