学園乙女ゲームの世界に転生しましたがヒーローが変人ばかりなので全力で恋愛を回避します!
2020-12-13
安価・お題で短編小説を書こう!9
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>>197
なろう的にはDANPEN、お題スレ的にはお題の消化が強引ですが
使用お題→『仙人』『変態』『シアン』『エイリアン』『男爵』
【学園乙女ゲームの世界に転生しましたがヒーローが変人ばかりなので全力で恋愛を回避します!】
お寺や武家屋敷を思わせる、どっしりとした木造の正門。その大きな瓦屋根を見上げながら、敷地に足を踏み入れる。そこには、都会の喧噪とは無縁の、雑木林が広がっている。
石畳の道を進む。左右に立ち並ぶ木々の、青々と生い茂る緑が、私を非日常の世界へと誘う。
昔はもっと鬱蒼とした森だったらしい。今のご時世では色々と問題がある、ということで、以前よりは見通しが良くなるように整備された、少なくとも、私はそう聞いている。
「よしよし、誰もいない……」
そこから十分近く歩く。林の向こうに、大小様々な建物が見えてくる。
ここは私立那老学園、那老の森キャンパス。幼稚部から高等部、それに大学や大学院まで併設されている、教育の一大拠点だ。
幼稚部の園舎を尻目に、林の小道を奥へと進む。
慌ててはいけない。走ってはいけない。
やがて、神社の境内みたいな緑地を抜けると、アスファルト舗装の向こうに、鉄筋コンクリートの校舎が見える。
まだ朝の早い時間帯。学園の構内は静まり返っている。
だけど私は油断しない。
「ふぃー。やっと着いたー」
生徒用の玄関に滑り込んで、一息つく。正門からここまで、約二十分。
普通に考えれば遠過ぎるけど、この学園の中で、そんな常識は通用しない。
階段を上って、一年生の教室へと向かう。
ここまで来れば、もう安心だろう。
教室の引き戸を開ける。
「あら、おはようございます」
心臓が止まるかと思った。だけどセーフ。セフセフ。セーフだ!
「おっ、おはよう、ございます。星白宮さん」
星白宮桜子。私のクラスメイトだ。絵に描いたような大和撫子が、にこやかな表情で話し掛けてくる。
「桜子とお呼びください。ねっ、恋歌さん」
そう言ってウインクまで飛ばしてくる。普通なら、ちょっとイタい人かな、と思われそうだけど、彼女の場合は違う。恐ろしいほど似合っている。
「はっ、はぃい」
「ところで、今朝はこんなに早く、いかがされたのですか。私は恋歌さんにお会いできてうれしいですけど、いつもは、もっとゆっくりでしたよね?」
もちろん理由はある。だけど、それをこの世界の人に説明しても、それこそイタい人だと思われてしまうだろう。
「えっとですねー、今日は、その、朝早く目が覚めてしまって。二度寝しても損なので、どうせなら静かな教室で勉強でもしようかなー、と……」
しどろもどろに説明する。
「まあ。それは素晴らしい心掛けですわ。でもそうなると、私はお邪魔だったかも知れませんね」
「いえいえ! そんなことないですよ! ところでその、桜子さんは、いつもこんなに朝早いのですか?」
「私ですか? ええまあ。家が近いので。普通に出ると、どうしても早く着いてしまうんです」
「そうなんですか」
星白宮桜子学園に住んでいる疑惑。現実になっても、そこは変わらないらしい。
「ですので、普段は、あえてゆっくり出るんですけど」
「はあ」
「だけど今日は特別です! だって恋歌さんと、こうしておしゃべりができたんだもの」
にこにこ顔で、そんなことを言う。
うーん……それって……なんかおかしくない? 屈託のない表情に、何か裏があるとも思えないけど。
待ち伏せされていた。そう考えるのは自意識過剰だろうか。
*
母方の祖母の遺言。恋歌を那老学園に通わせよ。
その話を耳にした瞬間、私は思い出した。ここは前世の私が遊んでいた乙女ゲームの世界である、ということを。
ゲームの名前は『星降る森の恋の歌〜Sweethearts Under the Starry Night Sky〜』。
緑に囲まれた学園を舞台に、一癖も二癖もあるイケメンたちと大恋愛を繰り広げる。ハッピーエンドでは、その中の一人と結ばれるか、逆ハールートもあり。バッドエンドでは、ヒロインを含む誰かが不幸になったり、最悪死ぬ人も出てくる。そんなゲーム。
正直言って、気は進まなかった。ゲームと現実とは別のものだ。だけど祖母の遺言は絶対で、断れる状況ではなかった。
入学試験の成績は、自己採点では、普通。ヒロインの特殊能力とか、並外れて賢いとか、そういうことは一切ない。法外な学費は、すべて祖母の遺産で賄った。
そうして私は、那老学園高等部の生徒になった。
*
静かな朝の時間は、本当に勉強をして過ごした。桜子が「じゃあ私も勉強することにします!」と言ったからだ。
他人の目があるせいか、いつもより集中できた気がする。
やがて他の生徒たちが登校する時間になり、教室の中がにぎやかになる。
「あっぶねーあっぶねー! 間に合った! 本当に遅刻するかと思ったぜ……」
そう言いながら、一人の男子生徒が教室に駆け込んできた。
「虎月院くん、また今日も廊下を走ってきたの? 落ち着きのないこと小学生の如し。栄えある学園の生徒としての自覚はないのかしら?」
真面目そうな女子生徒が、そう言って注意する。
「委員長。遅刻しそうだという自覚があればこそ、俺は走ってきたんだ。そんなことより」
子供っぽい言動とは裏腹に、その外見は二度見するレベルで特徴的だ。
すらりとした立ち姿の、見下ろす眼光はタカのように鋭く。
鼻の下には、油で固めてカールさせた、うさんくさい口ひげ。
その口ひげをぴくぴくと動かす男子生徒。
「そう言うあんたこそ、自覚したらどうなんだ? エロいぜ、あんたの体。制服で隠したって無駄だ。男の夢が詰まってる」
何言ってんだこいつ。
面と向かっての変態発言に、言われた委員長は、返す言葉もなく、げんなりとした表情だ。
彼、虎月院竜司、通称『男爵』は、ゲームでは攻略対象キャラだった。
ネタキャラみたいな見た目と性格だけど、これが結構な曲者なのだ。
一度ルートに入ってしまうと、朝から晩まで付け回された挙げ句、彼の、お城みたいな自宅の地下牢に監禁される。
そこでヒロインはあんなことやこんなことをされるんだけど、最終的には、彼が改心してハッピーエンド。
「男爵殿、そろそろ先生が来るぞ」
ちなみに、口ひげは設定で非表示にできる。
彼のルートに入るには、正に今日、通学路で彼とぶつかる必要があった。
ゲームの中でならまだしも、現実で彼の相手をするのは、ちょっと無理がある。
回避して正解だ。
「おっと、あっぶね。委員長、自覚だぜ、自覚」
男爵に声を掛けた、別の男子生徒。彼も攻略キャラだ。
黒髪眼鏡の地味な外見で、中身はマッドな生物学者。自宅でエイリアンっぽい危険生物を飼育している。
彼は大学の研究室に行っていることが多く、ルートの開始地点もそっちの方にある。だから、普通にしていれば危険はない。
「まったく、あんまりひどいと、先生に言って注意してもらいますよ」
*
ふさふさ。白い髪。仙人。一番の強敵だ。
「——では、こんなもんでしょうか。今日はここまで。ちゃんと復習してくださいねー」
国語の先生が——この人も攻略対象だ——へらへらと手を振りながら出ていく。
問題はそちらではなく、私の右斜め前方に座る男子生徒だ。
「あっ、そうだ、恋歌さん!」
お昼はどこで食べるのが最適か、私が考え始めたところで、桜子が出し抜けに大きな声を上げた。
「なっ、何かな!」
釣られて私も大声で反応してしまった。
教卓に向かって一番右側、廊下側の一番前が、桜子の席だ。
実は、ゲーム時代の彼女はヒロインの親友、攻略を手伝うお助けキャラだった。だから今日まで、可能な限り接触を避けてきた。
「れん……か……?」
やばい。仙人が反応してる。
「尾台恋歌……れん……レン……」
実は、彼は私の、ヒロインの幼なじみキャラなのだ。気付かれないように、うっかりルートに入ってしまわないように、他人の振りを続けてきたけど。
「……レン? 君って……」
望月晴夜。伸び放題の白髪の下から、透き通るような青い目が、私を捉える。
「やっ、やあ……シアン……。おひさー、なんちゃって……」
これって、アウトだろうか。桜子は私を……。
「レン! 会いたかった! こんな近くにいたなんて!」
ゲーム時代とは違うけど、これはルートに入り掛けている状態だ。
もう手遅れ? まだ逃げられる?
どっちにしても私は。
「そっ、そうだね……。私も気付かなかったー……あはははは……」
全力で恋愛を回避する。
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