デスマラ走者の朝は早い
自動復活後に再スタートだ。
死亡回数1回目にして、称号というものを2種類入手した。
"一石二鳥"という大昔のことわざが頭をよぎったが、妙な気分になったので、すぐに記憶から消した。
Nプログラム[No.0]の動作に異常はない。……いや、生身に作用する種類のNプログラムだ。アバター体でも処理されるというのは、かなり異常なことだろう。
まさかとは思うが、脳細胞1つ1つまで再現しているんだろうか?
1度、体内スキャン用のNプログラムを走らせ――。
(――しまった。そういえば作ってないじゃん)
いつもマニュアル操作で調べてたんだ。
全身のナノマシン占有率の関係で、フルスキャンに苦労は無かったし、わざわざNプログラムに書き起こすような複雑な処理でもなかったから。
仕方がないので手動で処理……そしてスキャン結果が出た、が?
(……なんだこれ?)
得られた情報は、理解不能な情報の山だった。
元データであるアバターPと類似点はある。しかし、これは……ぅーん?
理解しようとすると、ガリガリ正気度が減っていくような、気が――中断。
「ぅぐっ」
ひとまず棺から出て、死亡地点の手前まで戻ってきた。
地下通路の出口は、城の中庭にある噴水のギミック付きの隠し扉に繋がっている。
ここまでは日陰で、ここから先が日向。つまり吸血鬼にとっての死地である。
(すぐに復活はできるし、一通り検証作業だなぁ)
とりあえず、焼いてみる事にした。
日陰から左腕だけ出して、太陽に向かってグッドサイン。
光に照らされ、蒸気が出て……そして突如、腕が発火!
「――ぐぅ!?」
痛みは軽微。視界が炎に包まれるなか、慌てず変化を観察する。
炎の色は赤色だ。炎上する端から灰に変わっている。アバター内の体組織は、本当に細胞単位で生成されていたようだ。骨どころか神経まで見えるぞ。
そして体だけじゃなく服も、太陽光で燃えている。
……あ、ダメだな。このままだと全身燃えそう。
「ばばばばっ」
日陰の石階段をゴロゴロ転がり降りて、鎮火することに成功した。
腕は……根元から炭化して失われているな。痛みが薄いので分かり辛いが、髪や皮膚も炎に炙られたらしい。
生々しい怪我の描写に加えて、部位欠損まで有りとは、これまた問題になりそうなシステムだった。
「んーむ……」
――しばらく待つこと30秒。
髪や皮膚については、完全に元通りになった。しかし焼かれた服はそのままだし、腕も失ったまま。
一応、日陰なら自然治癒は正常に働くようで、ニョリニョリと少しずつだが生えてきてる……が、遅い。
太陽由来の負傷だからか? 治りが妙に遅い。下手すると、リアルよりも遅いなこれ。
(完治を待つのも面倒だ。死に戻るかぁ……)
とりあえず無事な方の腕をもいで、床に置いた後、太陽の下へ飛び出した。
タダで死ぬのは勿体ない。ついでに最初に死んだ地点へ移動する。
視力を失う前に確認ができたぞ。焼け跡が地面に残ってる。けど――
「ナぃィィぃぃッ……」
――が、他には何も残ってなかった。
死亡回数2回。
◆
棺で復活。すくりと起き上がってダッシュで戻る。
腕を置いた場所に来たが、やっぱり何もなかった。
どうやらプレイヤーの遺体は、復活時に消滅するらしい。
素材の無限生産はできない仕様のようだ。少なくともプレイヤーでは。
多人数参加型のゲームを避けていた理由の一つ。PK[プレイヤーキル]をされる可能性が減るな。
もっとも世の中には、メリットが0でも可能ならヤル。という変わり者がいるので安心はできない。
それに女性アバターだ。なおさら用心していこう。
改めて全身を確認すると、焼け痕はなく綺麗さっぱり治っている。
ついでに衣服も……新品に戻っている?
「……は? まさか自動修復ッ…………クぅっ!」
油断していたらコレだ。羞恥心で精神体がバグりかけた。
息を止めて、思考の乱れを整える。
(……よし)
――気を取り直して、服を脱ごう。
服を、脱ぐのだ。
いや割と真面目な検証のために脱ごう、と思ったのだが……手が不自然に止まって、これ以上動かない。
……アバターに拒絶反応?
違うか。よくよく考えてみれば女性物の衣服、それもドレスの脱ぎ方なんて知らないことに気付いた。
それが原因だろう。
「ふん!」
なので、とりあえず引き千切った。吸血鬼のパワーは伊達ではない!
服の下から現れたのは、大した起伏も無いフラットボディ。ゲーム内アバターという点を抜きに見ても、欲情できる余地が無いお子様ボディだった。
表面はぴっちりとした黒インナーに覆われており、多少伸縮はするがどう頑張って引っ張っても破れない。正確には、破れる力を籠められない。
ここに明確なシステム干渉がある。ODOはR18仕様ではなかったらしい。
(そんじゃ、次)
無惨な姿になったドレスを、修復不可能と考えられる状態まで破く。ビリビリビリと丁寧に。
生成した桃色の布切れを、その辺にばら撒いてから――もう1回中庭に突撃、炎上!
「ァチャー!」
死亡回数3回目。新たな称号はなし。
そして数秒待って――復活。そろそろ慣れてきたぞ。
肝心の衣服、ピンク色のドレスは……完全修復されて、身に纏っていた。
(…………呪いか?)
どうやらこの初期衣服、呪いの装備らしかった。
◆
それから検証がてら何回か燃えていたら、新たな称号を手に入れた。
――――――――――――――――
称号獲得:『生きる屍』New!
取得条件:誰も倒せず連続13回死亡
転生可能:不死者/腐人
・あなたは既に不死者のため転生できません
※拠点『儀式用の石棺』で復活:残り5秒
ログアウトしますか? →『いいえ』『はい』
――――――――――――――――
え、なにこの称号。普通に嫌なんだけど。
「………………スンすン」
無意識に服の匂いを嗅いでいた。――無臭だった。良かった。
ひとまず検証を続行する。更に80回ほど燃えてみる。
「ウボァー!」
ルートを変えつつ、全力ダッシュして建物の日陰まで特攻する。たどり着く前に燃え尽きた。
この城、バカみたいな名称に反して、とてつもなく広い。あと隠し扉のある噴水が、中庭において非常に嫌らしい位置にある事が分かった。
日が昇ってさえいれば、どの時間帯でも太陽光が差し込んでくる構造だ。ぜったいに吸血鬼を焼き殺すという執念すら感じる。
試しに地下室から棺の蓋を持ち出して、日傘代わりにもしてみた。
地面からの照り返しで普通に燃えた。追い打ちで蓋に潰された。
それから土まみれになったり、雑草まみれになったり、跳んだり跳ねたり。
多岐に渡り検証してみた結果――。
この吸血鬼という種族は、太陽光が本当に駄目だという事が理解できた。
スライムの方がマシだったかも知れないと考えて、すぐそれは無いと否定した。スライムは無いさ、うん。
一応、太陽光を防げる方法は発見した。
それは棺の本体の方を裏返しにして、背中に被って地面を這って移動するという、半分くらい人としての尊厳を捨てたカタツムリ型移動法だ。棺の移動に伴って、復活地点も移せるようだ。
ただこれは、ちょっとリスクが高すぎるうえ、後の検証にも使用するので中断した。
日光下に放置していた蓋だけは、頑張って回収してきた。
そんな感じで死にまくれば、当然同じ回数だけ復活もする。
復活については、ほんのわずかに疲労感が発生するくらい。
回収した棺の蓋で筋力を比較してみても、初期と93回死亡後とで身体能力に変化はなかった。
キャラ性能に関わるような復活ペナルティがない。なんともぬるい仕様だった。
◆
(んじゃ次は、称号だな)
持ってる称号は最初の2つ『死に急ぎ不死者』と『敏感お肌』と、追加の『生きる屍』か……。
まあ、あと数回で死亡回数100回だし、検証前にキリよく燃えてみようか。
「イアー!」
プラス7回死亡。
日向まで徒歩10秒の距離なので、2分ほどで終わった。
――――――――――――――――
称号獲得:『太陽の敵』New!
取得条件:太陽光で100回死亡
セット効果:太陽から受ける悪影響が1.25倍
・称号『敏感お肌』が外れました
・称号についてご質問があれば最寄りの虹竜シュガーくんへご相談下さい
※拠点『儀式用の石棺』で復活:残り5秒
ログアウトしますか? →『いいえ』『はい』
――――――――――――――――
(おぉっ……ぉー???)
"最寄りの"って何だよ。あのシュガーとかいうの、複数体いるのか? 量産されてるの?
あと勝手に『敏感お肌』が外れて『太陽の敵』が手に入った。上位互換……でもないな。
取得条件にHP回復分が無くなって、効果も悪影響に限定されている。派生の称号だろうか?
影響が増えて何の役に立つんだよっていう話だが、少なくともこうして称号習得には役立ったわけだ。
称号の効果がある間は、更に太陽光で迅速に死亡できそうだ。
(称号……称号ねぇ?)
称号。何者かに称される号。他者ありきの存在およびシステム。
方法は不明だが切り替え可能で、アバターの機能が極端に変更出来るようだ。
(その一方で、職業は変更時にレベルが必ずリセットされる……)
それらを踏まえと、称号とはアバター由来の能力ではなく、外付けの機能のように思える。
N1000もしくは虹竜シュガー(GM)からの、システムサポートといったところか?
N1000いわく、ODOはナノマシンの最適化プログラム。
ゲーム内アバターの成長または行動を通じて、体内のナノマシンを調整するようだ。
これまでの死亡と復活は、何の最適化に繋がるかは不明だ。推測はできるが……わざわざ称号という補助をかけてまで行為を促すくらいだ。一方的に悪いようにはならないだろう。
悪意の権化のような存在なら、オレはもう既に消滅しているだろうし。
(ほかにも称号があるなら、取り敢えず取ってみるか……)
検証というよりは、コレクター精神とか好奇心だな。
リアルで死んだ経験はないので、灰になるという感覚も、復活するという感覚も、新鮮でちょっと楽しかったりする。
いわゆるゲームでしか味わえない新感覚というやつだろう。サイバー空間が普及した現代になっても、ゲーマーが絶えない理由はこれだな。
(日没まで他にやれる事もないし。特殊死亡で称号取れるんなら、デスマラソン1万周だなぁ)
1回と100回で称号。次取れるとしたら10,000回だろう。
8秒で1デッド。半日かければ5500デッドはいけるな。
リアル時間で1日、ゲーム内時間でも2日あれば取れる。楽勝だ。
当面の目標は決まった。さっそく石の棺の本体を持ち上げて、屋外に運ぶ。
さっきも運んだが、本体は蓋に比べて3倍近くの重さがある。そうとうに重い。
何回か指で叩いて音速を確認。色は黒、となると石は石でも鉄マンガン重石だな。
質量は2.75~2.94[t]か。どおりで重いわけだ。
素で持ち運べる吸血鬼も吸血鬼だが、作ったやつも作ったやつだ。
(ずいっーとな)
運び終えた棺を押して押して、ダメ押しにドロップキック! これで準備は完了だ。
あとは一度燃えたら放置。太陽が日没まで自動処理してくれるだろう。
「っし。ヘァー!」
善は急げと、屋外に華麗にヘッドスライディング――着火!
今回はひと味違うようだ。炎の色が青色に変化していた。
それに、速い。称号の影響で火力がパワーアップしたのか?
「ふぁー!!」
全身が爆ぜ散る! 爆発的な燃焼速度だ、新感覚だ!
吸血鬼は新世代の燃料になりうる。これは勝ったな!!
◆~1時間経過~◆
死亡回数600回目。
開始直後は気力に満ちていたのだが、さすがにテンションが続かなかった。
ひたすら炙られるというのは、どうもかなりの苦行だったらしい。舐めてた。
「ぐぬぬうぬぬうぅ……」
だがまだ1時間だ。勝負はこれからなのだ。
◆~2時間経過~◆
――――――――――――――――
称号獲得:『名誉ゾンビちゃん』New!
取得条件:生者を倒さず連続で1000回死亡
セット効果:所持品が腐りやすくなる
・既に2つの称号がセットされているため、新たな称号がセットできません
・称号についてご質問があれば最寄りの虹竜シュガーくんへご相談下さい
※拠点『儀式用の石棺』で復活:残り5秒
ログアウトしますか? →『いいえ』『はい』
――――――――――――――――
「ぅぅぅ……ぅっ?」
1000回目の称号も、一応あるのか。はやい。
効果は、まぁいいそのまま続行だ。オレは負けない!
◆~6時間経過~◆
そろそろ、死亡回数3000回くらい、いったか……。
「ぶぅぉぁぁぁ……」
なんでオレ、こんなことやってんだろぅな? 馬鹿じゃないの?
でも、今さら止めるのも悔しいしなぁ……。
◆~8時間経過~◆
んっ……な、ん回目、だっけ。
そろそろ4000いく感じ、か?
「ひゃああおぉおぉおおおぉ……」
あぁ、アホみたいな鳴き声だとおもったら、オレの声だった。
こえ出してると、なんか思考が、クリアな感じにとけてくるんだよなぁ……。
こえーなこれ……。まぁいいか、あとちょっとだし……。
◆~12時間経過~◆
ぁー。
ぇっ、おわった?
「……!?」
日が沈んだ。ので、燃えなくなった。……ので、終わったっぽい!
10時間くらい燃えつづけて、回数は5000近くいった、だろう?
じかんの感覚が、おかし。たぶんいった。ヨシ!
「……ふっ、今日は……これで、許してやろぅ……」
一生分死んだ気分だ。さすがに、死ぬほど疲れた。
いったんログアウトするか。ぁーでも、どうやって自害しょ……。
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※拠点『儀式用の石棺』で就寝中です
ログアウトしますか? →『いいえ』『はい』
――――――――――――――――
ぁ、棺で眠るとできるの、吸血鬼っぽいね?
『はい』選択して、さよならー。
……ひさびさに温泉ゆっくり入ろ。




