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【第十三話】戦闘準備

ウェスと共に旅をし始めて三日。「あと半日」と言われ続けて三日が経った。敵陣地に乗り込むまでに食糧不足で死んでしまうんじゃないか?と思っていた時にたどり着いてしまった。''人の巣窟''に。

「アァ~!喉渇いた!喉が沸いた!死ぬ!!」


こいつ、絶妙にダジャレのセンスが上がっている気がすんな・・・


もうすでに飲まず食わずで歩いて四日だ。そろそろ何か進展がないと、俺たちは敵にやられる前に餓死する———。


「ほら・・・見ろ。ついただろう。あれがボクの仲間を皆殺しにした奴らの根城だ。」


ウェスの指さす先には、小高い丘の頂上に聳え立っている要塞が遠目に見えた。ちょっとだけ、ドヤ顔をしているウェスの姿がどこかウザったらしいが。


(殺意以外で初めて見せた感情がドヤ顔って・・・)


目の前の少年の生態がいまいち理解できなくなってしまった。


「よし、近づいてとっととぶっ飛ばしてやるか。行くぞ、レン!ウェス!」


「待て」


要塞に走り出そうとするリュブリナは、足をウェスに切り落とされかけて、タッチの差で止まった。リュブリナの顔は今までに見たことがないくらい青ざめていた。口の中の空気がすべて抜けてしまっているのではないのか、そう思うくらいには口がしぼんでしまっていた。


何とか踏みとどまって一歩引くことに成功したリュブリナは顔を真っ赤にしていった。


「おい!どういうつもりだこれは!!お前と一緒にいると四肢が何本あっても足りないわ!!」


「落ち着け・・・あれを見ろ。それと、ボクを頭数に入れるな。」


ウェスが顎で示した先にあったものは、


「3式魔導砲じゃないか?」


「よく知っているな。軍隊にいたのか?」


「まあ、三週間だけ・・・」


そう、三週間だけ軍隊にいた俺でも知っている兵器だ。''砲''とついているが、要は魔力をこめた弾を相手の脳天めがけてぶち込む。魔力の消費がとんでもなく速いのだが、俺が戦場にいたころには最強火力を誇っていた。


「なんじゃそりゃ?」


リュブリナはぽけーっとしてイマイチあの武器のすごさがわかっていない様子だ。


「あの武器に正面から行くと死ぬ。故に、夜闇に紛れて近づく。少しでも視界が悪くなることで、要塞に近づくことのできる距離を増やす。要塞に近づけば、ボクがなんとかしよう。」


「要塞に使づいても、どうせ夜間は照明が照りまくってて中に入ることは不可能だろ?」


「いいから黙って、夜を待て。お前たちは何かできることをしろ。頼むから、邪魔はするなよ。」


たしかに俺たちには何もできることがないな。このまま大人しく夜を待っていよう・・・としていたのだが、黙ってはいることのできない輩が一人。


「なんだ?300年前にはあんなもんなかったぞ??」


「過去の遺物は黙ってろ。いいから俺たち雑魚は夜まで待つんだよ・・・!!」


リュブリナの両頬を片手でつかんで握りしめた。これで少しは静かになるだろう。


「過去の遺物?それにリュブリナという名前・・・」


ウェスが初めてリュブリナに興味を示した。この四日間でウェスは基本的にリュブリナにあおられ続けていたが、それもいなし続けるばかりで特に彼からアクションを起こすことはなかった。


「ああ・・・こいつは、300年前の人類と神の戦争で人類を滅ぼそうとしていた魔神だ。」


「???」


ウェスの、常に変わらなかっ表情が大きくゆがんだ。頭に''?''の文字が見えるかのように困惑している。


俺はリュブリナのことを話した。リュブリナは黙って聞いていた。彼女が魔神で300年前に人類を殺しまくっていたこと。今は封印明けで最弱なこと。

———人間を殺しまくっていた過去を踏まえて、現在いまこの世界をよくしようと奮闘し始めたこと。


ウェスも黙って聞いていた。時々相槌を打ちながらも、黙ってきいていた。そして、俺の話が終わると、ただ一言。


「・・・お前も''血の記憶''を持っているのか。」


そう呟いて、ただ静かにうつむいていた。気が付けば太陽は沈みかけており、丘回りの開けた場所に夕日が差し込んでいた。要塞は長距離フラッシュライトがあたり一面を照らし始めた。魔力で作られた不思議な色の光があたりを照らし出した。


「いいか。あのスポットライトが別方面を向いた瞬間に行くぞ。お前たちは俺を援護しろ。」


「なあ・・・やっぱりあれは無理じゃないか??」


「黙ってろ、レン。お前には無理かもなァ??」


リュブリナは戦闘モードに入っているのか、一つも怖気ずいた様子を見せずに指の骨をぽきぽきと鳴らしている。こいつは俺と同じく、魔術という点で最下層の人間のはずなのに、どうしてこんなに強気でいることができるんだ?


「ワシがなぜこんなに強気なのか、疑問に思っているんだな?貴様、浅はかだぞ。」


「俺の顔から心情を読むなよ・・・でも、気になるな。どうしてなんだ?・・・お前は俺とおんなじ''雑魚''だろう?」


雑魚、という言葉を言われたのは彼女の経験の中で初めてのことだったかもしれない。少し考えてから、レンを諭すように目をじっと見てこう言い放った。


「・・・自分より下の存在がいないとき。底辺ってことだ。その時、お前は自分が雑魚だと諦めて下しか見ていなかった。しかし、それはナンセンスってもんだぞ。下には''底''しか見えない。」


「じゃあ、どうすればいいっていうんだよ?」


「上を目指せ。いいか。上を目指してテメェを見下している奴らをぶっ倒してやる方が、底なんかを見てるよりは楽しいだろうが!!」


彼女はそう言って再び笑った。三十分後には死んでいるかもしれないのに。彼女のハングリー精神は、俺も見習わないとな。

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