【第十五話】禁忌の魔法
家族のかたき討ちのため、そしてウェスを仲間に引き入れるため、一行は要塞にたったの三人で乗り込んだ。ウェスのダイナミックに城壁をぶっ壊して侵入するスタイルに度肝を抜かれつつも、三人で敵陣営に復讐を果たそうと一丸になって戦うのであった。
敵兵がぞろぞろと俺たちを包囲し始めた。上から魔導砲の射線も余裕で通っている。ウェスが先ほどの魔法でどうやって照明を落としたのか知らないが、訓練されているのであろうこいつらはそんな異常事態に完璧に対応をしている。
「お前たちは指令室を目指せ。先ほど、奥の方に地下への階段が見えた。おそらくあそこだ。地上階はボクに任せろ。」
「だってよ、リュブリn———ゲッ。」
リュブリナの方に目をやると、鼻息が闘牛のように荒く、目がもう相手のことしか見えていない様子だった。指をボキボキと、音はなっていないながら鳴らすフリをしている。
「でも、奥の方まで行くことなんてできるのか?こんだけ敵兵がいて———。」
「うるさい。切り開く!!」
ウェスが開口一番、刀を両手で持って右足で軽く地面をけり上げた。突風と共にウェスは敵兵に突っ込んで刀を振り回していた。いや、振り回しているように見えるが、敵兵を次々蹴散らしている。
それを見たリュブリナは目を少女のように輝かせて、
「ウェス!!やっぱりお前はワシ等の仲間になれェ!!!」
リュブリナも同じく突っ込んでいった。こいつに関しては簡単な魔法も使えるか怪しいレベルなのにもかかわらず、だ。
・・・!
上からの恐怖を忘れていたことに気が付いた。魔道砲である。しかし、その心配はいらなかった。何やらトラブルが起きているのか、上で兵士同士がもめている様子だったからだ。これもウェスが照明を落としたことに関係があるのだろうか。
「クソッ!行くしかねぇ!!」
ウェスが5人ほどをまとめてぶっ飛ばした際に、どさくさに紛れて兵士の包囲網を抜けた俺は、必死に地下への階段を駆け下りていく。
「クソッ・・・なんで俺がこんなことを!!」
どうか、どうか敵の兵士と鉢合わせないでくれ・・・!
ひたすら地下への階段を下る間、好都合にもほかの兵士と鉢合わせることはなかった。おそらく、地上の異常事態に対応するためだろう。しかし、ここだけは話が違う———。
「侵入者か!もうこんなところまで・・・!」
最下層にある司令部まで何とかこぎつけた俺は、ちょうど何らかの伝令を送っている兵士の一人と鉢合わせた。
「あー・・・やっぱりいますよねぇ~。」
魔力で動く機械がずらりと並んだ部屋に二人っきり。そして相手は腰に魔導拳銃を携えている。俺はというと、その辺で拾ってきた木の棒。先端に俺の迸る血液が付いている。
(いや、どうやって戦えと・・・)
自問自答をする暇を与えず、敵は拳銃を抜いて俺に撃つ構えを見せた。
「あ!いや待て待て!上層部からの指令だ!地上戦に参戦しろと!俺が代わりを引き受けた。お前は上の奴らの対処をしてくれ。」
「いや、お前誰だ。死ね。」
カチャ。敵がなんのためらいもなく拳銃の引き金を引いた。
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地上では、敵の兵士が一種の諦念をもって相手をしている二人のことを見ていた。いや、一人に対して向けられている感情なのだが。
「ハァ・・・ハァ・・・ウェス。あと何人でこいつらをせん滅できる?」
「あと10人といったところか。」
汗だくで戦っているワシの横で、こいつはなぜこんなに涼し気にしているんだ・・・汗一つ書いていないウェスに恐怖のような感情を抱きながらも、力強いチームメイトに安心もしていた。
「おい、リュブリナ。顔をあげろ。死ぬぞ。」
両膝についていた手をようやく元に戻し、顔をあげると、ウェスが前方の一点を見つめて、冷や汗をかいていた。
(・・・?)
あの男だ。ワシとレンのことを気絶させた男。ウェスが家族と言っていたあの捕虜たちを全員燃やした男。燃え上がるような怒りと復讐心から、ワシは憤然とした一歩を踏み出そうとするが、動かない。
「貴様の魔法か、これは。本当に業が深い。」
例の老兵がゆったりと、鋭い眼光をこちらに向けた。2メートルはあるのではないのかという巨体は、まがった腰から想像もできないほどの威圧感を醸し出している。
「お前がッ、ボクの家族を炙り殺したんだろう・・・許さん。」
「先日のアレのことか・・・?あいつらは人間の尺度ではケダモノだ。貴様は人間だろう?名前こそ知らぬが、人の親から与えられた名前だってあるだろうに。」
「黙れ。ボクにはウェスという、お前が生きながら殺した者たちから与えられた、素晴らしい名前がある!よく覚えておけこの外道・・・」
ウェスが刀に突いた返り血を振り払う。月明りに照らされたその鋭利な代物は、傷つけるものすべての命を奪うべくして、ウェスの殺意を濃縮してそこにあった。
「魔法を無効化する魔法。そんなものは聞いたことがない。しかも、そんな悪魔のような所業、魔力に加えて命を削りでもしない限り使えたようなものではないだろう。」
そのように老人が言い放った次の瞬間。ウェスが信じられないくらいの血反吐をぶちまけた。
「———グベッ。」
右手で口を覆うも、そこから血液はあふれ出す。そんな魔法、少なくともワシの時代にはなかった。なかったというか、それはもはや———
「禁忌の魔法だな。貴様のソレは。地獄に堕ちたいのか?」
ウェスは相変わらず血反吐を吐き続けていた。しかしその反面、目の前に現れた復讐対象に対して、眼光だけは鋭く光り続けているのだった。