45話
英雄達の活躍によって秘密裏に麻薬と革命軍は殲滅された。
しかしまだ魔族が生きているという事実はルビアの中で重大な事であった。
だがコルという絶対的な存在を前にして前回どう戦ったのかがわからなくなるばかりだ。
コルに勝利する想像が出来ない。
それほどまでに不思議な強さを誇っていた。
「あら、来たのね。」
「ああ、過去の精算をしに来た。」
コルが魔王城自室の扉を開けると、そこにはリアが立っていた。
「記憶が戻ったのかしら?また私たちと戦うの?」
「…………。」
リアは空を見上げる。
「出てこいよ。」
そう言うと空に裂け目が出来る。
その中から生気の無い目をした人間の様なものが出てくる。
「父上、何か?」
「父上は辞めろ。僕とコルで1つ《お願い》をする。」
「ええ、良いでしょう。私は貴方達に作られたのですから。それに願いを叶えるのは神の務め。務めを全うしましょう。」
「それなら良かった。僕の《願い》は世の中の書き換えだ。いいかコル?」
「………良いでしょう。」
世の中の書き換え。
それは素晴らしく理不尽な要求だった。
ここで願うのは『人間と魔族の戦いでの記憶の消去』。
つまり無かった事にする。
それだけの権限がリアとコルにはあった。
「承知しました。」
神はそれだけ言うと背中から羽を生やし世界を覆っていく。
それを見つめながらリアはそっと目を閉じた。
リアとコルは元は1つの肉体だった。
いつ生まれたのかも定かではない。
しかし1つの肉体に2つの意思が宿っていた。
ふわふわと生きていく中で《記憶》を蓄積し、《心》を培った。
しかし、その2つはやがて肉体の主導権を争った。
《記憶》があるから《心》が生まれたのか?
《心》があるから《記憶》があるのか?
結論は出なかった。
やがて2つの意思は1つの事を《願った》。
そして《記憶》と《願い》を、《心》と《願い》を得た。
《願い》を叶えるために物質を作り上げた。
その中に《願い》を入れたのだ。
そうしていつしかその存在は『神』となった。
晴れて2つの意思は『神』への《願い》によって分けられた。
だが闘争心だけは残ってしまった。
どちらが本物か?
結果、『種族戦争』が起こった。
リアは『記憶』を犠牲に、コルは『心』を犠牲に戦った。
そして両者とも決着はつかなかった。
リアは戦う『理由』を喪失した。
コルは思いやる『心』が運悪く残ってしまった。
そして若干の差でコルの『心』が復活した……が、復讐心は無くなっていた。
「リア。貴方はこれからどうするのかしら?」
「僕はこの世界に必要ない。ひっそりと暮らすさ。」
「そう……。」
2人は今度こそ違う道を歩み始めたばかりだった。
振り返れば空虚な道だったなとリアは思った。
赤ちゃんが泣く声がする。
「オムツ取り替えといてって言ったじゃない!」
「あ!やっべ!忘れてたごめん!アミ!」
母親は橙色の髪の毛に紅の目をしていた。
アミの世界を救うかもしれなかったスキルは役に立つことなく、平穏を過ごしていた。
父親は金色の目を持つ魔族であった。
《心》を継承する魔族と《記憶》を継承する人間は相容れない存在だとされていた。
そんな記憶がある。
しかしそれは史実には無いが、誰かが争ってしまった結果の偏見なのだとアミは思った。




