「第四話」主人公、殺される
服を脱がされたレンに勇者の血縁者が持つしるしのようなものは見受けられなかったらしい。しかし、リュブリナは意外なところに彼が勇者の血縁者であることを見出す。
「まず、300年前に神は人類に敗北した。勇者の一族によってな。」
俺がやってきた方向とは逆の方へと歩きながら、魔神・リュブリナは話を続ける。月明りが出始めたからか、さっきまでいた祠よりも明るい。
「で、ワシは無事に封印されて———そこからはお前の方がよく知っておるのではないか?」
「ああ、神の世界から人の世界への転換———理論的枠組みの変化———が発生してから302年たった。でも、俺は当時の詳しいことは何も知らないぞ。学校で歴史なんて学んでても意味ないと思ってたからな。」
「成程な。では、現在まで続いておることでは何が変わったといえる?」
リュブリナが上目使いでこちらを見上げてくる。頭に生えている角?のようなものが月光できらめいた。
「現在まで———というと?」
「例えば———こういうことだ。」
———ザッ
瞬きをした次の瞬間、眼球の一ミリ前にリュブリナの鋭い爪が鋭くきらめいた。彼女の赤い瞳は静かにこちらを覗き込んだ。
「ハッ!だからこういうことよ!!」
不思議な沈黙を切り裂いたリュブリナの声は、素っ頓狂に明るかった。
「どういうことだよ!俺を殺すってのか!?!?」
「———300年前なら、それが許されていた。」
———ゾクッ
声色の静けさのギャップによるものなのか、彼女自身の纏う''殺気''によるものなのかはわからないが、正体不明の鳥肌がレンの全身を包み込んだ。
「神が人を殺して何が悪い?お前たちはワシ等神々によって作り出された生き物でしかない!つまり、お前たちが死のうが、ワシらはいつでも、お前たちを再び創造できる!」
静かながら、にじみ出るその狂気に俺は気が付かぬうちに後ずさりをしていた。
「———と、思っていたのだが、現実は違う。お前たちはワシ等神々に打ち勝ち、晴れて人の世界を創めた。そんなこと、神にとっては考えもよらなかった結末だったのだが———」
いつの間にか雲に隠されてしまっていた月光が、再びリュブリナを照らした。そこにあったのはただの、いじけた様子でたたずむ少女の姿だった。
「何となく、神々が負けた理由がわかる気がするよ。俺は馬鹿だけど、人を思う気持ちはあるつもりだ。もちろん、それすらも人並み以下ではある自覚はあるんだがな。それに、''重荷''を背負っていく覚悟も持っている。」
「オモニ?何のことだ?」
「''罪悪感''だよ。カミサマ。お前たちが人類に敗北した原因、おそらくそこにあるんじゃないか?人を虐げてきた罪の意識をお前たちは何も感じない。それどころか、人の心を何も慮ろうとしない。だから人類は自分たちの感情表現を革命で表現した。」
月明りに照らされた、リュブリナの顔が濁った。やがてその感情がどこかへ去ると、
「・・・やはり、お前は勇者の血縁だ。奴とおんなじことを言っている。」
彼女の頭の中がよくわからないが、おそらく「懐古」の感情がすべてを支配しているのだろう。一体どのような思い出に浸っているのか。自分が封印される前の記憶?それとも、人類との抗争の記憶?それを理解しようとするには、俺はリュブリナのことを何も知らない。
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「これ以上歩くのはナンセンスだな。今日はここで寝よう。」
「モチロン、お前が地べた、ワシがあの鳥の巣の抜け殻でいいんだろうな??フッカフカな予感がするぞ!」
口論まがいのことをした後なので、リュブリナも虚勢を張って元気ぶっているように感じる。
「何言ってる!じゃんけんだろうが!!!!」
「ハッ!お前が勝てるわけないだろう!勝負!!!!」
———ふかふかのベットで寝るのは久しぶりだなァ~!
目を閉じて寝付こうとする。夜の静けさとは対照的に、脳内で砲弾の爆裂音がする。瞳を閉じれば目前で脳天をブチ抜かれる仲間の姿が簡単に浮かんでしまう。
・・・これがトラウマか。寝付けないな。
月明りを頼りにリュブリナの方を目で追ってみる。彼女の寝床はどこに作ったのかは知らないが、ぐっすりと眠れているのだろうか。
「ああ・・・眠れねぇな、チクショー」
思えば、自分が生きていること自体が奇跡のようなものだ。俺の親友と一緒に死ぬことが正解だったんじゃないのかと、ふとした時に考えてしまう。
『人生は一度きりなんじゃない。死ぬのが一度きりなだけさ。何度だってやり直せるのが、人生だ。そういう点で、お前は正しいのさ。』
リュブリナが最初にかけてくれた言葉が浮かんだ。
(あいつはあいつで、''神''が人の心を理解しようとしないために起きた過去の戦争から学んで、俺が一番かけてほしかった言葉を必死に考えてかけていてくれたのかもしれないな・・・)
明日、謝ろう。俺は本当にひどい言葉を彼女にかけてしまった。
————そうだ、明日ちゃんと彼女に謝って、仲直りをしよう。きっとあいつだって人間との抗争を望んでいたはずがない。だって、出会って間もない人間の俺を助けてくれたじゃあないか。
そして翌朝。リュブリナの姿はなかった。そこにあったのは、無数の馬の蹄鉄の痕。そして、ボロボロの藁で編まれた、それでもどこかぬくもりを感じることができるような、貧相な寝床であった。