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「第六話」一緒に寝ないか?

レンはリュブリナ救出のためにひたすら走り続ける。このような形での別れは、彼が望んだことではないのだ。リュブリナはというと頼みの綱である、神が使う魔法ですらうまく使えず、どうにも逃げられそうにない絶体絶命の状況であった。

馬のようなものの跡をひたすら追いながら走り続けてもうかなり経った。疲労が限界に達しているが、それでも走ることはやめない。


「はぁ・・・はぁ・・・」


滴り落ちる汗のしずくに自分のみじめでどうしようもない顔が映った。ひどい顔をしているな、まったく。

その時、急に視界の外から現れた巨大な何かに激突して、軽く吹き飛んだ。森の中から現れたのは、馬の形をした一つ目の魔物。そして前足が一本、後ろ足が一本。


「@@@@@@@@」


鈍く、黒い光を放つその巨体は俺のほうを見ても逃げない。人なれしている様子だった。そのことはサドルや手綱がついていることからもわかる。

(馬に乗ったことはないが・・・やるしかない!!)

手綱を握りしめて魔馬にまたがると、再びリュブリナがいる方向へと駆け出す。魔物は驚くほどスピードが出た。このペースなら荷台を引いているものよりもはるかに早くたどり着けるだろう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「・・・!」


見えた。リュブリナを積んでいると思われる、屈強な男どもが護衛で何人もついている荷車だ。10台ほどいる。これほど多くの悪党がつるんでいるとなると、俺一人ではどうしようもできないように思われる。


・・・リュブリナならどうする。


魔物にまたがっている間にそろそろ荷台の後ろにたどり着きそうだ。幸いにも周囲の見張りは油断しており、酒でも飲んで盛り上がっている様子だ。誰も助けに来ると思っていないし、実際来ないような奴らをさらっているのであろう。


「クソッ!どうすれば・・・ッ!!!」


ぴかっとひらめいた。他に選択肢があるのかわからないが、閃いた以上これ以外の選択肢が全く浮かびそうにない。俺は必死に息を吸い込むと、自分が出せる一番大きな声で、


「リュブリナァァァ!!!お前の寝床を持ってきた!!だから俺と一緒に寝よう!!!!!」


大きい声を出したので当然ばれる。奥で男たちが何を言っているのかはよく聞こえないが、高笑いしてこちらを指さしては笑っている。


―――なんか変なこと言ったかも。


日が昇っている以上世闇に紛れてどうこうできる状況でもない。俺は先回りするべく魔物を全速力で駆けた。もちろんオフロードで、だ。木々の間をすり抜けて、爽快とは程遠い感情を置き去りにしながら無我無心で、走る。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「・・・」

「・・・」


馬車の中は打って変わって沈黙であった。それもそのはず、


「あいつは何を言っとるかァァァ!」


紅潮した顔を見て少女も思わず笑みを漏らしてしまう。


「フフッ・・・いい友達を持ったのね。」


「まさか助けに来るなんて・・・」


ワシにとってもこの事態は予想外でしかなかった。まさかあいつが迎えに来るとはな。それにしても、あの掛け声はどういうことなんだ!?!?


「それで・・・あの殿方とは''一緒に寝る仲''だったのかしら?」


「バカたれがァ!まだ出会ってから12時間と24分!仲たがいしてさらわれてから6時間くらいたつわ!」


そう、今日であったばかりのワシにあいつがここまで執着する意味が分からない。しかし、助けに来てくれたのだ。その恩には、生きて帰ることで答えたい―――!


「寝床を持ってきた、か―――」


「?」


「ワシが予想するに、あいつは規格外の策を練れるような人間ではない。どちらかというと、仲間に頼って、自分の策だけでは成立できない策を練るはず。」


同乗者の少女は状況が呑み込めない様子で、首をかしげている。


「逃げる算段が、あるということなのかしら?」


「わからんか。少なくとも貴様を出し抜く策があるということだ!」


「えッ?何を―――」


いうが早いか、少女がリュブリナのほうを見たときには、彼女は頭を必死に覆い、いかにも衝撃に備えている様子であった。しかし、その眼光だけは少女をしっかりとにらんでおり、一瞬その美しい瞳に見とれてしまった時であった。


ぐるん。


天地はひっくり返り、次のコンマ一秒後には魔獣を引き連れた荷車は横転。2・3回転がった後引きずられてようやく止まった。10台の荷車をすべて巻き込む大クラッシュである。


「う・・・グ・・・どうして・・・」


「ワシを欺けるとでも思ったか?女。貴様いろいろ怪しすぎだ!脱出法を逐次聞いたり、わしが魔法を打ち損じたときに外に合図をしようとしていたなァ??どうせ逃げようとしたら外野に知らせて殺させる気だったのだろう??」


少女は困惑した。あれほど信頼を勝ち取ろうとしていたのに、最初に私が脱出法を聞いた時から、リュブリナは私を信用していなかったというのか。実際彼女が魔法を使って脱出を図ろうとしたとき、拳にひそめた通信機で合図を送る一歩手前までいっていた。


「まあ、自分がさらわれていると見せかけるアイデア自体は悪くないがな!ワシの目はごまかせん。」


「なぜ・・・魔法を使ったわけでもないのに・・・」


「ワシは魔法を使っていない。レンが寝床を持ってきたというから、なんとなくわかった。」


周りを見渡してみると、ロープのようなものが我々の死角になるように木の間に張られており、それに引っかかったら荷車は当然横転する。


「ああ。お前の貧相な寝床を作るのにつかわれていた縄を使わせてもらったよ。リュブリナ。」


「悪くはないアイデアだったな。レン。あの掛け声以外はな。」


「まったく、よくわかったな!お前が荷車の横転で死なないように祈るしかなかったんだが、何とか気づいてくれて、よかったよ。」


ワシにはわかるさ。なぜならその仲間に頼る他力本願のパワープレイ戦法は、勇者が仲間に対して使っていた手口とおんなじだからな。


「・・・助かったよ。ありがとう。」


「ああ。どういたしましてだ!」


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