第1部 第11話
中間テストの「赤ペン先生病」が完治した頃、
期末テストがやってきた。
それと同時にテスト以上に面倒くさいものがやってきた。
「・・・なんか、王様ゲームみたいですね」
「でしょ?面白いと思いまして」
先を赤く塗った割り箸を見つめる俺の前で、
ニコニコしているのは我らが校長先生。
ようやくご登場だ。
この50代の保志校長は穏やかで優しいく、生徒からも教師からも人気がある。
見た目からしてその人の良さが溢れている。
が、たまにとんでもないことを言い出す。
例えば、
「1学期の打ち上げの幹事はくじ引きで決めましょう」
と言い、自分でそのクジを作ってきてくれた。
それが、コレ。
教師の人数分の割り箸。
その一つだけ先が赤に塗られており、大当たり、という訳だ。
しかも。
一番最初に引いた俺がその大当たりを引き当てた。
後の割り箸がもったいない。
「って、校長先生、ちょっと待ってください。他の割り箸も実は全部赤く塗ってるんじゃないですか?」
「どうしてです?」
「そうすれば、一番最初に引いた教師が絶対に幹事ですよね?」
「え?あはははは」
校長先生は笑うと、缶に入った残りの割り箸をみせてくれた。
当然、全部色はついてない。
「・・・」
「という訳で、本城先生、幹事をお願いします」
「・・・はい」
俺の周りでみんなが必死に笑いを堪えている。
が、もう我慢できないとばかりに一斉に噴出す。
「あはははははは!本城君!一生分のクジ運、使い果たしたわね!」
「コン坊・・・手伝えよ」
「イヤ」
冷たいな、おい。
「ふふ、本城先生頑張ってくださいね」
嫌味たっぷりにそう言うのは坂本先生。
河野先生が、手伝いましょうか?と言ってくれたが、
これをきっかけに親交を深められても困るので遠慮しといた。
森田先生も山下先生も俺を助けてくれる気は全くないらしい。
くそお。
「じゃあ、幹事の権限で、飲み会は7月24日の金曜日!それ以外は受け付けませんから!」
「ええー!?」
さすがにブーイングが来る。
へん、幹事様は強いんだぞ。
なんたって、王様だぞ。
「後で、出欠確認に行きますから!これない人はもう知りません!」
「うわー、横暴だ」
「どうせみんな暇でしょ?」
「言い切ったな。そういう本城先生は忙しいの?」
森田先生が意味ありげな視線を俺と篠原先生に投げかける。
「ええ。デートでとっても忙しいんです!だから24日だけしか空けれません!」
えー?という教師全員の声を無視し、俺は行事予定表の7月24日の欄に、
『飲み会!!!!残業禁止!!!!』
と書き込んで、授業へ向かった。
もちろん、デートなんてのは口からでまかせだ。
「あ。俺、24日、合コンに誘われてるんだった・・・」
「どうした、本城?」
「いや、なんでもない、質問のある奴いるか?」
「合コンって、誰くるんですかー?スッチーとか?」
「古いな、遠藤。最近はCAって言うんだぞ」
「ああ。キャビンアテンダントね」
「そうそう。えーっと確か、S化粧品って会社のOLって言ってたな」
「おお!よさげ!」
「だろ?くそっ!適当に24日とか言わなきゃよかった・・・」
「?」
5組の授業中に、合コンの予定を思い出し、小さく舌打ちする。
でもあそこまで言い切ってしまったらから今更変更って訳にいかないだろう。
ちぇっ、今回の合コンは諦めるか。
ああ、幹事ってめんどくせー!!
「合コンって、篠原先生はどうしたのよ?」
すかさず藍原が突っ込んでくる。
「うーん、ま、保留?」
「うわ、最低」
「何とでも言ってくれ。てゆーか、お前ら普通に数学の質問とかないのか。
いっつもこんなことばっかり質問しやがって」
「他に聞くことないし」
「・・・おい、月島。なんか質問ないか」
「ありません」
月島にはこの問題はちょっとレベル低いか。
「じゃあ、ちょっとしたゲームをしよう」
「はあ?」
「次の期末の数学ⅠⅡⅢで、クラスの平均が70点以上だったら俺は修学旅行は沖縄に行く。
70点未満だったら、北海道」
「えー?」
「頼むから沖縄に行かせてくれよ。北海道だったら悲しいぞ」
これで藍原と浜口と谷田は頑張ってくれるだろう。
あと、遠藤。
さあ、結果が楽しみだ。
が、テストは予想外の結果を迎えることとなる。