謎の人物!……黒幕の存在!?
「落ち着きましたか?」
「……はい」
「何を勘違いしているのか知りませんが、私は他の魔王とは違います。意味もなく誰かを殺すようなことはしません。――私が知りたいのは、ただ“真実”だけです」
「……」
「私の異能の目は、日々さまざまなものを映しています。見ると決めれば、一人ではなく、複数同時に、です」
ウジーザスはそう言いながら、静かに紅茶を口に運んだ。
自分で淹れたものらしい。優雅な手つきだった。
「ですが、私も神ではありません。見えない人もいます。ですが――長年見ていれば、異常な動きをする者は自然と浮き彫りになるものです」
「っ……」
「ですから“ある日、突然そういう動きを始めた”あなたのことを、私は観察していました」
「……」
「ここまで言えば分かりますね?」
魔王の声に揺らぎはない。
「ざっくり言えば、あなたのことは――すでに調べ済みです」
「……」
「正直に言って、あなたの成績は凡人未満。魔力適性も、戦闘技能も、生活魔法に至るまで基礎レベルにすら到達していません。単純な記憶力や思考速度も平均を下回り、実技試験では毎回下位3割以内に低迷。いわゆる――落ちこぼれ中の落ちこぼれです」
「!?」
「ついでに言えば、協調性はなく、報連相もできず、努力の跡も見えません。環境のせいにして、自分の無能から目を背けてきた、典型的な“夢見がちな失敗者”ですね」
ズバリと断言された。
「ぐはっ!」
「ですが、そんなあなたが……ギルドから支給された“契約の鎖”を使用せずに、そもそも触れることすら禁じられている召喚魔法――それも、複雑極まりない異界召喚魔術を、ほぼ独力で発動させた」
「しかも、召喚対象は“人間”――既にこの世界からは存在が消えた、討伐対象中の討伐対象。召喚経路も、魔素圧も、術式の枠組みすら通常の理論とは異なる特殊構造でした」
「それを、魔法理論の基礎すら理解していないあなたが、知識も経験もなしに成し得たというのですか? ――そんな話、信じろという方が無理です」
「常識的に考えても、背後に何らかの介入者、もしくは導いた存在がいたとしか考えられない」
魔王は紅茶のカップをソーサーに戻し、
そのままの口調で、静かに言った。
「……教えてもらえますよね?」
口調はあくまで穏やか。
けれど、その目だけは――氷のように冷たかった。
――もはや、マンタティクスに拒否権など存在しない。