【第十一話】復讐への旅路
虐殺現場に遭遇してしまった二人。それを止めにかかろうとするも、相手の強さ、というか自分たちの弱さのせいで逆に取り押さえられてしまう。失神して再び戻ると虐殺現場はなく、代わりに一人のケダモノが帯刀して立ち尽くしていたのだった。
目の前の人間は、確かにケダモノというにふさわしい風貌をしている。しかしそれは何年も手入れをしていなかったのではなく、ここ数日で形成された汚れであることが、何となくわかった。というのも、立ち居振る舞いがどこか凛としていて、短髪から清潔感も感じたし、腰に据えた刀も、泥がはねていたりするものの、それは鋭さを失わずに鈍い光を放っていた。
「お前さん・・・名前は?」
「・・・ウェス。あんたたちは誰?見たところ、あの兵隊共には見えないけれど・・・」
ひときわ大きく聳え立つ石の柱の前で、ウェスと名乗る少年は答えた。一番大きな魔物が縛られていたのであろう。
「ワシはリュブリナ。もと魔神で、こいつはレン。役立たずだ。」
「もう少しい方があるよねぇ???」
リュブリナが場を和ませようと?してくれたことに目もくれず、ウェスはどこかへ立ち去ろうとした。リュブリナがそれを呼び止める。
「おい、どこへ行く?」
「・・・決まっているだろう。」
ゾワッ
ここへ来た時の寒気が俺たちを襲った。先ほどこの場所に入りたくないような雰囲気を感じたのは、おそらくこいつが放った''殺気''。というか、この世のものすべてを飲み込まんとするほど強い怨念のようなもの、とでもいえばいいのだろうか。
「みんなを、皆殺しにした奴らへの報復だ。場所ならわかっている。ここから少し歩いたところに奴らが基地を設営しているからな。そこに乗り込んで、全員殺す。一人残らず、殺す。」
「殺すって・・・おいおい、生き急ぎすぎだ。第一、お前ひとりで行ったところで生きて帰ることだって———」
ウェスの身なりから何となくわかってはいた。こいつはやはり''ケダモノ''側だったのだ。人間の姿をしていながら、ケダモノと名乗る少年は、一体どんな出生をしているのだろう。
「わかるか?この場所はな、ボクたちの、いや、ボクの里があった場所なんだ。それがたったの一晩で何もなくなった。昨日仲間が火あぶりにされていたらしい、この石でできた柱は全部家の支柱だ。全部、奪われた。何もかもッ・・・」
腰の太刀が小刻みに揺れて、泣いているように見えた。ウェス自身は涙が枯れたのだろうか、もう残った感情は怒りだけといった表情であった。
「ちょい、レン」
ウェスに聞こえないくらいの声でリュブリナが耳打ちしてくる。
「———なんだよ、まさかお前。こいつについていくとk」
「話が分かれば早いな!!おいウェスとか言ったか?ワシ等もお前の復讐に手を貸してやる!」
(こいつ、何言ってやがるんだ!)
バッと振り向くと、リュブリナは漫画みたいにこめかみの血管をむき出しにして鼻息を噴射しているところだった。
(こいつ、昨日ねじ伏せられたことにキれてやがる・・・ツ)
昨日の興奮冷めやらぬ、といった表情でリュブリナはこちらの方を向いた。確かに、俺だって後頭部をぶん殴られて死ぬほど痛かったし、何なら今でも痛いし、あんな虐殺を目の当たりにして何も思わないほど人間を捨てていない。けど———
「リュブリナ!昨日俺たちがどんな目に合ったってんだ!お前の魔術だって通用しないし、俺の木の棒だって通用しなかったんだぞ!」
「うるさいわ!ワシは魔術を使っていないし、お前に至ってはただの力不足だろうが!!———それにな、」
ぐうの音も出ねぇ。そして、もう一度リュブリナが耳打ちをしようとこちらに口を近づける。吐息が当たってとても変な感じだ。
「ウェスは絶対に強い。こいつを仲間にすれば百人力だろうが!!!」
木の棒一本振り下ろせない自分のパワーを恥じながらも、やはりここは冷静になって、俺がびしっとこの二人だけのパーティーを立て直さないと!
「俺たちの目的は、世界樹!そしてそれは町で仲間を見つけて初めてスタートできるんだぞ!わかったらこんな面倒ごとに首を突っ込まずに———ってもう出発しとる!!」
ウェスとリュブリナはもうすでに点みたいに小さくなるほど遠くまで行ってしまっていた。
「レン!おいていくぞ!言ってなかったが、このパーティーのリーダーはワシだからな!従え!」
勝手に俺はこいつの下につけられてしまっていたようだ。魔法的な面では俺もこいつもダメダメで全然変わらねぇのに。ただ、虐殺の光景を見て自分の保身など頭の片隅にも置かず、一番最初に助けに行ったのはコイツだったな。
そんなことを思い出してしまうと、どうしてかこいつのことを憎めなくなってくる。俺がヤバい時には助けてもらおっと。