「第五話」こいつ、だっせぇ!
口論して、いがみ合った翌朝、魔神・リュブリナは連れ去られてしまった。売られるのだけは嫌なリュブリナは圧倒的な魔力をもって窮地を脱しようとするが・・・
リュブリナを乗せた荷台は夜道をひたすら走り続ける。どこへ向かっているのか、彼女の知ったことではないのだが、今自分が置かれた状況が非常にまずいことくらいは把握していた。
「ひさしぶりに良モノが釣れたなァ!?これは言い値で売れそうだ!」
荷台の周りを囲んでいる男どもが騒ぎ立てている。区切りがあって外の様子はわからない。荷台に放り出されたときに足首を捻挫したのか、痛くてうまく動くこともできない。
「もしもし・・・大丈夫ですか?」
横を見てみると、貧相な身なりの少女がそこに座っていた。ワシと同じく、両手を縛られていて行動が制限されている。
「これが大丈夫に見えるかァ!!・・・と言いたいところだが、大丈夫なんだよ。お前さん、運がよかったな。ワシの魔法でこの苦境を抜け出させてやろう・・・!」
きょとん。隣にいる少女は目の前の存在が異質でよくわからない様子であった。彼女にとっては、教科書で文面としてみた角の生えた生物。魔神・リュブリナという存在は現代社会で風化しつつあったのだ。
「一つだけお伝えしておきたいことが・・・」
そっと不自由な体をひねらせて、少女がワシの耳元に告げ口をする。吐息が耳の奥ではじけるようにワシの粘膜をなでてくすぐったい。
「私は、この荷台にかなり長く揺られております。その間に何人か、あなたのように荷台に連れ込まれては抜け出すことを画策し、全員がばれてひどいことをされて殺されました。悪いことは言いません。このまま助けを待ったほうがよいのでは・・・?」
「助け、か・・・」
ふと''奴''の顔が浮かんでしまったが、あいつとは半ば口論まがいのことをして別れてしまった。急に音もなくいなくなってしまっては、ワシが勝手に夜闇に紛れてどこかに行ってしまったと思うだろう。
「———ッ。そんなものはこない。ワシはワシのやり方で、この状況を脱出して見せる・・・!」
ワシの中の魔力が封印を解かれた直後のせいか、とても不安定だ。だが、こんな貧相な木でできた壁なんぞ、すぐにぶち抜いて見せる・・・!
「———破壊!!」
スカッ。突き出した右手からは何も出ない。なんで??
「・・・プッ」
「おい!笑うな貴様ァ!」
あれほど啖呵をきって失敗する自分がすごく恥ずかしい。何かがおかしい。手錠のせいなどではない。もっと根本的に魔力回路が異常だ。
「でも、ちょっとだけ安心しました。そんなに強力な魔法を使ってしまったら、この荷台ごと吹っ飛んでしまいそうですもの。」
「ワシの知ってる中では割と弱めの魔法だったはずなんだが・・・てか、そんなことよりも、これからどうなるのワシィィィ!」
両手を頭に当てて絶望のポーズを決めるリュブリナと、妙に落ち着いた少女の旅路は長いのか、それとも短いのか———
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「クソッ、どこだ・・・!」
リュブリナを追いかけ続けて早くも数時間が経った。足跡が前足と後ろ足に一つづつしかないことに走りながら気が付いた。逃走に魔獣を使っているのだろう。気温が上昇してきたことによって汗ばみ始めた衣服が、戦場でついていた血の匂いと合わさって今にも吐きそうなくらい臭い。
かなり機転が利くあいつなら何か手掛かりの一つでも残しておきそうなものだが、それもない。おそらく、俺は追いかけてこないと思っているのだろう。このクソみたいな匂い以上にそう思われていることがもどかしく、腹立たしい。
(いがみ合ったままで終わることだけは・・・それだけは避けたいんだ!!)
死んでしまっては、何も残らないから。機転の利く彼女に限って死んでしまうようなことはないと思うのだが、何か妙だ。あれだけ賢くて、魔神と言われる程度には魔法が使えるのに、悪党から脱出する魔法がないとは考えがたい。
「・・・あれ??」
太陽の光が俺に追い付いてきたころ。うっすらと明るくなる周囲に合わせてあるものが見え始めた。
「うわ・・・まじか」
そこにあったのは、わき道から合流してくる何台もの馬車の痕。数にして10台ほどであろうか。
敵が大きすぎるだろ———!
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「敵は周囲に結構いよるな・・・10台ほどか?しかもただの馬じゃない・・・魔獣だろう。」
「へぇ。どうしてそんなことまでわかるのかしら?」
「馬ほど軽快な足音を奏でる者はおらんからな。こいつらの足音は重厚で、それが10匹ほど異なる音色を奏でているように聞こえる。」
少女は驚いたようにリュブリナのことを見ると、感心したのか、握っていたぼろ布をぎゅっと握りしめた。
「すごい!私には全く分からなかったわ!でも、それなら尚更ここからの脱出は難しいんじゃないかしら・・・?どうしてそんなに解放されたいの?」
「ワシにはいかないといけない場所があるからな。どうしても。だから、この魔法で決着をつける。あまり気乗りはしないが———」
———''戦争''が思い出されるからな。
少女は、言葉を失っていた。これまで通りにしているのだが、どこか神秘的なその雰囲気は、感じたことがない地獄や天国を想像させた。瞳を閉じたその生物は祈るように、魔法を差し出した。
「神・終焉」
・・・シーン。
「な゛ん゛て゛な゛に゛も゛お゛こ゛ら゛な゛い゛!!!!」
少女は絶句した。こいつは何をやっているのだと。