開花
紀元193年。
董卓が呂布に暗殺され、帝は李傕と郭汜に簒奪され世は混迷を極めていた。
そんな中、馬正は用心棒の項樊と共に、豫州の天才戦術家・郭嘉、傲慢な天才・禰衡、大富豪の異端児・魯粛、天下一の医師・華佗を仲間にして、独立勢力として天下に名乗りをあげる。
大切な人を守るため、戦のない世へ向かうため、馬正の更なる戦いが始まる。
馬正一行は首都・長安へ向けて進んでいた。
しかしそれは容易なものではなかった。
一行にとっての最高戦力である項樊が重傷によって戦闘不能、魯粛の私兵数十人により行軍速度は低く、さらに徐州の民が馬正を慕ってついてきているため、機動力はかなり低いものであった。
さらには…
「子敬殿、知者が揃っているとはいえ私たちは弱小勢力です。財源もなければ貯えもありません。経済面でご助力いただけるとありがたいのですが…。」
「あ、そのことなのですが、小生の財産はほとんど徐州に置いて参りました。貧しい者たちへの施しでございます。」
馬正は耳を疑った。
なんと魯粛はほぼ無一文で徐州を飛び出していた。
「狂児」と称される所以である。
このままでは曹操に背後を取られてなす術もなく討たれるのも時間の問題である。
おそらく曹操は兗州に到着し、馬正一行を背後から狙おうとしている頃合い。
しかし馬正には秘策があった。
彼はその戦略の才能を開花させようとしていた。
「ま、俺様の才能があれば魯粛の財力なんて当てにしなくても余裕だろ。それで、これからどうすんだ馬正?まさかなんの計画もなく長安に行こうとしてるわけでもないだろ。このままだと全員共倒れだぞ。」
「大丈夫です。このまま長安を目指しましょう。ただし荊州に寄ってからです。劉表殿には既に書状を送ってあります。」
「背後の曹操はどうすんだ?前みたいな備えはないから襲われたら一巻の終わりだぞ。」
「放っておいて大丈夫です。曹操は急速に改革を進めておりますので、その分反発も大きいでしょう。いつか正平殿が孫策殿のことをおっしゃっていたように、そのうち反乱が起きるでしょう。」
「そんな不確かな状態で大丈夫なのか?全て予測の域を超えないぞ。」
「それに対しても既に手を打ってあります。曹操へ不満を持っている者たちはいくらでもいるので。」
馬正の急速な成長に驚きを隠せない諸侯。
「荒療治…ということですかな。」
華佗がつぶやく。
項樊の行動が馬正の才能を目覚めさせたのかもしれないと。
依然として目を覚さない項樊だったが、馬正は項樊は大丈夫であると絶対の信頼を置いていた。
一行は豫州に到着した。
郭嘉と馬正が出会った地である。
「一休みしますか。」
馬正が言った。
それぞれ思い思いの場所へと散っていく。
郭嘉と馬正は自然とある店へ向かっていた。
着いたのはいつかの料理屋である。
郭嘉と馬正と項樊が絆を結んだ場所。
店に入るなり、二人を見た店主が大急ぎで出迎えにきた。
「あの時は本当にお世話になりました!徐州であなた方が民を守るために大軍を退けたとお聞きしております!そのような方々へ私の料理をお出しさせていただけたことを光栄に…。」
「ああわかったわかった。俺らはこれから長安へ向かう。戦の疲れも全然取れてねえままうちの大将が決めたんでな。」
馬正が申し訳なさそうに郭嘉を見る。
意地悪そうな笑みを浮かべて郭嘉が馬正を見た。
「それはそれは!このような汚い店でよければ是非ともこちらでお休みくださいませ!腕によりをかけてお食事をご用意させていただきます!」
店主がせかせかと料理の準備をする。
馬正が不満げに郭嘉を見る。
「冗談に決まってんだろ!みんなお前を信じてついてきてんだ。多少大変だろうとお前を疑ったりしないさ。」
「…まあ冗談を言えるくらい余裕が出てきたってことだと思っときます。」
その後二人では食べ切れないほどの料理が出てきたのは言うまでもない。
一行は項樊のこともあるのでしばらく豫州に留まることを決める。
許昌という大都会があるこの地では物資も潤沢である程度は安全を確保できる。
馬正一行は束の間の休息を得るのであった。
第二章開幕、これから長安を狙います。
今の都は荒れに荒れてる状態です。
渡る世間は敵ばかりです。




