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「第九話」町の明り・・・。

300年前に人類を滅亡のふちに追いやった神々の一角、魔神・リュブリナと共に旅をすることになった勇者の血統・レン。二人とも魔法が人並み以下という欠点を抱えているため、新しく設定した「世界樹」への旅路もままならない。故に、仲間を探すこととなった。

歩き続けること、一週間がたった。町はない。それどころか道路さえもいつの間にか無くなってしまっていた。リュブリナの救出に使った魔馬にも逃げられるし、もう終わりだ・・・。


ズンズン歩いていくリュブリナの背中を追い続けて、追い続けた結果がこれだ。こいつについていくと決めた以上は疑うことはしたくない。しかし、この惨状・・・


「おい!いい加減にしろ!迷ったんなら迷ったって言ってくれ!いや、すでに迷ってはいる。これはあれだ!''遭難''だぜ!このまま魔物に襲われたら俺たちひとたまりもねぇぞ!」


リュブリナの肩がプルプルと震えていた。ふと見下げると、その拳は強く握られており、次の瞬間、俺の右頬に鈍い衝撃が迸った。


ゴキッ


「ッテェェェェナァ!急に殴ってんじゃねぇ!」


「ルセェェェ!三分に一回小言を言うなバカモノ!ワシが迷ったとでもいうのか?ワシが悪いとでも言いたいような顔をしていたから殴ってやったわ!さあ笑え!ガハハハハハ!!」


なにこいつ、コワイ。壊れてるじゃないか。それもそのはず。一週間ずっと森の中で、見えるものといえば空と木だけ———。


「やったな、この野郎!!待てゴルァ!」


走り出すリュブリナを追いかけようと右足を踏ん張り、猛烈なダッシュによる助走をもって奴をぶん殴ろうとした瞬間、右足が突然なくなった。


———否、踏ん張る地面が崩れ落ちたのである。茂みで気づくことができなかったが、俺たちはずっと崖沿いに進んでいたのであった。左足もついでに踏み外した俺は必死に両手で崖のヘリをつかんで死に物狂いで生に固執する。


「ダズゲロォォォ!!!」


リュブリナがこちらの様子をうかがいに来るとすぐに、手を貸すべく近づいてきた。


「おい、大丈夫か!———あ。」


「おい、早く手を貸せ!」


落ちないように最大限の注意を払いながら、リュブリナの方へ目を向けると、彼女の視線は明らかに向くべき場所を向いていなかった。彼女の視線は俺のさらに奥、崖の下に向いていた。


(・・・?)


首だけで必死に下の様子をうかがうと、彼女が唖然としている理由が分かった。沈んでいく西日に重なるようにして、煙が空高く昇っていたのだ。それは明らかに人がいる形跡を示しだしていた。


それと、気づいたことがもう一つ。


「高すぎるだろォ!助けてぇぇぇ!」


あまりの絶景に息をのんでいたリュブリナも俺の断末魔にようやく我に返り、手を貸してくれた。


俺たちはそれからさっき見えた煙に向かって歩き始めた。木々をかき分けて、暗い夜道を進んでいく。虫のざわめきや、葉っぱが重なる音でさえも過敏に反応してしまう。魔物が怖いためだ。当のリュブリナ本人はあれからというもの、ずっと静かに歩き続けている。まるで、答えを急いでいるかのようだ。


「おい、あんまり急ぎすぎると足を踏み外すかも———」


「お前とは違うわ!そんなことより、あの煙はおそらく・・・近いぞ。」


ツンと香る、木々と肉が焼けるにおい。火の源は近いようだ。一体だれが、何のために火を起こしているのだろうか。


「レンよ。五感で最も記憶力がいいのは、どこか知っているか?」


足音を殺せ。そういわんばかりの気配の消し方を目の前で実演された俺は、なすすべもなくそれに従った。彼女が見つめる先には、何も見えないが、彼女には何かが見えているのだろうか。


「・・・知らん!普通に考えたら、視覚とか?」


「違う。嗅覚だ。この匂い、忘れるはずがない。お前もかいだことがあるはずだが?」


(・・・?)


いまいち、ピンとこなかった俺は、再びリュブリナに尋ねようとしたものの、先行する彼女の左手にそれを遮られた。そして、今度こそ木々の間から、その炎の実態を垣間見た。


誰かが、入れ物一杯の肉を放り投げて、また新しい塊が来て、そして再び投げ入れられてを繰り返している。自分の記憶が一気によみがえった。


戦争の日々は、続いていたのだ。


「思い出した。戦死者を焼く時のこの、忘れられない肉が焼けるにおい。死んだ者はみな平等に世界樹にかえるよう、ああやって敵も味方も関係なく、火葬されるんだ。」


リュブリナは俺の話を聞いているのかどうかわからない。彼女はただ燃え盛る業火を見つめるだけであった。よく目を凝らしてみてみると、死者以外にも何やら人型をした魔物が連行されている。手錠をかけられて一列に並ばされており、何かのチェックを受けている。


魔物の容姿は二足歩行をしている点以外ではあまり似ている点はなく、魚のような頭に、目視できるほどの大きさの鱗も見えた。さらに極め付きには、後頭部に特徴的な緑色をしたトサカが付いている。あんな魔物は初めて見る。


よー--く耳を凝らしてみると、何とか向こうの様子が聞こえてくる。


「・・・歯向かウ・・・セカ・・・」


よく聞こえないが、人型の魔物たちの運命を右から左へ動かすのはあの全体に語り掛けている指導者らしき男であろう。目をつぶって全力で耳を傾けても、ほかの五感、主に嗅覚が敏感に死体を焼くにおいに反応してしまってすぐに気分が悪くなってしまう。


そして、金切り声に驚いて目を開ける。魔物たちの断末魔。


「@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@」


この世のすべてを恨んで死んでいく魔物たちの最期の声であった。必死に許しを請う彼らに対して、無情にも指導者らしき男は火炎魔法を一体一体にかけていく最中であった。


パッと振り返るとリュブリナがいない。何となく予想していたことだ。


———どこだ。いや、もうわかっていることだが。


「貴様ァ!捕虜は丁重に扱うなんていうルールはなァ!お前の爺さんの爺さんが生まれる前から''ニンゲン''なら当たり前の倫理観として持ち合わせてきていた!ましてや、異種族だからといった理由で、捕虜虐待など、許される訳があるかァァァァァァァ!!!」


近衛兵30名程度だろうか。取り押さえられて団子になった隙間から小さな顔を出してリュブリナは必死に訴えていたのであった。













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