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トランスブレイク  作者: ホウ狼
第1章:目覚めるP
9/39

デスマラ走者の朝は早い

 自動復活後に再スタートだ。


 死亡回数1回目にして、称号というものを2種類入手した。

 "一石二鳥"という大昔のことわざが頭をよぎったが、妙な気分になったので、すぐに記憶から消した。


 Nプログラム[No.0]の動作に異常はない。……いや、生身に作用する種類のNプログラムだ。アバター体でも処理されるというのは、かなり異常なことだろう。

 まさかとは思うが、脳細胞1つ1つまで再現しているんだろうか?

 1度、体内スキャン用のNプログラムを走らせ――。


(――しまった。そういえば作ってないじゃん)


 いつもマニュアル操作で調べてたんだ。

 全身のナノマシン占有率の関係で、フルスキャンに苦労は無かったし、わざわざNプログラムに書き起こすような複雑な処理でもなかったから。

 仕方がないので手動で処理……そしてスキャン結果が出た、が?


(……なんだこれ?)


 得られた情報は、理解不能な情報の山だった。

 元データであるアバターPと類似点はある。しかし、これは……ぅーん?

 理解しようとすると、ガリガリ正気度が減っていくような、気が――中断。


「ぅぐっ」


 ひとまず棺から出て、死亡地点の手前まで戻ってきた。

 地下通路の出口は、城の中庭にある噴水のギミック付きの隠し扉に繋がっている。

 ここまでは日陰で、ここから先が日向。つまり吸血鬼にとっての死地である。


(すぐに復活はできるし、一通り検証作業だなぁ)


 とりあえず、焼いてみる事にした。


 日陰から左腕だけ出して、太陽に向かってグッドサイン。

 光に照らされ、蒸気が出て……そして突如、腕が発火!


「――ぐぅ!?」


 痛みは軽微。視界が炎に包まれるなか、慌てず変化を観察する。

 炎の色は赤色だ。炎上する端から灰に変わっている。アバター内の体組織は、本当に細胞単位で生成されていたようだ。骨どころか神経まで見えるぞ。

 そして体だけじゃなく服も、太陽光で燃えている。


 ……あ、ダメだな。このままだと全身燃えそう。


「ばばばばっ」


 日陰の石階段をゴロゴロ転がり降りて、鎮火することに成功した。

 腕は……根元から炭化して失われているな。痛みが薄いので分かり辛いが、髪や皮膚も炎に炙られたらしい。

 生々しい怪我の描写に加えて、部位欠損まで有りとは、これまた問題になりそうなシステムだった。


「んーむ……」


 ――しばらく待つこと30秒。

 髪や皮膚については、完全に元通りになった。しかし焼かれた服はそのままだし、腕も失ったまま。

 一応、日陰なら自然治癒は正常に働くようで、ニョリニョリと少しずつだが生えてきてる……が、遅い。

 太陽由来の負傷だからか? 治りが妙に遅い。下手すると、リアルよりも遅いなこれ。


(完治を待つのも面倒だ。死に戻るかぁ……)


 とりあえず無事な方の腕をもいで、床に置いた後、太陽の下へ飛び出した。

 タダで死ぬのは勿体(もったい)ない。ついでに最初に死んだ地点へ移動する。

 視力を失う前に確認ができたぞ。焼け跡が地面に残ってる。けど――


「ナぃィィぃぃッ……」


 ――が、他には何も残ってなかった。

 死亡回数2回。



 ◆



 棺で復活。すくりと起き上がってダッシュで戻る。

 腕を置いた場所に来たが、やっぱり何もなかった。


 どうやらプレイヤーの遺体は、復活時に消滅するらしい。

 素材の無限生産はできない仕様のようだ。少なくともプレイヤーでは。

 多人数参加型のゲームを避けていた理由の一つ。PK[プレイヤーキル]をされる可能性が減るな。

 もっとも世の中には、メリットが0でも可能ならヤル。という変わり者がいるので安心はできない。

 それに女性アバターだ。なおさら用心していこう。


 改めて全身を確認すると、焼け痕はなく綺麗さっぱり治っている。

 ついでに衣服も……新品に戻っている?


「……は? まさか自動修復(しゅーふきゅ)ッ…………クぅっ!」


 油断していたらコレだ。羞恥心で精神体がバグりかけた。

 息を止めて、思考の乱れを整える。


(……よし)


 ――気を取り直して、服を脱ごう。


 服を、脱ぐのだ。

 いや割と真面目な検証のために脱ごう、と思ったのだが……手が不自然に止まって、これ以上動かない。

 ……アバターに拒絶反応?

 違うか。よくよく考えてみれば女性物の衣服、それもドレスの脱ぎ方なんて知らないことに気付いた。

 それが原因だろう。


「ふん!」


 なので、とりあえず引き千切った。吸血鬼のパワーは伊達ではない!

 服の下から現れたのは、大した起伏も無いフラットボディ。ゲーム内アバターという点を抜きに見ても、欲情できる余地が無いお子様ボディだった。

 表面はぴっちりとした黒インナーに覆われており、多少伸縮はするがどう頑張って引っ張っても破れない。正確には、破れる力を籠められない(・・・・・・)

 ここに明確なシステム干渉がある。ODOはR18仕様ではなかったらしい。


(そんじゃ、次)


 無惨な姿になったドレスを、修復不可能と考えられる状態まで破く。ビリビリビリと丁寧に。

 生成した桃色の布切れを、その辺にばら撒いてから――もう1回中庭に突撃、炎上!


「ァチャー!」


 死亡回数3回目。新たな称号はなし。

 そして数秒待って――復活。そろそろ慣れてきたぞ。


 肝心の衣服、ピンク色のドレスは……完全修復されて、身に纏っていた。


(…………呪いか?)


 どうやらこの初期衣服、呪いの装備らしかった。



 ◆



 それから検証がてら何回か燃えていたら、新たな称号を手に入れた。


――――――――――――――――

 称号獲得:『生きる屍』New!

 取得条件:誰も倒せず連続13回死亡

 転生可能:不死者(アンデッド)/腐人(ゾンビ)


・あなたは既に不死者(アンデッド)のため転生できません


※拠点『儀式用の石棺』で復活:残り5秒

 ログアウトしますか? →『いいえ』『はい』

――――――――――――――――


 え、なにこの称号。普通に嫌なんだけど。


「………………スンすン」


 無意識に服の匂いを嗅いでいた。――無臭だった。良かった。

 ひとまず検証を続行する。更に80回ほど燃えてみる。


「ウボァー!」


 ルートを変えつつ、全力ダッシュして建物の日陰まで特攻する。たどり着く前に燃え尽きた。

 この城、バカみたいな名称に反して、とてつもなく広い。あと隠し扉のある噴水が、中庭において非常に嫌らしい位置にある事が分かった。

 日が昇ってさえいれば、どの時間帯でも太陽光が差し込んでくる構造だ。ぜったいに吸血鬼を焼き殺すという執念すら感じる。


 試しに地下室から棺の蓋を持ち出して、日傘代わりにもしてみた。

 地面からの照り返しで普通に燃えた。追い打ちで蓋に潰された。


 それから土まみれになったり、雑草まみれになったり、跳んだり跳ねたり。

 多岐に渡り検証してみた結果――。


 この吸血鬼という種族は、太陽光が本当に駄目だという事が理解できた。

 スライムの方がマシだったかも知れないと考えて、すぐそれは無いと否定した。スライムは無いさ、うん。


 一応、太陽光を防げる方法は発見した。

 それは棺の本体の方を裏返しにして、背中に被って地面を這って移動するという、半分くらい人としての尊厳を捨てたカタツムリ型移動法だ。棺の移動に伴って、復活地点も移せるようだ。

 ただこれは、ちょっとリスクが高すぎるうえ、後の検証にも使用するので中断した。

 日光下に放置していた蓋だけは、頑張って回収してきた。


 そんな感じで死にまくれば、当然同じ回数だけ復活もする。

 復活については、ほんのわずかに疲労感が発生するくらい。

 回収した棺の蓋で筋力を比較してみても、初期と93回死亡後とで身体能力に変化はなかった。

 キャラ性能に関わるような復活ペナルティがない。なんともぬるい仕様だった。



 ◆



(んじゃ次は、称号だな)


 持ってる称号は最初の2つ『死に急ぎ不死者』と『敏感お肌』と、追加の『生きる屍』か……。

 まあ、あと数回で死亡回数100回だし、検証前にキリよく燃えてみようか。


「イアー!」


 プラス7回死亡。

 日向まで徒歩10秒の距離なので、2分ほどで終わった。


――――――――――――――――

 称号獲得:『太陽の敵』New!

 取得条件:太陽光で100回死亡

 セット効果:太陽から受ける悪影響が1.25倍


・称号『敏感お肌』が外れました

・称号についてご質問があれば最寄りの虹竜シュガーくんへご相談下さい


※拠点『儀式用の石棺』で復活:残り5秒

 ログアウトしますか? →『いいえ』『はい』

――――――――――――――――


(おぉっ……ぉー???)


 "最寄りの"って何だよ。あのシュガーとかいうの、複数体いるのか? 量産されてるの?


 あと勝手に『敏感お肌』が外れて『太陽の敵』が手に入った。上位互換……でもないな。

 取得条件にHP回復分が無くなって、効果も悪影響に限定されている。派生の称号だろうか?

 影響が増えて何の役に立つんだよっていう話だが、少なくともこうして称号習得には役立ったわけだ。

 称号の効果がある間は、更に太陽光で迅速に死亡できそうだ。


(称号……称号ねぇ?)


 称号。何者かに称される号。他者ありきの存在およびシステム。

 方法は不明だが切り替え可能で、アバターの機能が極端に変更出来るようだ。


(その一方で、職業は変更時にレベルが必ずリセットされる……)


 それらを踏まえと、称号とはアバター由来の能力ではなく、外付けの機能のように思える。

 N1000もしくは虹竜シュガー(GM)からの、システムサポートといったところか?


 N1000いわく、ODOはナノマシンの最適化プログラム。

 ゲーム内アバターの成長または行動を通じて、体内のナノマシンを調整するようだ。


 これまでの死亡と復活は、何の最適化に繋がるかは不明だ。推測はできるが……わざわざ称号という補助をかけてまで行為を促すくらいだ。一方的に悪いようにはならないだろう。

 悪意の権化のような存在なら、オレはもう既に消滅しているだろうし。


(ほかにも称号があるなら、取り敢えず取ってみるか……)


 検証というよりは、コレクター精神とか好奇心だな。

 リアルで死んだ経験はないので、灰になるという感覚も、復活するという感覚も、新鮮でちょっと楽しかったりする。

 いわゆるゲームでしか味わえない新感覚というやつだろう。サイバー空間が普及した現代になっても、ゲーマーが絶えない理由はこれだな。


(日没まで他にやれる事もないし。特殊死亡で称号取れるんなら、デスマラソン1万周だなぁ)


 1回と100回で称号。次取れるとしたら10,000回だろう。

 8秒で1デッド。半日かければ5500デッドはいけるな。

 リアル時間で1日、ゲーム内時間でも2日あれば取れる。楽勝だ。


 当面の目標は決まった。さっそく石の棺の本体を持ち上げて、屋外に運ぶ。

 さっきも運んだが、本体は蓋に比べて3倍近くの重さがある。そうとうに重い。

 何回か指で叩いて音速を確認。色は黒、となると石は石でも鉄マンガン重石だな。

 質量は2.75~2.94[t]か。どおりで重いわけだ。

 素で持ち運べる吸血鬼も吸血鬼だが、作ったやつも作ったやつだ。


(ずいっーとな)


 運び終えた棺を押して押して、ダメ押しにドロップキック! これで準備は完了だ。

 あとは一度燃えたら放置。太陽が日没まで自動処理してくれるだろう。


「っし。ヘァー!」


 善は急げと、屋外に華麗にヘッドスライディング――着火!

 今回はひと味違うようだ。炎の色が青色に変化していた。

 それに、速い。称号の影響で火力がパワーアップしたのか?


「ふぁー!!」


 全身が爆ぜ散る! 爆発的な燃焼速度だ、新感覚だ!

 吸血鬼は新世代の燃料になりうる。これは勝ったな!!



 ◆~1時間経過~◆



 死亡回数600回目。

 開始直後は気力に満ちていたのだが、さすがにテンションが続かなかった。

 ひたすら炙られるというのは、どうもかなりの苦行だったらしい。舐めてた。


「ぐぬぬうぬぬうぅ……」


 だがまだ1時間だ。勝負はこれからなのだ。



 ◆~2時間経過~◆



――――――――――――――――

 称号獲得:『名誉ゾンビちゃん』New!

 取得条件:生者を倒さず連続で1000回死亡

 セット効果:所持品が腐りやすくなる


・既に2つの称号がセットされているため、新たな称号がセットできません

・称号についてご質問があれば最寄りの虹竜シュガーくんへご相談下さい


※拠点『儀式用の石棺』で復活:残り5秒

 ログアウトしますか? →『いいえ』『はい』

――――――――――――――――


「ぅぅぅ……ぅっ?」


 1000回目の称号も、一応あるのか。はやい。

 効果は、まぁいいそのまま続行だ。オレは負けない!



 ◆~6時間経過~◆



 そろそろ、死亡回数3000回くらい、いったか……。


「ぶぅぉぁぁぁ……」


 なんでオレ、こんなことやってんだろぅな? 馬鹿(ばっか)じゃないの?

 でも、今さら止めるのも悔しいしなぁ……。



 ◆~8時間経過~◆



 んっ……な、ん回目、だっけ。

 そろそろ4000いく感じ、か?


「ひゃああおぉおぉおおおぉ……」





 あぁ、アホみたいな鳴き声だとおもったら、オレの声だった。

 こえ出してると、なんか思考が、クリアな感じにとけてくるんだよなぁ……。

 こえーなこれ……。まぁいいか、あとちょっとだし……。



 ◆~12時間経過~◆





 ぁー。





 ぇっ、おわった?


「……!?」


 日が沈んだ。ので、燃えなくなった。……ので、終わったっぽい!

 10時間くらい燃えつづけて、回数は5000近くいった、だろう?

 じかんの感覚が、おかし。たぶんいった。ヨシ!


「……ふっ、今日(きょー)は……これで、許してやろぅ……」


 一生分死んだ気分だ。さすがに、死ぬほど疲れた。

 いったんログアウトするか。ぁーでも、どうやって自害しょ……。


――――――――――――――――

※拠点『儀式用の石棺』で就寝中です

 ログアウトしますか? →『いいえ』『はい』

――――――――――――――――


 ぁ、棺で眠るとできるの、吸血鬼っぽいね?

 『はい』選択して、さよならー。


 ……ひさびさに温泉ゆっくり入ろ。

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