洛陽会戦前日譚・曹操陣営
曹操軍が洛陽へ向けて進軍する少し前、曹操の側近、荀彧は主要な人物を集めて絵画を開いていた。
そこに並ぶは曹仁、曹休、曹真、夏侯惇、夏侯淵、荀攸、張郃、張遼といった、曹操を支える柱たる人物ばかりである。
「皆さん、東の同盟が確固たるものとなった今こそ馬正を討伐する好機です。洛陽と許昌と赤壁、三方面から同時に侵攻することによって、馬正の戦力を分散させて各個撃破する。以前より狙っていた戦略です。そこで我らは洛陽を侵攻することとしました。」
荀彧が全員に説明する。
その方針に対しては誰も異論がないため、現場での動きを曹真が問う。
「それで、我らはどのように動けばよろしいのだ?」
「最終目的は洛陽の占拠、そして物資を奪ったのちに長安へ一気に攻め込みます。現場での目標は第一に項樊の討伐。第二に禰衡、法正の指揮の無効化です。子細はそれぞれ将軍に任せます。しかし相手は進軍路の関を閉じるなどして機動力を失わせ、一網打尽にする腹づもりであると考えられます。なので、あらゆる最悪の状況を想定して、何があろうと動揺せずに冷静に指揮していただけることを求めます。」
「手段は問わんのだな?ならば禰衡や法正を討ってもいいということだな。項樊はこちらに組み込むことはできんのか?」
夏侯惇が言う。
荀彧は項樊に関しては明確に討伐と言った。
「はい。軍師二人は生死は問いません。しかし項樊はこちらに寝返ることなど絶対にありません。もし投降してきたならば必ず罠です。相手が仲違いしているような素振りを見せても、それも策略のうちです。馬正への忠誠が揺らぐことはありません。項樊は必ず討ってください。」
荀彧はきっぱりと言い切った。
あまりにはっきり言う荀彧に一同面食らう。
「そんなに警戒する相手なのですか?こちらには張郃将軍、張遼将軍、さらに許褚将軍や于禁将軍がおられるのです!我ら曹一族も揃っているのです。項樊一人など数で押せば倒せるのでは?」
曹休が立ち上がって反論する。
まるで華北を制した曹操軍の軍事力を軽視されたようで納得いかないといった様子だった。
「曹休殿、お気持ちはわかります。ですが将軍たちの精強さは私が誰よりもわかっております。しかしそれゆえの慢心がある。仮にもあちらは、私と夏侯淵将軍を退けた者。そして許褚殿との一騎打ちでこちらを退けた者。この数年間でさらなる成長を遂げていないとは考えられません。ここまで警戒していても足りないほどです。」
「おぬしがそこまで言うならばあいわかった。では我らは項樊を集中攻撃しておればよいのか?」
曹真が問う。
しかし荀彧は横に首を振る。
「あくまで最も警戒すべき者、というだけです。禰衡と法正はどのような奇策を仕掛けてくるかわかりません。これより考えうる限り相手の策をお伝えしますが、それすら超えてくることも考えられます。皆様現場にて周囲を観察し、あらゆる可能性を考えてください。」
「ならば軍規も乱してはなるまいな。少しでも綻びを見せればそこを突かれる。皆々様、くれぐれも賞罰は厳正にされるよう。」
于禁が迫力のある声で言う。
場の空気が一層張り詰め、全員が頷く。
「荀彧殿、それでは相手の策とやらをお聞かせ願おう。」
曹仁が口を開く。
荀彧は机の上に地図を広げて、考えうる限り策を論ずる。
関の閉鎖、間道からの奇襲、偽投降、農民の反乱の扇動や獣の使役に至るまで。
それぞれ隊を預かる指揮官はそれらの作戦全てを書簡に記す。
さらに荀彧はそれらを踏まえてこちらの侵攻方法や相手の作戦への対策、さらには万が一の不測の事態への対策までもを全員に伝える。
何時間にも及ぶ作戦会議。
様々な意見が飛び交い、全てにおいて隅々まで論議し尽くされた。
「これ以上意見は出ませんかね…。これにて作戦会議を終了いたしましょう。皆さん本日はゆっくりお休みください。」
荀彧が真っ黒になった地図を机から引き上げる。
全員まるで長距離を走ったかのごとく疲れていた。
(しかしここで勝っても劉備や孫権がこちらの言うことを聞くはずもない。涼州の者らが出兵しているかは定かではないが、この戦の後言うことを聞くとは到底思えない。殿にはその先が見えておられるのか…。)
荀彧は内なる思いを押し殺し、来る進軍へ備える。
そして出兵当日。
曹操軍は劉備軍、孫権軍と同時に目標へ向けて進軍する。
目指すは洛陽、そこを抜けて長安。
帝を簒奪した馬正を討伐し、曹操が天下をとる。
中華全土で最大最強の軍勢が洛陽へと侵攻する。
砂埃をあげて、大地を覆い尽くす兵が一路専進、かつての都へ挑む。
次回はついに激突します。
規模は大体10万vs3万です。




