才能爆発
東が大混乱に陥る前、禰衡は益州の劉璋のところへ辿り着いていた。
「ここが巴蜀か…。さて、才能を見せつけてやるとしますか。」
禰衡は自信満々に進んでいく。
朝廷からの使者であるということで、丁重にもてなされ、劉璋の前に案内される。
「よくぞお越しくださいました。劉協陛下からの使者殿でございますね。」
(…見るからに無能そうじゃねえか。こんなやつにペコペコするのは癪に触る…が、ここでしくじったら俺様の才能が廃るってもんだ。)
「お初にお目にかかります。私、劉協陛下の使者として参りました禰衡と申します。突然の訪問となり、申し訳ありません。」
「これはご丁寧にありがとうございます。それで、ご用件は?」
「陛下はこの天下の情勢を憂いておられます。特に涼州の馬騰らが朝廷へ非常に反抗的であることに対して手を焼かれております。そこで明君とお聞きする劉璋殿へ御助力いただきたく参りました。我らが手を組み、涼州の賊徒を挟撃する形で抑えられれば、これほど心強いものはありません。何卒、ご協力いただけないでしょうか?」
(全くここまで遜らないといけないのが面倒だぜ。まあこいつも俺様の名声は知ってるだろうからな。)
「ふむ、そうでありましたか。私共も涼州へは恐怖を感じておりました。皇帝陛下が対涼州へ動いてくださるなら、こちらからも望むところでございます。この盟約、喜んでお受けいたしましょう。」
「ありがとうございます。我が主にもお伝えいたします。」
「ええ、よろしくお願いします。こちらも全力でご助力いたします。」
同盟の交渉はあっけなく終わる。
禰衡は拍子抜けといった様子で巴蜀を出る。
手土産に宝物を持たされて馬車に乗った。
「俺様の才能にかかればこんなもん朝飯前よ。法正のやつは上手くやってんだろうな。」
禰衡は空を見上げる。
その手には法正から渡されたあるものが握られていた。
一方冀州では、曹操が徐州へ出兵していた。
荀彧が秘策を持ち、下邳城へ迅速に向かう。
さらに荀彧はある可能性を考えていた。
それは馬正すら考えていなかった可能性。
そしてそれがまた、中華の東の戦乱の最も大きな戦乱の火種となる。
最後の英雄の覚醒の時が来る。
歴史の表に出てくる人物は傑物の君主ばかりですが、于禁や羅憲のような地味な人物も時代を支えた英雄たる人物と思います。
この小説で言えば白とか項樊みたいな立ち位置でしょうか。




