乱世の奸雄
洛陽に到着した劉璋の援軍は、劉璋率いる戦闘員と、張松率いる補給軍に分かれていた。
劉璋が曹操軍と激突したのを見ると張松はすぐさま物資を洛陽へ運ぶ。
「助かったぜ。兵糧も尽きそうだったんだ。」
「ご無事でなによりです。さあここから打って出ましょう。」
一通り物資を運び込んだ張松はそのまま隊を戦闘用に再編成して攻撃を開始する。
劉璋はすでに逃亡兵を壊滅させていた。
「項樊!少し休憩して飯食ったらすぐ出撃だ!ここで奴らを完膚なきまでにやっちまうんだ!」
禰衡が項樊へ言う。
項樊は何も言わずに補給物資のところへ向かい、そのまま大口開けて食料を喰らう。
荀彧は曹操へ撤退を提案していた。
もはや敗北は決定した。
統率の取れていない軍はそのまま駆逐されるのみ。
しかし曹操の中の燃える炎がそうさせなかった。
「もはやこれまで。しかし何としても奴を討て。」
「殿!?まだ項樊などを…。」
「項樊ではない!禰衡だ!もはやここで死のうとも奴だけは呪い殺す!」
曹操は敵地に単騎で突撃した。
周りの将が曹操を制止するがそれを振り切ってただ一直線に洛陽へ向かう。
それを見た曹操軍は、曹操を守るために反転して洛陽へまた攻め来る。
混乱している場合ではない。
「禰衡!貴様だけはこの手で斬る!」
曹操は持ち前の武力で劉璋の軍を斬り伏せていく。
それに続いて正気を取り戻した曹操軍が押し寄せる。
「こいつは厄介なことになったぜ。奴ら曹操を守るために死に物狂いで攻撃してくるだろうさ。」
「劉璋殿が来てようやく互角。ここで押し返せなければ勝ち目はないぞ。」
「曹操の狙いはおそらく禰衡殿ですな。こちらもお守りせねばなりますまい。」
「俺様は大丈夫だ。自分の身は自分で守る。むしろ俺様が餌になって策に嵌める絶好の機会だ。」
禰衡は曹操の前に颯爽と現れる。
手には槍、馬に跨りお得意の毒舌で曹操を挑発する。
「おいゴミ野郎。これなら袁紹の方がまだ砂粒程度だが優れてたかもな。お前のために死んでいった兵は天下一不憫な死に方をしたようだな。」
「禰衡…!その口を聞けぬようにこの剣で切り裂いてくれよう!」
曹操は禰衡へ突進する。
しかし禰衡は馬で洛陽中を逃げ回る。
「待て!死ぬより苦しい拷問にかけてやる!」
「そいつは捕まえてから言えばどうだ?まあ一生無理だろうけどな!」
禰衡が逃げ回り、それを曹操が追い、さらにそれを曹操軍が追う。
混乱が回復した曹操軍は指揮系統が回復し、禰衡を挟み撃ちにしようとする。
荀彧はもはや匙を投げていた。
この先の展開が読めたからである。
それを防ぐにはもはや時間はなかった。
一閃。
戟が曹操の馬を貫く。
完全な死角から飛んできた戟を避けられるはずもなく、馬は倒れ曹操は落馬する。
その戟の持ち主が曹操の周囲を薙ぐ。
禰衡は曹操へ歩み寄り捕縛する。
「よお。だから言ったろ?お前は俺様を捕まえるのは一生無理だって。」
「正平殿、捕虜に罵声は酷ですぞ。」
勝ち誇る禰衡に項樊は注意する。
曹操軍を散々に苦しめた項樊の登場、大将である曹操の捕縛、そして援軍の劉璋による包囲。
戦の終結は誰の目に見ても明らかであった。
「降伏いたします。我らの負けです。」
「荀彧!まだお前たちは戦えるだろう!」
「殿…もういいでしょう。私達は負けました。これ以上私達に無様な姿をお見せにならないでください。」
荀彧の言葉に曹操は項垂れる。
曹操軍は当初10万あった兵は4万まで減っており、全員が武器を置いて降伏した。
首謀者たる曹操は捕縛され洛陽へ移送される。
参謀であった荀彧、荀攸、程昱など、武将の夏侯惇、夏侯淵、于禁、楽進などもまた捕縛されて洛陽へ移送された。
「終わったな。」
「長かったぜー。早く帰って奉孝と碁を打ちてえぜ。」
「お二人の知恵あってこそです。少し人使いが荒かったですが。」
曹操軍の捕虜を厳重に警備しながら軍は長安へ凱旋する。
長きに渡る激闘の末、洛陽での攻防は馬正軍の勝利に終わった。
こうして孫権、曹操との戦線は収束。
そして残る許昌での戦は、洛陽の戦いが終結するより一足先に終わっていた。
魯粛、賈詡、孟達と対するは英雄・劉備と荊州の天才たち。
乱世の夜明けはすぐそこに。
感情に任せたらやばいってのは歴史がよく示してくれます。
曹操が徐州大虐殺で悪名を轟かせたり、劉備が夷陵で散々に負けたり、孫権が酒で大失敗しまくったり。
まあ禰衡はそうさせる天才なのかもしれないです。
黄祖にそれで処刑されてますし。




