一方その頃
馬正は都である長安を目指して進んでいく。
そしてその長安でもまた一人、天下を憂う人材がいた。
その名は法正。字は孝直。
彼もまた「ヤバい奴」の一人であった。
栄華を極めた大帝国・漢。
その都ともあろう長安は今や略奪殺人なんでもござれの荒れ放題。
だがそこに鋭く冷たい瞳を持つ青年がいた。
彼はこの状況を憂いていた。
というより静かな復讐の炎を燃やしていた。
法正は、されたことは絶対に忘れず、良くも悪くも必ずお返しをする性格だった。
都が荒れて、自分が苦しい生活を強いられているのは奴らのせいであると。
そもそも皇帝が頼らないからであると。
しかし自分の力のみでは何も変えることはできない。
そもそも法正はまだ17歳、馬正の2つ上であった。
「覚えてろよ…。俺が必ずこの手で…。」
静かな、しかし激しい復讐心。
李傕と郭汜へ向けられたその強い殺意は、決して表に出ないが法正の心の芯として根付いていた。
来るべきその時まで、法正は自らの刃を研ぎ続ける。
兵法や政治のみならず、武術も人知れず身につけていた。
法正は仕えるべき主はどこにいるのかと考えていた。
自らの住む司隷は李傕と郭汜が牛耳っており、近辺は劉表や劉璋といった大した人物がおらず、仕えても自分の目的を果たせる主はいなかった。
最近急激に力をつけている曹操へ仕えようとも考えたが、ついこの間民間人の急造の軍に敗れたとの情報が入った。
そんな民間人に敗れる程度の男の元にいても大業を成し遂げられない。
ならば孫策か?
いや、彼は父親の孫堅が最強の戦力を誇っただけで、息子がそうであるわけではない。
漢中の張魯は怪しい宗教を押し付けてくるし、涼州は頭のおかしい戦闘民族が支配している。
袁紹や袁術なんて血統だけの愚物。
地獄のような現状を変えることもできない地獄。
愚物の元で地道に力をつけるしかないのか。
いつまでかかるのか。
せめて自分を重用しそうな者へ士官するしかないのか。
法正が馬正の存在を知るのはもう少し後のことである。
報復の知者との運命が交わりはじめる。
ついに登場です。
第二の主人公ぐらいの感じで描いていこうと思います。
登場人物はみんなできるだけ忠実に描きたいと思ってます。




