【第十二話】旅路にて
ウェスと名乗る帯剣した少年と出会った一行。どうやら彼は自分の仲間だった魔物たちを虐殺された復讐を果たしに行くようだった。レンとリュブリナはそれについていくことになってしまったのだが・・・
「おい、お前!結構強いだろう。さっき放っていた''殺気''にひりひり来たぞ!」
ウェスは答えない。そもそも俺たちがこいつに勝手についてきているだけで、こいつはまだ一つも了承などしていないのだ。
(お前が知らぬ間に放ったクソみたいなダジャレのせいで会話が死んでんだろうが!!)
「な、なあ。ウェス君、といったか?君はどうして自分で自分を魔物側だと言い張っているのかなぁ・・・?」
もちろん睨まれた。目の前の少年の地雷は間違いなくこの話題だとわかってはいたのだが、これよりほかにこいつのことを知るきっかけがない。ウェスは歩き始めて小一時間、ようやくその重たい口を開いた。
「・・・ボクの過去を知ろうとするな。あと、ついてくるな。死ぬぞ。」
え、いやだ。死にたくない。
「リュブリナぁ・・・もうよくないか?こいつはこいつのやりたいことがあるんだよ!きっと!」
「黙れ!お前を仲間にするまでワシはこの場を離れないィィ!!」
もうコイツ、狂神だろ。自分の信念を貫くスタイルに尊敬すら覚える。
「———じゃあ今、死ね。」
ズン。瞬きする間にリュブリナの喉元に刃が突き刺さりかけて・・・止まった。
「お前たちはなんだ?勝手についてきて・・・俺の邪魔をしたいのなら回れ右して帰れ。このハイエナ共が・・・」
やっぱりィィ!こいつ、めちゃくちゃキれてんじゃんか!!俺の四肢が繋がっている間に決死の説得を敢行しなければ、俺たち二人の首が吹っ飛んでしまうんじゃないのか、これは。
「いいや、やめんぞワシは。」
驚いたことに、リュブリナはグッと一歩踏み込んだ。ウェスの研ぎ澄まされた刀に触れた白く、か細い首から血が流れた。
「このままやられて引き下がれるか、阿呆が。ワシはな、このまま敗けることなく''ワシ等''が世界樹まで行けると信じてやまない馬鹿なんでな。奴らに勝利するまでワシ等は絶対に引かん!!!」
ワシ等って・・・でもコイツが勝利を信じてやまない姿に、なぜか心が軽くなった。別に無敗である理由があるのかは不明なままだが。
「・・・勝手にしろ。」
ウェスも観念したのか、こちらに背を向けて俺たちが向かう方向へと、さっきよりもゆっくりとしたスピードで歩き始めた。
「なあ、ウェスゥ!!結局ワシ等三人はいつまで歩けばいいんだ??」
「いつからボクはお前たちの仲間になったんだ・・・」
そう固いこと言うなってぇ・・・なんて言いながらリュブリナがウェスの肩を組む。ウェスの左ひじが入ってもなかなか離さなかった。
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「おい」
・・・
「おい」
・・・
「おい!!」
・・・
「おい、ウェス!お前さっき''ここから少し歩いたところ''に敵の陣地があるって言ったよなぁ??ああ、言った!!だのになんだ!もう三日は歩いているじゃないか!!!」
それは俺も同意見だ。こいつの距離感覚がバグっているのか、それとも
「・・・迷ったのか?」
俺の発言を聞いてリュブリナの顔がだんだん青ざめていく。ウェスは依然として何も話さず、立ち止まった。
「・・・迷ってない。」
「嘘つけぇ!!」
「・・・迷ってない。」
そのままスタスタと歩き始めた背中を眺めることしかできなかった自分の無力を再び呪った。これがリュブリナなら一発お見舞いしてやったものを———
(こいつを殴ったら多分俺の首が飛ぶ・・・)
そして、さらに歩くこと三時間。ずっと森をすすでいる以上、方角も時間もよくわからない。正午になった時にしか太陽が昇らないのは何ともつらいものだ。
遂に日が暮れて、森にまたしても夜がやってきた。三人で雑魚寝するのもなれたものだが、ウェスから話題を振ることはこれまでにないことだった。
「お前らは勝手についてきているだけだ。いやならどこへなりとはけろ。じゃまだ。俺の感覚では、あと半日もつかずにキャンプへとたどり着く。」
「貴様、昨日もワシが聞いたら同じことを言っておっただろう!いい加減学んだらどうだ!お前は迷った!ロストウェイウェスOK???」
リュブリナのあおり節にも日に日に拍車がかかっている。それをウェスがいなし続けるのにももう慣れたものだが。
・・・ZZZ
「こいつ寝てやがる!レン!お前もガツンと言ってやれ!」
「いや、無理無理!お前みたいにいつでも首吹っ飛んでいいような民族じゃないんだよ、俺は・・・。」
「ワシだって首は惜しいよ?クッソ、最盛期の強さがあればねぇ・・・」
ウェスもレンも寝たか。こいつらはリーダーであるワシの話をちっとも聞きやぁしねぇ。
・・・てか、もしウェスを仲間に引き入れることができなかったら、このパーティー結構まずくないですか???