洛陽の落日
洛陽にて荀彧と攻略部隊を分断していた炎がようやく鎮火する。
攻略部隊筆頭、夏侯淵が荀彧へ報告する。
「こっちの被害はざっと3万。司令官はいずれも健在。ただ曹休と俺と楽進、于禁の部隊の損害が甚大だ。曹休は火計、俺らは項樊一人にやられた。」
「ご報告ありがとうございます。未だ勢力はこちらが優勢、それぞれの部隊の規模を縮小し、再び10部隊で包囲を行ってください。」
「いやそれがな、奴ら爆発するやべえもんを使いやがるんだ。ほとんどの奴らがそれにやられた。なんとかなんねえのか荀彧。」
「爆発ですか…。それならば大楯で対抗いたしましょう。その兵器も無限ではないはずなので、相手の枯渇を待ちましょう。」
曹操軍はすぐさま大楯の準備を始める。
しかし今の報告によって夏侯淵は一つの軋轢を生んでしまっていた。
荀彧はある者に対して、その者は荀彧と夏侯淵へ不信感を抱いた。
曹家千里の駒と評された武将、曹休であった。
曹休以外の将は火計が直撃していなかったのに対し、曹休は真っ先に撤退を始め、火計と爆弾が直撃し甚大な被害を受けていた。
自身の判断能力が他より劣っているかのように捉えた曹休は、信用を取り戻すために功を焦っていた。
そんな曹休に願ってもない好機が訪れる。
この戦役の前に項樊と禰衡、法正が仲違いしているのを見たという者がいる。
曹操軍の斥候だけならまだしも、捕らえた朝廷軍の兵すらも見たという。
つまりこれは離反の好機。
荀彧は、項樊は絶対離反しないと言っていたが禰衡や法正はどうだろうか。
曹休は夜のうちに秘密裏に動き始める。
敵、味方どちらにもばれないように動く。
まず捕らえた兵を解放して禰衡への書状を持たせる。
そこには禰衡をおだてる内容と見せかけて、巧妙に裏切りを唆すようなことを仕込む。
上手くいけば法正も項樊も一網打尽にできる。
「って考えてるんだろうぜ曹休は。」
「まあこの書状を見る限りそうだろうな。俺もお前も舐められたものだな。」
禰衡と法正は曹休からの書状を見て嘲笑する。
策に嵌められているのはどちらであろうと。
「この誓いの小刀、使う時が来たようだな。」
「終わったら太鼓教えてやるよ。お前には世話になった。」
禰衡、法正は裏口から出る。
曹休の書状には裏口にて待つと書かれていた。
「よう曹休。手土産付きで来てやったぜ。」
「禰衡…貴様裏切ったか!どうなるかわかっているんだろうな!」
いつぞやに法正に手渡された小刀を法正の首に突きつけながら曹休へと向かっていく禰衡。
この小刀は、法正が禰衡に向けた覚悟の証であった。
反りがあわないのはわかりきっていること。
しかしそのしがらみを断ち切り、戦場で共闘する場合は必ず共に生き、共に死のうという約束。
その小刀は関係を守り相手を切る刀。
法正はこの小刀に誓いを立て、同じように禰衡も誓いを立てた。
死ぬ時はこれで自害すると。
そのような思い誓いを立てているとはいざ知らず、曹休は近づいてくる二人を歓迎する。
「よく決断してくれた。項樊はどこだ?」
「今中で療養中だ。寝込み襲うのは趣味悪いからやんねえ。」
「そういうことだったか。ならば私が直々に手を下してやろう。中へ案内してくれ。」
「その前にこいつをどうする。俺の手でやってもいいんだが、せっかくだから項樊と並べて処刑してやるか。」
「禰衡…呪い殺してやるぞ。」
禰衡の提案に曹休は大きく頷き、何の警戒もなく城内へ入る。
城門が閉まった瞬間、法正は身を翻して禰衡の手からすり抜け、曹休を地面に押さえ込んだ。
「な、何をする!」
「お人好しにも程がある。俺らを取り込むなら曹操直々に来ても足りん。」
「曹家千里の駒は捕まるのも神速だな。兵は神速を貴ぶってか?」
「騙したのか!殿が黙っていないぞ!」
「ごちゃごちゃうるせえ!こっちも死ぬ覚悟でやってんだよ!俺らの親分の命狙われてこっちも黙ってねえんだよ!」
「そういうことだ。大人しくお縄につけ。あと禰衡、さっき楽しんでたな。報復を覚えてろ。」
曹休は罵詈雑言を吐きながら捕らえられた。
馬正軍からしたら損害0で相手の将を一人生け捕りしたというわけであるから大きな戦果である。
しかし未だ勢力差はある。
その時、禰衡と法正にとある報が入る。
長安からの援軍の報であった。
曹休って石亭の戦いでも偽投降に釣られてますよね。
お人好しなのか先見の明がないのか。




