力試し!……魔王と戦闘!?もうラスボス!?
「……?」
「ご機嫌麗しゅう、えーっと……」
「……ネバー」
名前、確かに言ってなかったけど……これ、なんて状況?
「ネバーさん、突然ですが今から私と戦ってもらいます」
「へ?」
戦う? 魔王と?
「意味がわからないんだけど」
いやいや、何言ってんのこの人?
「勇者よ、旅立つのだ!」って、レベル1の時に魔王が乗り込んでくるやつじゃん。
「フィールドに移動しながら話します」
「……」
言われるがままについていく僕。
「マスター」
「?」
「何かあったのか?」
「何も?」
「違和感を感じても無駄ですよ。彼は今、私を完全に信用していますから」
「?」
「その話もしましょう。隠す必要もないですしね」
相変わらずファンタジー要素の薄い世界だな……エレベーターのボタンを押され、乗り込む。
「それで、どういうことだ?」
「彼は私と“奴隷契約”をしました」
え? 奴隷? って、あの木の車輪をぐるぐる回すやつ?
「その反応からして、そちらの世界にも“奴隷”は存在したようですね」
「……」
なんか勝手に誤解されてる気がする。
「こちらの世界では“奴隷契約”をすると、常識の一部が書き換えられ、主従関係の中で“疑いなく命令を実行する”ようになるんです。もちろん、テイマーに使役されているあなたにも、その影響は及んでいますよ」
……確かに、マスターの言うことには疑問を抱いたことがないな。
エロ漫画の“常識改変タグ”みたいな感じか?
「これからあなた達は、冒険者の仕事と並行して、私の依頼もこなしてもらいます。
その実力を見極めるために――」
エレベーターのアナウンスとともに扉が開く。
「ここで私と戦っていただきます」
観衆のいない円形闘技場。広すぎるほどの空間に、響くのは足音と鼓動だけ。ここは“見られるため”ではなく、“試されるため”の場所だった。
「マンタティクスさんは、あそこで待機を」
「はい」
「ネバーさんは、こちらへ」
「……」
いやいやいやいや!? 結局バトルじゃん!? てか魔王戦!?
誰かこの足を止めてくれ!
「質問いいか?」
「はい?」
「今の君、普通の服だろう? 殺し合いでないとはいえ、その状態に攻撃するのは抵抗がある」
「あぁ、なるほど……私に攻撃が当たるとは思ってませんが、本気を出していただかないと困りますしね」
「では、お言葉に甘えて」
「…………」
一瞬で黒いシスター服に早変わり。お尻も胸も強調されすぎ! ファンタジー特有の即装備かよ!
「あぁ、これで心置きなくやれる」
「……」
えええ!? 何構えちゃってんの僕!
「あら? 本気を出せと言うわりに、あの武器は使わないのですか?」
……あぁ、そういえば見てたんだよな、あのときの戦いも。
でもなぁ、あれは――
(グロかった……)
「あれはもう俺のマスターの物だ。手放したのだから、今さら取り返すのもカッコ悪い」
「ふふ、それもそうですね……でも」
「!?」
危険を察して、腕をクロスして防御――直後、衝撃が走った。
「普通の人なら吹っ飛ぶ威力でしたけど……耐えましたね」
「不意打ちとは卑怯だな」
「あなたがグズグズしてたからですよ」
ブネェ!? いきなりパンチかよ!
でも……思ったより痛くない。サッカーボールが当たったくらい?
「いいだろう、少し付き合ってやる」
「その言葉は私と同レベル以上なら言ってくださいね」
――尻尾で足元を狙ってきたが、見えてる。
飛んで回避。いける……!
「魔王に褒められるとは光栄だ」
「では次は、少し本気を出します」
――一気に速くなった! だが……
(考えられてる……!)
身体が勝手に動く。転ぶとき反射的に手が出る、あの感じに近い。
ヤバい、安心感がある。
「ふん!」
「……」
……おっ、パンツ見えた。黒か……刺激が強すぎるって!
「……」
「……どうした? もう終わりか?」
「……本当にさっきから……」
「?」
「ふざけてるんですか!!?」
「うおっ!?」
今のはヤバかった!
「戦闘中に何を考えてるんですか!」
「ん? え?」
パンツ見てたのバレてた!?
「私の目は戦闘中、微細な動きも見逃しません。あなたが何度も私の胸や太ももに視線を向けていたことくらい……見えてますよ」
「ぐ……」
終わった……。
「しかし何ですかそれは!」
……はい、股間です。盛り上がってます。絶望です。
「失礼した。あまりにも美しすぎたのでな」
「うえっ!?」
お? まさかの照れ顔?
「な、なに言ってるんですか!」
うん、これがイケメン補正か。異世界すげぇ。
「だが、勘違いしないでほしい。恋心を抱いてるわけではない」
……キッパリ言っとくのは大事だって、ラノベで学んだ!
「……」
「うおっ!?」
今の一撃は強烈だった! でもギリ耐えた!
「つまりあなたは、恋心もなく私をジロジロ見ていた、と……? 最初に戻りましたね」
(し、しまったぁぁぁあ!)
こうなったら!
「フン!」
その場で地面を踏みつけると、轟音と共に砂煙が立ち込めた。
「今度はこちらから行くぞ」
「やっとやる気になりましたか。来なさい」
――よし、流れ変わったな。
でもどうしよ。
本気で殴るのはなぁ……魔王だけど、そこまで極悪って感じでもないし。
……あ、そうだ! よくある寸止めで決着するやつ!
「その場から動くなよ」
「なにを――」
一瞬で背後へ。
「!」
ギリギリ当たらない位置から、拳を突き出す!
拳が止まった瞬間、風圧が爆発。
ウジーザスの白髪が激しく揺れ、シスター装備は破け、
後方の地面は抉れ、壁に風穴が開いた――
「……」
「……」
女神様……さすがにこの身体……やりすぎじゃない?