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ゼムナ戦記 惑乱の星  作者: 八波草三郎
エイドラ政変

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15/52

始まりは運命(2)

(不思議な……、ん……?)

 目と目が合ったと思った瞬間、世界が変わった。


 景色が消える。リリエルがいたのは都市中心部で比較的高層ビル群が形成されている区画。ゴート宙区の都市と似ている印象を持っていた通りだったはず。

 しかし、曖昧に感じる色と広がりを覚える空間の中に放りだされている。感覚も不確かで、自身がどういう状態なのか不明瞭。


(あ!)


 そんな場所でありながら、最初に見たのと同じ距離に少年がいた。上下左右もわからないまま二人だけになる。

 互いをつなげるかのごとく無数の光が少女に向けて走る。それは戦気眼(せんきがん)の金色の線に似ていながら、全く異質な印象だった。


(戦意みたいに尖った感じが全然しない。むしろ暖かい感じ)

 無数の流れ星のような光の雨に打たれている。なぜか「チチチ……」と小さな音が聞こえた。


 丸裸で彼とつながっているようなイメージで急に羞恥を覚える。つい両腕で胸元と股間を覆ってしまう。一方的だった光の雨が幾筋か少年へと流れた。


(え?)


 異空間は唐突に終わる。そそり立つビルと都会の喧騒が戻ってきた。少女はそれを残念に感じている。


「ねえ、君!」

 伸ばした手も元どおりパイロットブルゾンに包まれたものに戻っている。


 二人の間には盛んな車の流れ。駆け寄ることもできない。隙間から覗ける少年はまだリリエルを見ている。その表情が和らぐと、ふわりと笑った。それだけで先ほどと同じ柔らかな空気に包まれたかのごとく感じる。


「待って!」


 紫と緑の瞳は背けられ立ち去ろうとしている。昼時を迎えて途端に多くなった人の流れの中に紛れて消えた。


(あのσ(シグマ)・ルーン)


 彼が頭に着けていたのは前頭部まで覆う特殊なもの。協定者に与えられるような特別製のそれに酷似していた。ただ、最近ではカジュアルに改造されたσ・ルーンも時々見受けられるようになってきたので確かとはいえない。


「残ってるわね、よし」


 意識スイッチでσ・ルーンのカメラが記録している動画の一部にロックを掛けて上書きされないようにする。中身を投影パネルで確認した。


(それと……)

 少年が見上げていたビル。マップを出してその場所にピンを落とす。


 それだけの作業を終えるとリリエルは予定を変更してレイクロラナンの停泊する宙港へと足早に帰路に着いた。


   ◇      ◇      ◇


「そんで、これがその相手っすか」

「そ、これが誰か調べる方法ある?」


 リリエルは運命のようなものを感じていた。少年が誰なのか調べずにはいられない衝動に駆られる。


「ここは星間銀河圏っすからね」

 ゴート宙区もそうなのだが、加盟してそれほど長くないのでプライガー・ワントもそんな表現をする。

「うちの管轄内だったら多少の無理は利くっすけど、星間管理局は問い合わせても個人情報保護で突っぱねるんじゃないっすか? でも意外っすね、お嬢が一目惚れとか」

「うっさい、黙れ!」

「うひっ!」

 余計なこと言う男に肘鉄を食らわせる。

「やるだけやってみましょ」

「お願い、ヴィー」


 意を汲んでくれたヴィエンタ・ゾイグに頼む。彼女は問い合わせフォームに画像を添付してから送った。


「ノーデータ?」

 程なく回答がある。

「やっぱ無理かぁ」

「いえ、これは回答拒否じゃありませんよ。存在しないって言ってきてます」

「存在しない?」

 奇妙な話だ。

「特徴が合致しない? 例えば、あの瞳の色がカラーレンズだったとか」

「それだと類似する候補くらい挙げてくれてもいいし、それもできないんなら回答拒否になると思うんですけど」

「むー」


 星間管理局も少女の立場を慮って弾かれなかったのだと予想。ヴィエンタはもし問い合わせが一般からだったなら問答無用で拒まれていたのではないかと主張した。


「これほど明瞭に存在しないと回答があるなんて」

 お守り役は首をかしげる。

「変なの?」

「妙です。公にできないなにかがあるとか」

「存在を隠すためにノーデータとか送って寄越したってんすか?」

 プライガーも眉をひそめる。

「あ、そう。覗かれるのが嫌なわけ?」

「お嬢?」

「このあたし相手に通用するなんて思われてんなら嘗められたもの」


 機体格納庫(ハンガー)のコンソールデスクを操作する。リリエルが通信をつなげたのはブラッドバウの本拠地、機動要塞バンデンブルクである。


「エルシ」

 呼びかける。

「元気そうね、エル。外宇宙は楽しいかしら?」

「なかなか愉快よ。中でもとりわけ愉快な反応されたもんだからちょっとイライラ」

「そんな顔しないの。可愛くないから」

 膨れっ面を指摘される。

「これが誰か調べて。星間管理局の鼻を明かしてやるんだから」

「あら、その子」

「へ、知ってるの?」


 こちらでも予想外の反応。ゼムナの遺志ともあろう美女が目を細めるとニンマリと笑う。


「運命なのかしらねぇ」

 意味深な台詞。

「教えてよ!」

「自分で調べてごらんなさい。そのほうがきっと楽しいから」

「なによ、それ」

 意味ありげな口調は珍しくもないが今回はとびきりだ。

「本当に知るべきならちゃんと引き合わせてくれるわ」

「誰が?」

「あなたたち人類が」


 エルシは「頑張りなさい」と言って素っ気なく通信を切る。取り付く島もない。


「なんなのよ!」

 リリエルは憤慨する。

「女史があんな言い方をするときは無理っすよ。絶対取りあってくんないすから」

「知ってるわよ!」

「これはちょっと大変そうですね」


 祖父(リューン)なら「面白え」と笑い飛ばしそうとは思うものの、まだ子供の彼女では突き放されたと感じて不安しか湧いてこない。押し隠すように腕を組んで考え込む。


「別の線で当たるしかないんなら……」

 彼が見上げていたビルのほう。

「ここがなにかわかる?」

「調べましょう。……登録は『カシエド商会』になってますね」

「商会? 貿易商社って書いてあるけど?」

「取引仲介みたいですね」


 ありきたりな名前ですぐには限定できないが、地域で絞ると社名と事業内容が出てきた。農産物関連の取引をしているとある。


「あの子はそこの関係者? 違うわよね。そんなつまんない相手ならエルシが隠したりしない」

 考えるまでもない。

「だとすれば?」

「噂を当たってみましょう。カシエド商会に関してなにかわかるかもしれません」

「統計フィルターかければ多少は信憑性も上がるかな?」


 悪意あるデマやライバルのステルス妨害など取り締まろうにもキリのない情報が氾濫している噂の収集。そこから事実に近いものを統計的に拾いだす作業。

 星間管理局がよく使う手法だが専売特許というわけではない。情報戦でも一歩抜きんでるブラッドバウならそういうデータメソッドと呼ぶべきシステム構築もしている。


「地域特情をパラメータに噛ませればもう少し絞れるはず……」

 ヴィエンタが取り留めのないデータの奔流に網を投じる。

「カシエド商会って、この惑星ウェンデレロではわりと老舗のほうみたい。入植後は変わり種の農産物とか扱ってて比較的好調だったようです。でも、新規参入が増えて独自色が出せなくなった頃は一時傾いてたみたいですね」

「ありがちっすね」

「努力が足りないのよ。うちでも開発関連に湯水のよう資金を注ぎ込んでるから成り立ってるってのに」

 現状に胡座をかいた商売と聞くとつい辛辣になる。

「焦って色々手を出したようで、調査に投資という名の賭けをしたんでしょうね。そんな証言が掛かりました」

「ま、順当かも」

「その賭けは当たりだったようで持ち直してます」


 ウェンデレロの未踏地調査を人を使って行い、成果に繋がったという話。普通に考えれば、ありふれたとしか例えようがない。


「ただし、現在の取引品目に目を向けると、なにが要因だったのか不明です」

 おかしな話になってきた。

「とりわけ目立つものが見当たりません」

「臭ってきたわね」


 リリエルは怪しげな話の流れに目を光らせた。

次回『始まりは運命(3)』 「露骨に胡散臭いっすよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 明けましておめでとう御座います。 時代の子どうしも引き合うのかな?
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