兗州の乱(後編)
兗州の大部分を降伏させ、その戦力を吸収し大軍勢となった呂布。
軍師に陳宮をつけ、劉備と張邈を味方につけた中華最強の武将が、もはや虫の息の曹操軍の留守番に襲いかかる。
そして南からは孫策を従えた袁術が急行している。
荀彧の予想に反してほとんどが寝返ってしまった兗州。
もはや曹操本軍が戻ってきても撃退できるかどうかわからなかった。
絶体絶命。
しかし荀彧には秘策があった。
兗州で戦うことはできない。
ならばもはやここを守る必要もない。
既に荀彧は曹操と示し合わせていた。
曹操が兗州を発つことすら陽動であった。
兗州を焼き払い冀州まで後退し、袁紹と合流して迎撃する。
豫州へ向かったと思わせた曹操軍本隊は反転、袁紹軍と挟撃するように反乱軍を囲い込む。
袁術は遠征軍であり、呂布や劉備は本拠を持たない。
焦土作戦に合わせて包囲して持久戦に持ち込めば勝機は大いにある。
だが、まず兗州を脱することからである。
土地を焼き払いつつ後退するのは容易ではない。
「夏侯惇将軍、私の作戦に従っていただけますか?これも確実とは言えませんし、後退するのは容易ではないと心得ております。」
「おぬしが考えた策だ。曹操ですら異論はないだろう。拙者は戦が苦手だ。民を無事に冀州へ連れて行くことだけを考えよう。子細はおぬしに任すぞ。」
「感謝いたします。私にお任せを。」
曹操軍は物資を持てるだけ持って足早に兗州を出て行く。
去り際に田畑を焼いていく。
曹操率いる本隊も、兗州出発の際に物資を大量に持って出たので、もはや兗州には戦略的価値はほとんどないものとなる。
これに困ったのが元々兗州の曹操軍であった陳宮、劉備である。
呂布を迎えたとはいえ兵站がなければ戦にならない。
陳宮は迅速に後退し、袁術と合流して体勢を立て直すことを提案する。
劉備、張邈は快諾したが呂布は不満そうについていった。
袁術は若く血の気が多い孫策を引き連れていることもあって、勢いに乗って兗州を占領する作戦をとる。
その土地が焼き払われているなど考えもせずに。
しかし正面から大軍勢が来る。
袁術軍は曹操軍が攻めてきたと思い臨戦態勢をとる。
しかし一人の将が名乗りを上げた。
「私は劉備と申します!袁術殿、お力添えをするべく参りました!」
その後ろには陳宮、張邈、そして呂布が続いている。
これを見て袁術は大いに喜ぶ。
名だたる名将が自らの傘下に加わるというのであるから。
「袁術殿、陳宮と申します。兗州へ侵攻するのはやめておいた方がよろしいかと。」
陳宮が袁術へ言う。
「何を言うか。このままの勢いで攻めた方がよかろう。こちらには劉備、呂布、孫策がいるのじゃぞ。」
「いいえ、袁術殿。我らも協議の結果兗州より逃れて参りました。奴らは焦土作戦を敢行いたしました。」
「なんと!では兗州は攻める価値がなくなるな…。ならば一度江東へ引き返し、体勢を整えてから袁紹との決戦に挑むとするか!」
袁術はすぐさま軍を反転させた。
「そうやって軽率に判断するから嫌われるんだよ。なんで父上はこんな奴に…。」
孫策は不満げに小さくつぶやいた。
曹操軍本隊は挟撃する予定であったが、陳宮の迅速な判断により反乱軍が退却したので間に合わず、そのまま袁紹へと合流した。
「久しいな、袁紹。」
「おお、曹操か。聞いたぞ、大変だったな。」
「袁術と雌雄を決し、兗州を取り戻す。協力してくれるな?袁紹。」
「断ることがあろうか。真の名族はどちらであるか思い知らせてやろう。」
「荀彧、大義であった。これから捲土重来を期すぞ。」
「ご無事でなによりです、殿。共に不届き者を退けましょう。」
袁紹軍も来る決戦に向けて英気を養う。
焦土となった兗州は、嵐の前の静かさを保っていた。
ちょっと長いこと主人公出てきてませんが、官渡の戦いレベルの大戦がこれから起ころうとしています。
馬正はせこせこ長安へ進んでます。




