用心棒項樊
徐州に向けて旅立った馬正。
今回は旅立ちから少し時間を遡ったお話。
威勢よく旅立つと言ったものの、馬正は正直不安でいっぱいであった。
なんせ勉学は申し分ないものの、武術に関しては天下どこを探してもこれほど不得手な者はいないほどであった。
世は乱れはじめ、賊もあたりをうろついている状況。そんな世界に一人で身を投じることをすっかり忘れていたのである。
馬正は他人や世を見極めることは得意であっても、自身に対する物事はまるっきり無頓着なもので、幼い頃からたびたび危なっかしいと父に注意を受けていた。
そして今回、父の意見を押し切って迎えた旅立ち。
しかし父は馬正がこうして悩むことをもはや完全に予知していた。
荷物をまとめ、今からでも武術を身につけるべきかと悩む馬正にある男が現れる。
「お初にお目にかかります」
そう一言だけ発したその男はかなり大柄で髪は逆立ち眼力鋭く、筋骨隆々で威圧感のある偉丈夫であった。
突然現れたその男を目にした馬正は腰を抜かすでも慌てふためくでもなく、ただ一言
「用心棒となっていただけませんか?」
と発した。
二人の間に一瞬、しかし本人達にとっては長い長い静寂が流れた。
その間、馬正は冷や汗一つかかず、ただいきなり現れた客人を一心に見つめるだけであった。
「そのお話をしに参りました、伯常殿。」
大男が重い口を開く。
たった3つの言葉のやりとりのみで馬正は悟る。
「父上が遣わしたのか。」
「左様でございます。名は項樊、字は子達と申します。」
この男こそ、馬正の父が旅立つ息子への餞別として遣わした用心棒、項樊である。
項樊は口数こそ少ないものの思慮深く、先程の馬正の態度を見て心服していた。
彼は馬正の父から「おぬしを見て取り乱すようであれば正にはまだ天下は臨む器はない。その際は無理にでもこの場に引き留めよ。」と言われていた。
項樊はその体格ゆえ、会った人物は皆身構えて警戒していた。しかし今初めて自分を見ても驚かない者がいる。これを大器と言わずしてなんとするか。
「項樊と言うのか。おぬしは西楚の覇王の風格があるな。姓もまた項であるしな。」
「もったいなきお言葉。」
「これで私の憂いはない。覇王が旅のお供とはなんと贅沢な。ちなみに歳はいくつだ?」
「26にございます。」
「10以上も上か…。それを知ってしまうと些か君主の立場であることが憚られるな。」
「お気遣い、痛みいる。されど馬正殿と私は主従。ご心配は無用でございます。」
「うーんわかった。だが忘れるな。私は武術に長けておるおぬしを常に尊敬し、信頼しておるぞ。」
「ご期待は裏切りません。」
こうして用心棒・項樊と共に荊州を後にする馬正。
憂いはない。ただ進むのみ!
馬正はオリキャラですが、項樊もオリキャラです。
馬正の父は調べても出てこなかったので名前はありません。
今後出番があるなら名前をつけるかもしれないですがたぶんずっとないです。




