「第二話」閃光
前回のあらすじ
主人公はゴキブリみたいな魔物に追われて、祠の最深部まで潜ってきた。そこで祀られていた石像に触れたとたん、石像が砕けて、中から可愛らしい少女が出てきたのだった。
「こいつに頼らないと、俺は死ぬ!この世界で最弱の魔法を俺は持っているんだからな!」
この世で一番嫌いなものは何だろうか?戦争や疾病、はたまた食べ物?
俺がこの質問をされたとき、だいたい少し時間をおいてあの生物の名前を出す。
「—————ゴキブリキモイィィィィィ!!!」
「うわッ、なにあれ、気持ち悪ィ・・・」
今さっき自分で起こしておいてなんだが、コイツが石像の姿から''人間のようなもの''になったことに関してはどうでもいい。人食いの、えげつないビジュアルをしたゴキブリの大群に襲われている現状ではそのことしか考える余裕がないのだ。
「なんだ、''ヌメリ気の少年''。ワシを起こしてくれたことは感謝するが、ゴキブリを呼んでの復活パーチーなんて開く予定はなかったぞ???」
少女の目が少しだけぎらついた。何かを察知したのだろうか、顎に手をそえて首をかしげている。
「冗談言ってる場合か!!こいつらを何とかしないと俺たちはあの顔よりでかい口に真っ二つにされて腸を丸出しにして死ぬんだよ!!何とかしてくれないか?あいにくだが俺の魔法じゃあいつはどうにもできない!!アンタ、えらく高そうな身分のカッコーしてるじゃないか!!魔法も結構たしなんでるんだろ?」
「誰に向かってモノを言っておるんだ?一筋縄でいけるかわからんが、お安い御用よ!!」
ゴキブリのような魔物の大群はもう20メートルといったところまで迫ってきていた。こちらを一斉に食って掛かろうとしているのか、俺たちの周りを囲うような形でぐるりと円ができ始めた。数にして20~30体の魔物が隊列を組むかのように円を形作っている。
「こういう魔物はな、群れて襲い掛かってくるものよ。そして、リーダー的な奴が雄たけびを上げると同時に一斉に食って掛かってくる。その瞬間だ!わかったか!!」
「なるほどな、了解・・・って何がいいんだよ!!」
『@@@@@@@@@@』
リーダーらしき魔物が雄たけびを上げた。それと同時に周りにいたやつらが見上げる程度には高いジャンプをし、ガンギマリの目玉をひん剥いてこちら側にかじりついてくる。
ええい、ままよ!
「目をつぶれってことだ!閃光!!」
あたりは数秒間真っ白な、何の音も聞こえない世界に包まれた。何者かにその世界から引きずりだされたと思えば、一人称が『ワシ』という謎めいた性格の少女が俺の手を引いて祠を後にしようとしていた。周りを見渡すとそこには背中を地面にたたきつけられて足をジタバタと振りまくる醜い生物の姿があった。
「うえッ・・・なんだこれ気持ちわるッ・・・」
下に転がっている数十匹の奇形共は、唾液を垂れ流しながらそこにうずくまるばかりであった。人を何人も食っているからなのか、中には赤い唾液を垂れ流しているものもいた。
「気持ち悪い?なんでそんなことが言えようか!!いや、言えまいなァ!お前、逃亡兵だろう?その身について剥がれない死臭と歪んだ精神を見れば、わかる!仲間たちはどうした?全員死んだか???」
「———何も言い返せないな。俺は目の前の惨状から逃げ出したくて、この祠まで無我夢中で走ってきたんだ。戦場では役立たずでしかない俺はむしろ、奇形共みたいに必死に生きることすらできていないのかもしれないな。」
自分の運命を決める弾丸から逃れてきたやつの運命など、ここでこいつらに食われて終わってしまった方がよかったのかもしれない。なにせ、俺以外のみんなはあの戦場で夢も見ることなく死んでいったのだから。
「何を言っているんだ?」
少女がうつむいた顔をグッと持ち上げてくれた。同じくらいの背丈の少女は、こう続けた。
「お前は正しい。お前の仲間たちはもう選択肢の持ちようがないただの死者だ。でもお前は違う。まだ死んでない。つまり、まだ人生をやり直すことができる。選択肢がある。」
少女の大きな瞳に反射していた惨めな男のまなざしに、少しだけ光が戻っていることが、分かった。
「そうだろう?人生は一度きりなんじゃない。死ぬのが一度きりなだけさ。何度だってやり直せるのが、人生だ。そういう点で、お前は正しいのさ。」
男の心の荷物が、一気に軽くなった気がした。
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戦場で、数秒後に死ぬ友人がかけてくれた言葉がある。
「お前は、生きろ」
そういって彼は頭を魔法弾で撃たれて死んだ。頭にめり込んだ弾はその者の血液を吸収し、やがて脳天ごと大爆発を起こす。まさに悪魔の兵器だ。
———逃げないと
体が動かない。なんで?足が震えている。塹壕の奥へと少しでも走らないと、コイツの脳天と一緒に俺も死ぬ。でも動けない。動きたくない。戦友であるこいつの腰にぶら下がった、小さいころに一緒に撮った写真がちらりと見えた。その瞬間、
ドンッ
脳天を撃ち抜かれて今にも爆発しそうな友人が、悲しそうな、嬉しそうな、涙で顔をゆがめて、こういうのだ。
「お前は、生きろ。生きてくれ、レン。」
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「そういえば、聞いてなかったな。お前の名は?私の恩人さん。」
「———レン。レンだ。こちらこそありがとう。」
親友との約束をゴキブリに食われるところだった。俺は生きなくてはならない。ダメダメ男の決心が固まった瞬間であった。
ゴキブリホイホイにゴキブリがかかっていた時って素直に喜べばいいのかわからないよね




