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第1部 第10話

「・・・私、先生の相談相手じゃないんですけど・・・」

「そんなこと言うなよ、月島。どう思う?」


その日の夜、8時前を狙って教室に行った。

案の定、月島が一人。

二人いたら怖いが。


「なんで俺、篠原先生に甘いんだろ」

「甘いんじゃなくて弱いんじゃないですか?」

「弱い?」

「好きってことです」

「俺が?篠原先生を?」

「美人じゃないですか」

「うん、確かに美人だよな・・・」


見とれるくらいに美人ではある。

でも、なんか「好き」ってのとは違う気がするんだよな。


「もともとタイプじゃないし」

「付き合ってみたらいいじゃないですか」

「なんでそう思う?」

「先生って、女の人には適当そうだから。取りあえず付き合うだけ付き合ってみたらいいじゃないですか」


月島は関心がないようで、数学の問題を解きながら俺の話に返事する。

教師たるもの、生徒の勉強を邪魔しちゃいけない。

でも、まあ、月島くらい勉強できればちょっとくらいいいじゃないか。


「適当ってなんだよ。俺、あんまり遊んだりしてないんだけど」

「あんまり、ね」

「・・・少し」

「そうですか」

「・・・」


相変わらずズバズバ言う奴だ。


「篠原先生みたいに綺麗な人がタイプじゃないだなんて贅沢です。どんな人ならいいんですか」

「もっと派手でさっぱりした人がいいなー。性格で言えば坂本先生みたいな。

ちょっとサバケ過ぎかな?」

「・・・」

「あ。そういえば前、藍原みたいなのはアリだなあ、って思ったことあるな」

「生徒、ですか」

「おい、誤解するなよ。あくまでタイプの話だ。藍原がいいって言ってるんじゃない」

「でも、藍原さんは先生のこと好きみたいだから、いいんじゃないですか」

「・・・月島、お前、俺のことなんてどーでもいいと思ってるだろ?」

「思ってますけど、何か?」

「・・・」


こうもズバッと切られると、

いくら月島でも悲しいぞ。


「食事の約束したんだったら、取り合えず行って楽しんできたらいいじゃないですか。

どうしても好きになれそうになかったら、次はもう誘わなければいいし、

誘われてもやんわりと断ればいいし」

「そうだよな!うん、そうだよな、うん、そうしよう」

「・・・ほんと、先生って意外とこういうとこ子供ですよね」

「そうか?」

「もっと上手くあしらいそうなのに」

「うん・・・同僚相手だから気を使うのかも。気まずくなりたくないし」


月島の手元に、今日配った修学旅行の行き先のアンケート用紙が見えた。


「月島、どっちに行くんだ?」

「北海道です。暑いの苦手だから」

「あー。苦手そうだな。西田も北海道か?」

穂波ほなみは・・・西田さんは沖縄です」

「え?一緒に行かないのか?」

「西田さん、彼氏がどうしても沖縄に行きたいらしくって。

私が一緒に沖縄にしても、お邪魔だろうし」


西田の彼氏・・・

ああ、隣のクラスの男子だな。


「月島は彼氏いないのか?」

「いるワケないじゃないですか」

「ワケないってことないだろ」


すると月島は口の端だけ上げる独特の笑い方をした。


「だって、私、彼氏とかいらないですから。そもそも私と付き合いたいなんて人いないだろうし」

「そうか?」


確かにこれだけ頭のいい月島だ。

同世代の男はちょっと近寄りがたいかもしれない。

でも見た目も悪くはないと思うけど。


「・・・先生、私にそんな話するためにわざわざ教室に来たんですか?」

「戸締りもあるけどな。月島は俺のことよくわかってるみたいだから、相談しがいがある」

「しがい、って・・・」


月島が苦笑した。

お、この表情も初めてだな。



俺は、月島の勉強を散々邪魔して、

だいぶスッキリした気分で教室を出た。


すると、廊下の向こうから、男子生徒が歩いてきた。


「さよなら、本城先生」

「ああ、さよなら」


俺とすれ違いざまにそいつは軽く会釈した。

2年3組の溝口というやつだ。

ガッチリした体格で身長も俺と同じくらいある。

ちょっと強面の感じだ。

でも、荒いとかそういうタイプじゃない。


俺が振り向くと、溝口は5組の教室をドアの小窓から覗き、

中を確認して入っていった。


・・・なんだ、月島のやつ。

彼氏なんかいらない、とか言って。

今の溝口は、明らかに中に月島がいるから入って行った。

まあ、月島だって普通の女子高生だ。

言い寄ってくる男くらいいるだろう。

溝口と月島って組み合わせはちょっと意外だけど。






「あ。真弥だ。そのカッコはデート帰りだな。ヒューヒュー!」


ヒューヒューって・・・


「おい。あゆむ、お前昭和時代に生まれなおして来い」

「うるさーい!」


歩がプーッと頬を膨らませる。


金曜日、例のデートを終えて無事帰還したところで、

歩に捕まった。

歩は小学校3年のやんちゃ坊主で、

俺の住むアパートの前の古い一軒屋に住んでる。

いや、住んでるじゃなくて、両親が共働きのようで、

学校の後はこのおじいちゃんの家で母親が迎えに来るのを待っているのだ。


学校から帰ってくるのは、学童が終わった5時。

母親の麻里さんが迎えに来るのが10時。

おじいちゃんとおばあちゃんには随分とかわいがってもらってるようだが、

やはり寂しいのか、俺が早く帰ってきた時にはすかさず外に飛び出してくる。

4月からずっとこの調子だ。


口は達者だけど、何故か言うことがいちいち古い。

じいちゃん・ばあちゃんの影響か。


今日は7時に学校を出て、9時過ぎまで篠原先生と食事をしていた。

で、今ちょうど、麻里さんに連れられて家から出てきた歩と出くわした。


「あ、本城さんでしたよね。いつも歩がお世話になっております」


いかにもキャリアウーマンと言った感じの格好をした麻里さんが俺にお辞儀する。

こんな大きな子供がいるのに、若そうな感じだ。

でも・・・この人・・・誰かに似てるな。

誰だっけ?


「い、いや、そんなお世話なんて。夜ちょっと話したりするくらいですよ」

「でもこの前は宿題を見てくださったそうで・・・」


そういえば、わからない問題があるからと言って、家に引き込まれたっけ。


そんな大人同士の挨拶の間、歩はもう耐えられないという感じで、

麻里さんに手を握られたまま船を漕いでいた。

学校で遊んで、学童で遊んで、家で宿題しながら母親を待って・・・

さぞかし疲れてるんだろう。


でも俺が、じゃあな歩、と声をかけると、パチッと目を開け、

俺をじーっと見た。


「真弥、疲れてるな」

「・・・お前もな」

「その分だと、今日のデートで振られたな」

「振られてねーし」

「歩!なんて失礼なことを!」

「あ、いえ、お気になさらずに」


いっつもこんな感じなんで。

40人の芋栗かぼちゃ達がが浮かぶ。


何度も謝りながら駅に向かって歩いていく麻里さんと歩を見ながら、

俺はため息をついた。


そう。確かに今日のデートは疲れた。

普通に楽しく話して飯食って。

だけど俺はなんだかすっかり気づかれしてしまった。


なんていうか・・・

篠原先生は壊れ物のようで、少しでもキツイつっこみとかしたら、

泣き出しそうで怖い。

だから、当たり障りない感じの会話を心がけた。


やっぱり俺は、ズケズケ言われるくらいがいいのかもしれない。

その方が俺も気兼ねなくなんでも言える。


5組の奴らやコン坊、坂本先生、さっきの歩もそうだ。

俺ってちょっとMっ気あるのかな。

でもおちょくるのも好きだぞ・・・。




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