決断の時
馬正は大軍勢を誇った曹操軍に勝利し、徐州の民からの信任を得た。
民間人をも殺そうとしていた曹操の思惑を見事打ち砕いたのである。
勝鬨の中で馬正は未だ悩んでいた。
これで自分も天下から注目されるであろうと。
しかしそんな悩みも悠長に考えてられない事態が起こる。
戦後処理に追われる馬正の元に、陶謙が曹操により討たれたとの報が入る。
陶謙配下の劉備は曹操に捕縛され、曹操はこれより兗州に凱旋するとのこと。
そうなってしまっては状況は悪い。
要するにここ徐州は曹操の支配下にあることとなる。
曹操軍を撃退した自分達は逆賊であるとして処される可能性があるのだ。
馬正は仲間を集めて相談した。
「ここにいては危険です。私の故郷の荊州に戻ろうと思うのですがいかがでしょう。」
「俺様はここから離れるのは賛成だけどな。ただ荊州にずっと居続けるのは反対だ。劉表はどうせすぐ曹操に降伏するだろうからな。」
「俺も禰衡と同意見だ。だがそうなるとどこに行くかだよな。」
「小生に提案がございます。益州の劉璋殿を頼られては?あの地はここから遠く離れており、戦火から比較的免れている地でございます。」
「なるほど…。それはいい案ですね。」
「いや、俺様はそれも反対だ。あの劉璋が俺様たちを守ってくれるとは思えんな。曹操にちょっと脅迫されただけで俺様たちを差し出しかねない。」
「ならどうするってんだ。孫策は暴政のおかげでそのうち暗殺されそうだし、袁術派にも袁紹派にも喧嘩売った俺たちはほとんど行き場はないぞ。」
「なんで誰かに守ってもらう前提なんだよ。そろそろ俺らも群雄の一つとして自立する時だ。」
突拍子もない禰衡の提案に目を丸くする馬正と郭嘉。
しかし魯粛は大きく頷いた。
「ならばどこかの領地を乗っ取るということですかな。しかし一筋縄ではいきませんでしょうな。小生の私兵もそう多くはないですからな。」
「ちょ、ちょっと待ってください!私はただ荊州へ帰りたいだけです。戦なんてしたくありません。ましてや他人の持ち物を横取りするなんて…。」
「そんなこともわかんねえなら俺様の見当違いってわけか。ならお前は荊州で劉表もろとも曹操に討たれて死ねばいいさ。これだけの面子を集めて使いこなせねえならそれがお似合いだ。」
「はあ…。言い方は置いといて、俺も禰衡の意見に賛成だな。馬正、お前は今何を目指して生きてんだ?」
「それは…。名士と交流して戦乱の世を…。」
「伯常殿。私項樊は貴方様の旅立ちよりお供させていただいております。この方たちは伯常殿と共に過ごすことで、私と同じように貴方様へと惹かれているようです。伯常殿、もうお気づきではないのですか?」
「項樊…!!」
項樊が突如倒れた。
腹から血を流している。
「子達殿!このような大怪我を隠していたとは!」
「とんでもねえ精神力だぜ。奉孝!医者を探すぞ!」
「ああ!魯粛殿、この場は任せた!」
禰衡と郭嘉はその場を飛び出した。
魯粛は項樊を看ているが、馬正はあまりに目まぐるしい展開に、項樊に声をかけることもできなかった。
「奉孝!あてはあるんだろうな!」
「なけりゃ出てきてねえっての。この辺に来てるって噂だ!」
落日の中二人は駆ける。
予想以上に馬正が不憫な感じになってしまいました。
雌伏の時ですね。




