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「第七話」魔法が使えない勇者と魔神、最弱のタッグを組む。

何とかリュブリナを奪還することに成功したレン。レンはリュブリナに謝り、二人のわだかまりは解けた。しかし、この後どうするのかレンは気になるのであった。

リュブリナとレンの二人は、レンが乗ってきた魔馬にまたがりながら、先ほどの惨状を後にしていた。


「リュブリナ・・・その、ごめんな。」


「いったい何が?」


「お前を、ほかの心無い神たちとおんなじだ、とか言ってしまったこと。後悔してる。」


リュブリナが後ろでどのような表情をしているのかは読み取ることができない。しかし、後ろから落ちないように俺の腰回りに回されていた手がぎゅっと、力強く握られた。


「そんなこと・・・いいんだよ。300年前にワシら神の存在はお前たちによって葬られてしかるべき存在だった。当たり前のように生き物を殺すなんてことは、あってはならない。そうだろう?」


———ありがとう、最後にもう一度そうやってリュブリナが言ったような気がした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


やがて日が暮れたため、俺たちは今日はキャンプを立てて二人で雑魚寝することにした。焚火の炎が二人の顔だけをぼんやりと照らし出す。リュブリナの顔は疲れ切っているのか、目が虚ろだ。


しかし、俺は彼女の意識が飛ぶ前に、はっきりしておきたいことがある。


「これから、どうするんだ?」


俺たちは二人ともなんのたよりもない。俺は身寄りのない逃亡者であり、リュブリナに至っては魔神で、ついさっき封印が解けたばかりなのだ。そんな二人が、先ほど数十人の盗賊団をボコボコにして、逃げてきたのだ。血だってたくさん流れていたし、死者だって出ていたかもしれない。もし一人であの世にも恐ろしい盗賊に襲われたとき、又は、魔物どもに襲われたとき、俺は果たして五体満足で逃げ切ることができるのか・・・?


「お前。ワシとともに旅する仲間になれ。」


へ?


「聞こえなかったのか?ワシの仲間になれ。」


リュブリナは焚火の燃えカスに目を落とし、少しすると俺の方を見上げた。前で組んだ手をきゅっと握りしめて、こう言うのだ。


「ワシは・・・この世界に早くも飽き飽きしている。お前みたいな、戦争に運命をゆがめられる若者がいたり、脱走者を密告して生を拾う少女がいたり。人類は狡猾だ。欲に忠実なように見せて、実はそれが許されるのは一部の人間だけだ。ある意味で300年前よりもひどく、混沌としているような気がしてならない。故に、直す。世の中を」


奇麗な星々を見あげるリュブリナの姿に、かつて神の一人として、人間を滅ぼさんとしていた魔神の姿は見えなかった。彼女は本気でこの世界を変えようとしている。なんとなくだが、そんな気がしていた。星を見ていた彼女は、固く握りしめた拳を開き、俺の方にゆっくり手を差し出した。そして、にっこりとほほ笑んで言うのだ。


「だから、お前は邪魔なんだ。勇者の血筋ってのは。''天敵''だろう?魔神にとっては。貴様等勇者ってのは魔族のやること成すことすべてを否定するように遺伝子レベルで刻まれているところがあるからな。だから、ワシの近くにおいて、歯向かわせない。この出会いは運命だ。レン。」


にっこりと笑って差し出した手に似合わない、とんでもない言葉が聞こえたような気がするんですけど!?!?

俺が邪魔だから側近において歯向かえないようにするって、コイツは何を言っているんだ?


「いや、お前のやろうとしていることを邪魔しようとは思わないんだけど・・・てか、俺が邪魔って言われて仲間になるのもなんか癪だけどね!?!?」


だが、コイツのやりたいことには共感した。この世の中はおかしい。一部の人間が得をし、多くの人間は命を落とす。そんな世界は間違っている。だから、正したい。


「———まあ、理由はどうであれ、いいよ。お前と一緒に行こう。」


弱弱しい火の上でかわした二人の握手。リュブリナの目は俺をただ見つめてくれていた。戦場で背負ったトラウマや、それと合わさってさらにつらい記憶となってしまった親友との思い出も今となっては昔のことになってしまった。もちろんそれらは俺の中で生き続ける。風化することは決してない。しかし、今はこいつとの未来を生きよう。こいつについていき、未来を信じてみよう。そう思わせてくれる程度にはリュブリナの''王''としての資格、とでもいうのだろうか。彼女のカリスマ性は光るものがあった。


「ああ、よろしく、レン。世界を変えてやろうじゃないか!」


勇者の血筋と最悪の魔神。この二つの、本来なら対極にある世界の生物が組んでしまった。過去にはおそらく存在することのなかった、最凶の組み合わせ。300年前に魔神と袂を分かち、勝利した勇者は今どのような気持ちで俺のことを見ているのだろう。怒り?それとも哀れみ?


「ああ、あともう一つ気になることがあったんだった。お前、なんで一人で逃げなかったんだ?機転の利くお前なら、何かとっておきの魔法くらい持っているんだろう?」


「ああ、その話もしておくか。まあ大した話ではないんだが・・・よっこいしょ。」


布団にくるまって俺に背中を向けるリュブリナ。あくび交じりの声で、彼女はこう言い放った。


「ワシ、なんかわからんけど魔法使えなくなっちまった。封印のせいで魔術回路がおかしくなっちまったんだろうな。お前に封印解いてもらった時に使った魔法くらい簡単なのなら出せるが、いわゆる''普通の魔法''は無理だ。炎で攻撃したり、水出したり———」


「お前、そういうことは先に言えェェェ!!!!」


コイツの仲間になったの、間違いかもしれない。







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