安帝将軍・馬正
「おうやんじゃねえか。最初からお前はこれが向いてたんだよ。つまんねえ盗みなんざやめちまえよ。」
「そ、そうか?だが確かに人のために働くって気持ちいいな。」
禰衡が現場を監督し、白がその指示通りに市街地を改修している。
「しかし早いもんだな。あんだけ荒れてた都がこんだけ立て直すなんてな。」
「そりゃ俺様の才能のおかげだぜ。と、言いたいところだがこればっかりは馬正の才能だな。こんな短期間で都を復興しつつ、袁紹やら曹操やらの外交まで立て直しちまうんだもんな。」
「やっぱ馬正について正解だったぜ。郭嘉には感謝しねえとな。」
長安の乱から1年。
都に蔓延る賊は項樊と孟達の活躍により掃討され、汚職に塗れていた朝廷の有権者は郭嘉と禰衡、魯粛の活躍により粛清された。
しかし馬正は賊を兵とし、有能な有権者はそのまま手元に置く。
さらに馬正は帝の権力を主張。自身はあくまで帝の臣下であるということを徹底し、丞相の位を固辞し続けた。
さらに帝は馬正以外の者たちに将軍の位を与え、その上に立つ馬正はその者らより上の位、つまり大将軍に就くべきと示すが、馬正はそれすらも辞退する。
若輩者の自身はその地位に驕り、正常に帝の補佐をできないとしてひたすら高い地位に就くことを拒んだ。
しかしその謙虚な姿勢が帝に気に入られ、帝は相談事を全て馬正に聞くようになった。
さながら曹操と荀彧の関係、劉邦と張良の関係のように。
高い位を固辞し続ける馬正に対し、このままでは他の者たちに示しがつかないということで、帝は新しい官職を設ける。
安帝将軍。
その名の通り、皇帝の側に仕え皇帝を安んじる将軍。
皇帝の側近以上の存在として国家を守る将軍。
その特殊な立ち位置ゆえに明確な地位は決まっておらず、その他の将軍や官職とは違って特別扱いされる存在であった。
馬正は実質的に最上級の権力と地位を手にしたのである。
その業務の一環として都の整備、有力者たちとの関係の保全、皇帝の身辺の安全確保を行なっている途中であった。
「おー馬正。いや、今は安帝将軍殿…かな?」
「もう、からかわないでくださいよ奉孝殿。」
「冗談だよ。どれだけ偉くなっても馬正は馬正だ。」
「それで、何か御用ですか?」
「穏やかじゃない報が入った。孫策がこっちには従わねえって声明を発表したらしい。独自の国家を作って独立したいんだとよ。」
「それは困りましたね。せっかく袁紹、曹操を抑制できそうなのに。考えにくいですが、もしも袁紹らと孫策が手を組んだら非常に厄介ですね。」
「そうだよな。袁術なんかとは比べ物にならないぐらいしっかりした同盟になりそうだ。さて、どうしようか。」
「まずは穏便にいきましょう。孫策へ使者を送り、臣従ではなくあくまで同盟を持ちかけましょう。」
「誰が適任か…。あ、あいつはどうだ?」
郭嘉が思いついたように指を指す。
その先には法正がいた。
「私もそう思っていたところでした。孝直殿ならきっと良い方向へ持っていってくれるはずです。」
馬正は孫策への使者を法正に決定した。
袁紹と同盟を組ませず、なおかつこちらに敵対しないように上手く誘導する難しい任務である。
一方法正はくしゃみをしていた。
「…なんだか俺のいないところで勝手に話が進んでいる気がする。」
帝を保護したとはいえ世は乱世。
後漢王朝の威光を回復させつつ争乱を収束させるにはまだまだ時間がかかりそうであった。
もうそろそろ馬正も20歳に近くなります。
ちなみに旅に出たのが14歳なので結構月日が経ってます。
ほとんど移動ですけど。




